トラキア
簡単な地図を作ってみました。パリス一行は右のアシアのイデ山からダーダネルス海峡を渡ってトラキアに入ります。
僕たちはイリオスのあるアシアからトラキアの間に横たわるダーダネルス海峡海峡を船で渡った後、お金も時間もあるので、なるべく町や村で宿をとることにし、大きな街道をのんびり進んだ。
シュッ!
「毎度毎度、可愛い見た目しながら襲ってきやがって。」
「パリスさま、いくら角ウサギが弱い魔物だと言ってももっと真剣に戦ってください。油断すると大けがしますよ。」
「ごめん。あまりに多くて飽きてきちゃった。」
トラキアの街道ではスライムや角ウサギが襲ってきた。最初は戦いに慣れてなかったからか緊張した。そして剣の修行だと思って真剣に戦っていたのだが、特別なスキル持ちも少ないうえに弱い魔物だ。たまに遭遇するスキル持ちの【スキル移動】にも失敗する。そしてそんな最弱の魔物とのエンカウント率が高すぎて飽きていた。
「あ、そうだ。アプロディーテの【隷属魔法】って、どんな相手でも隷属させられるの?」
「いいえ、隷属を了承した者にしか有効になりません。」
「やっぱりそうなんだ。誰にでもかけられれば無敵だと思ったんだけど、そんなうまい話はないよね。」
「アプロディーテの【魅了】って、どんな相手でも魅了できるの?」
「いいえ。私を信仰していないと魅了できません。」
「やっぱりそうなんだ。敵を魅了状態にできれば、魔物に襲われてもかなり有利に戦えると思ったんだけど、そんなうまい話はないよね。」
「お役にて立てず、申し訳ございません。」
「いや、ごめん。ぜんぜん役に立ってるよ。ただもっと楽できないかなぁ~って思っただけだから。ダメだよね、楽することばかり考えちゃ。」
町に入り、角ウサギの毛皮と肉を売り、そのお金で飯屋で晩飯を食べた後、宿屋に行きアプロディーテと別々で2部屋取ろうとするが、
「パリスさま、いくらお金があるとは言え、贅沢はいけません。」と大量の服を爆買いしたアプロディーテが言う。
「じゃぁ、1部屋でお願いします。」
「ダブルでよろしいですか?」
「ん?え~と、じゃぁ、それで。あと体を拭きたいので水をお願いします。」
「わかりました。水はすぐお持ちします。」
宿屋から渡された鍵で部屋を開けると、そこには1つのダブルベッドが置いてあった。
「あ、ダブル?しまった。ごめん。ごめん。ツインにしなきゃだめだよね?部屋を変えて…」
「今日は長く歩いて疲れたのでさっさとお休みしましょう。」と、アプロディーテはさっさと部屋に入り防具を脱ぎ軽装になる。
そして、すぐに宿屋の親父が体を拭く水を持ってきて、「ごゆっくり」と言って去っていった。
「パリスさま、お体をお拭きしますので服を脱いでください。」
「え、あ、いいよ、いいよ。大丈夫。自分でやるから。」
「いいえ、隷属している者は奴隷と同じです。それくらいはさせてください。」
僕は後ろを向いて服を脱ぎ、アプロディーテに背を向け座った。
「お背中の傷、どうなされたのですか?」
「羊飼いの時、鞭で打たれた時の傷だね。もうどうってことないよ。」
「お労しい。私に傷を癒すスキルがあればよかったのですけど…」とアプロディーテは左手の中指で僕の背をそっとなぞった。
思春期の体の背筋がゾクゾクとする。
が、僕の俺が反応してしまっていることを悟られないように必死に耐えた。
そしてアプロディーテの吐息を首筋に感じる。あ、だめだ。思春期の男の子にそんなことしちゃ!
「あ、アプロディーテは体拭かなくていいの?僕、その間、部屋出てるから。」と、慌てて服を着なおしながら聞くが、
アプロディーテは、「お気遣いありがとうございます。私は神ですので、汚れは付きません。もう時間も遅いですので休みましょう。」と言いい、さっさとベッドに入ってしまった。
「じゃぁ、僕は床で…」
「パリスさま、これだけ広いベッドがあるのですが、ちゃんとベッドで寝てください。私知ってますよ、ベッドで寝たいって、毎晩祈ってましたよね。」
「そ、そうだね。」
僕も平然を装いながらも仕方なしにベッドに入る。
隣で僕の方を向いて幸せそうに眠る彼女の美貌、そして横向きになって腕で挟み込まれる形になりシャツの胸元から豊かな胸が【暗視】スキルではっきり見えてしまう。
パッシブスキルではどうしようもない。見えてしまうものは見えてしまう。いや見てしまうのだ。
現世では思春期の青少年には刺激が強すぎる。
いくら前世の記憶があっても、現世は現世なのだ。そして思春期の肉体なのだ。
股間に血液が集まるのを感じる。
そして僕は彼女に手を伸ばしそうになる。触りそうになる。触りそうになるが…
だめだ、隷属関係で相手が拒否できないことをいいことに手を出すなんて最低だ。ダメだ!ダメだ!
僕は理性で耐えた。耐え抜いた。耐えに耐えて耐え抜いた。そして朝が来た。
結局、一睡もできなかったが、僕には寝ずの番で鍛えた【回復速度向上】のスキルがあるので体力面は平気だ。だが精神的に疲れた。まさか精神力まで鍛えなければならないとは思わなかった。
翌朝、さわやかに目覚めたアプロディーテの前には、目が血走ったパリスがプルプル震えていた。
これからアプロディーテと一緒に暮らしていくんだから早く慣れなきゃ。平気にならなきゃ。そう僕は心に誓った。