四、
四、
「ありがとう。」
控えめな挨拶と、冷たいアイスティーを手渡してくれたウエイトレスに会釈をする。凍ったレモンが紅茶を着飾って、私に誘いをかけた。一口飲むと、乾きを覚えていたらしい喉に潤いが戻った。旅行カバンも私の泊まる部屋に届けてもらったため、手には何も持っていない。唯一、肩にかけたカバンに収められている紙とペンを除けば、私は身軽な格好になっていた。
「お嬢さん、おひとりなのね?どこの家のお方なの?」
荷物を運んでくれた乗組員に、案内してもらった小さな休憩スペース。ドリンクとアイスだけが売られており、星屑のメイクを施したウエイトレス達が中央で静かに佇んでいる。
彼女達を囲む観葉植物。そして、休憩スペースに置いてあるには洒落すぎているソファが、この場所を静けさのあるバカンスへと仕立て上げていた。
「聞いていらっしゃる?」
無視を決め込んでいたが、そうも行かなかったらしい。アイスティーを飲む私の隣へ、優しい布で自身を包んだ女性がやってきていた。薄いピンクがナチュラルな彼女の表情に、よく似合っている。
「...。」
私は、ぼやけた表情で女性を見つめてから、淡々とした口調で自身の家柄を告げた。
「六等星とは遠いものの、最愛の欠片を簡単に手放す程は落ちぶれていない。高潔さだけを宿した、黒い翼の一族...。に、属しています。」
「...はい?」
困惑した表情には構っていられないとでも言う様に、氷漬けのレモンに齧り付く。酸っぱさに身を震わせながらも、少し甘みの強い紅茶には程よい刺激だった。
「ええと...。そうね、私の一族は言い方を変えれば、青い涙や雫といったようなものかしら。みんな、青い瞳の持ち主ですのよ。それに、清らかな心を持っていますから。」
「そう。」
興味なく言ってしまえば、彼女は酷く驚いたように私を見つめた。別に悪気がある訳では無い。ただ、そこに思いやりが見えても心を動かすような表現はなかった。
「そういうことでは、なかったのかしら...。ごめんなさいね。午後のティータイムを楽しんで。」
「...ありがとうございます。」
ふんわりと結い上げた髪を撫で、優しい笑みで私に囁いた彼女を迎えに来たのだろう。銀髪の男性と共に去っていった。
喉の奥で、カラリと揺れる氷。冷たすぎて、洞窟の溶岩に浸された様な、感覚に目眩がする。茜色の絨毯が目の裏に浮かぶ前にと、私は手の平で温められてしまった飲み物を一気に、枯れた三日月へ注いだのだった。
素敵な紅茶タイムやな…。
船旅なんてしたことないですが、人生で一回くらいは海風を感じつつ、アイスティを飲んでみたいと思う今日この頃です。