パリスの審判
そしてその次の晩、大神ゼウスが3柱の女神を引き連れて僕のもとに訪れた。
「パリスよ、誰に黄金のリンゴを渡すか決めたか?」
「はい。」
「では、早速じゃがおぬしの裁定を聞こう。3柱とも恨みっこなしじゃ。パリスとの約束を違えれば、わし直々に神罰を下す。よいな。」
「ホッホッホッホッ。そのようなこと、わらわに決まっておるのじゃ、問題なかろう。」
「義母さま、申し訳ありませんが、それは私に決まってますわ。ちゃんと約束は守りますわ。」
「わ、わたくしですよね?パリスさん!お願いします。」
「何を言っておる。わらわじゃ。」
「私ですわ。」
「パリスさん、お願い!」
「では、裁定をお伝えします。みなさまにこれを差し上げます。」
と3人の目の前には、3分の1づつにカットされた黄金のリンゴがあった。
「こ、これはなんじゃ?」と肩を震わせるヘーラー。
「黄金のリンゴですが何か?」
「そうではなく、なぜ切ってしもうた?」
「そう、そうです。私の黄金の林檎を!!」と今にも手に持った剣で切りかかりそうなアテーナー。
「いりませんか?」
「い、いいえ、そんなことは言ってませんわ。でも…」
「…」
「みなさまとてもお美しいです。その中で誰が一番美しいかなんて何か意味ありますか?
争いは醜いものです。争いは3柱のお美しさを損ないます。3柱ともとても美しい。それで十分じゃありませんか。
黄金の林檎は、それぞれ3分の1ずつ差し上げます。」
アプロディーテは納得の表情を浮かべるが、ヘーラーとアテーナーはきょとんとしている。
「ですので、みなさんが提示してくださった条件も、3分の1ずついただきますね。」
「え?」「え?」
「い、いまなんて?」
「ですから、みなさんが提示してくださった条件も、3分の1ずついただきますね。」
「でっと、その前です!その前!!」
「黄金の林檎を3分の1ずつ差し上げます。」
「え~!」
ヘーラーとアテーナーは不満げな顔はしているが、パリスのスキルにより異を唱えることができない。
「ヘーラー様からはアシアの君主同等のお金の3分の1をいただきます。
それから無限は3分の1でも無限なので無限収納はそのままいただきますね。」
「いや、でもじゃ、しかしじゃっ…うぅ…」
そこまで言ってヘーラーの口からは言葉が出ない。
「要らないのでしたら。」
「ちょっと待て、いらぬとは申しておらぬ。わ、わかった。そ、それで手を打ってしんぜよう…」
「アテーナー様は任意のスキル3つでしたね。では3分の1でスキル1つをいただきますね。」
「で、でも、それは…うぅ…」
そこまで言ってアテーナーの口からは言葉が出ない。
「要らないのでしたら。」
「ま、待ってよ。いらないなんて言ってないわよ!そ、それで手を打つわよ!」
「アプロディーテ様は地上で最も美しい女性3人でしたね。3分の1なので1人お願いしたいのですが、ヘレネーさん以外の残りの二人って見つかりましたか?」
「いいえ…まだ…」
「では、ヘレネーさんでよろしくお願いします。」
「はい、わかりました。」
ヘーラーとアテーナーも不満げな表情を浮かべながらも裁定を受け入れ、3柱ともその場を立ち去った。
「パリス。見事な裁定だったぞ。これであの3柱も懲りたじゃろうて。3柱には約束は守らせる。安心せよ。かっ、かっ、かっ」
とどこかの黄門さまのような大神ゼウスの笑い声が響いた。
(かっ、かっ、かっ、さすが転生者のやる事は読めんのう。まさか三人に三分の一づつ渡すとは。しかしパリスよ、そなたは大岡裁きのつもりかもしれぬが、美に対する女の執着は並々ならぬものじゃ。これでは終わらぬぞ。これからも面白くなりそうじゃ。かっ、かっ、かっ。)