二、
二、
「...。」
遠く遠く、流れを超えて、落ちた星を探す旅路へ。白い精霊、懐かしそうな森の奥で耳を澄ます。遠く遠く、消えゆくだろう。手の平に炎の静寂を灯し。イズピレン、お前は何処へ行く。魔法の園で描いた物語。
「っ!」
沈む草原に揺蕩う冬の夜。目の前に掴めそうなまやかしを見て。輝く氷花。浮かぶ君の小説は、挿絵を無くした仮初の聖水となる。
ナザレ。呼吸を止めた奏者へと。私は窓辺で腰を下ろして。これから繰り出す夕焼けを呼ぶのだろうか...。
「あ、」
手を伸ばした先に、花火が散る。青い人々が私を導くように夜の草原を、進んだ。踊り子が性別を変えて、私の服を焦がす。鴉の羽が宵闇に広がるように、心が融け澄むのだろう。両手で握りしめられている絵本。物語は未だ書かれず。
「誰?」
星空の広がる草原。ソフィーを思い出す、見慣れた場所で、私は座り込んでいた。影が炎をチラつかせて、その度に高い笛の音が響く。黒炭の髪が頬に触れ、私は風の流れがある事を知った。
「誰かいるのね?」
青いワンピースが草の露をビーズにして、星々の輝きを反射する。少し赤らんだ指先を布に擦り合わせながら、私は辺りを見渡した。
小高い丘が遠くに見えるのではないか、森が雑然と迫っているのではないか。そう思って、振り返っても果てなく続くのは、何も無い草原だ。夜の月光に照らされるばかりで、霧が立ちこめた遥か先は見通すことも出来ない。
ただ1つ、わかることと言えばフルート奏者が私を呼ぶように、知らない曲を響かせている事だけだった。
「...。」
涼し気な夕焼け。タンポポが私と歌うように綿毛を飛ばす。夜の薄暗い街灯に寄り掛かるような音色は消え、優しいポプラの旋律が家々から立ち上る煙と共に、空へと浮かぶ。
柔らかい草の上に横たわって、黄色に染まった雲を眺める。機関車が横断する茜空の下で私は、木陰の隙間から微睡みを探すように、ゆっくりと目を閉じたのだった。
「...うん?」
気づけば、私は枕を抱き締めたまま自分のベッドに転がっていた。
「あれ?」
聞こえていたはずの優しい音色も消えている。ちょっとした昼寝のつもりが、随分と長く眠っていたらしい。辺りは、すっかり暗くなっていた。
「灯りを...。」
立ち上がって傍に置いてあったランプを明るくする。机の上にある書きかけの絵本は、まだ文章だけが考察されただけの状態で私を見つめていた。
「やっぱり、夜は眠れなくなってしまうかも。」
くすりと笑って、机の上の紙を片付ける。眠れなくなったら、この物語の続きを夜通し考えようか。朝焼けの空を眺めながら、紅茶をいれてもらうのもいいかもしれない。
「どっちにせよ。そろそろ夕食ね。」
私は、寝癖がついた髪を適当に手で梳くと、誰かが呼びに来る前に夕食の席に着くため、自分の部屋を後にしたのだった。
この時、私はまだ知らなかったのである。あのフルートの奏を、もう一度とある船舶で聞くことになるとは...。
これは、私が慕う鏡の破片を最愛の世界に透過する物語。船の上で出会った不思議な彼と、将来の運命を約束されている青年が、私の作品に描かれていく、人生の回帰点である。
ここまで、少女の夢を書いてきましたが、来週からはついに本編です!ようやく、船旅が始まるぞ…。
お楽しみに!