第二幕 十五、
第二幕
十五、
5人の愚者達を、天界からの授け物として。使者を遣わした、真偽を邂逅の栄華とする為に。魔女は言いました。孤独な森に梟が居ると。その、碧光が鉱石となり彼等を殺戮すると。遠く、遠く、恐れを成して神の怒り、その手に宿し。知られぬままに散った影の人。橙の街に風車は回らない。Amorph、君はきっと還らない。素朴な道を淡々と歩む。嫌われた樹海の先を示すため、黄金の畔で散った物語。
「...。」
ぴたっと手を止めて、私は少しだけ考え込んだ。絵本にしては難しすぎる内容だし、発展してゆく社会へ諭す文章にしては最先端すぎる。何も浮かばれない世論となって、本として成り立たないことが想像できた。
「この物語は没ね...。」
まだ、絵も描き始めていなかったけれど、ラフの絵を描いてみても抽象的過ぎて、何も伝わってこない。ため息をついて、ぼんやりと港から離れて航海を続ける船上の景色を眺めた。
今日は、どうやらイベントがあったらしい。大勢の人が集まって、音楽隊の演奏を聞いたり、談笑したりと楽しそうにしていた。手にジュースやお酒を持った人々。優雅に紅茶を親しむ人達。雑然とした集まりではあるが、晴れやかな空の下で交流をする人の様子を見るのは、どことなく非現実感があって眠気を誘った。
「お昼寝でもしようかしら。」
「いいんじゃないかい?」
背後から声がして、私は慌てて振り返った。
「あ、」
「冷たいレモネードが売っていたから買ってきたんだよ。少し、暑いからね。飲むといい。」
手に渡された飽和水を、婚約者の薄く細められた瞳を見上げながら一口飲んだ。白いシャツにサスペンダーのついたズボンをはいている。シャツの袖を捲っている所を見ると、確かに今日は暑いのだろう。集中していたせいで、なかなか外気温を感じ取れない体をもどかしく思いながら、私はリボンで結い上げていた髪を下ろしたのだった。
「そういえば、これって...。」
青年がテーブル席の上に散らばったままだった紙の1枚を拾いあげようとする。レモネードのほの甘い雰囲気に浸っていた私は、青年が手に取った紙を見て、慌てて奪い返した。
「淑女が書き付けた物を勝手に見るなんて、無作法なんじゃないの?」
「いや、普通に置いてあったから...。ごめんよ。」
胸に紙を抱きしめて、むっとした顔をした私に押され気味の婚約者は、困ったように栗色が陽の光に反射して黄金に光っている髪の毛先をいじった。
「何を書いていたんだい?なんだか、難しそうな事が書かれていたけれど。」
「...日記よ。」
まさか、絵本という訳にもいかず、私はじっと彼を見上げながら静かに答えた。
「日記?」
「...航海日誌をつけようと思って。」
「なるほどね。だとしたら、勝手に見て本当に申し訳なかった。君のプライバシーだものね。日記か...私も今日から書いてみようかな。」
「いいんじゃない?」
まあ、日記なんて書いてないんだけど。適当に、話を合わせるために私は深く頷いておいた。
別に絵本を書いていることを知られたところで、どうと言うことはないが、あまり褒められた事では無い。ただ、紙を出しっぱなしにしておいた私も良くないので、綺麗に束にしたものをさっさと鞄に仕舞い込んでおいた。
「じゃあ、私はもう行くよ。勝手に見てすまなかった。」
「別にいいよ。」
彼が去り、穏やかさの中に暑さを感じ始める。手にしたレモネードの冷たさが海上に居ることを彷彿とさせ、私は晴天の中にある眩しさに気付いて、そのまま寝てしまおうと白いテーブルに頬杖をついて目を閉じたのだった。
とうとう、第二幕突入です!
これから、どのように物語は進行していくのか...。僕にもまだ分かっていませんが、少女の描く絵本のように、色彩のある話を模索していきたいものです。