十三、
十三、
神は言ったのさ。心の破片を集めて、絵本を描きなさい。幼い頃に見た夢を。
魔法使いが殺された森の奥で、黒い眼帯を付けた海賊の男が笑う。お茶会に招かれた恋人は、白い息を吐いた屍人達に、お祝いの言葉を述べるだろう。炎に呑まれても。
近くへ、近くへ、連れて行っておくれ。微かな心境、浮つく心。無意味な絵柄に彼等を乗せて。祈りの方角はERUSAREMU。貴女方が指し示したままに。主への囀りを、この身に任せましょう。
「う、んん...。」
覚醒が悪夢であるならば、私は膝を抱えていることだろう。汗を額に感じて、目を覚ました私は夢を思い返して、息を吐いた。道化師、君に問う。花の色は何色ですか?いくら、進んでも終わりのない回廊で私を巡る詩。
「久々に見た気がするけど...。」
思い出せない抽象的な印象に、まだ暗さの残る部屋を見渡した。あの声を掛けてくれた女性と会話をしてから3日余り。1度だけ夕食時に出会い、会釈程度のやり取りはしたものの、それ以外は特に何の変わりもない航海が続いていた。
婚約者の青年は、私を連れ出して船内での遊びを教えてくれようとはした。けれど、結局のところ絵本を描くこと以外に勝るものはなく、ただただ夢の鍵を探す不思議で楽しい日々を送っていたのである。
「夕陽と朝日が逆転したみたい。」
両親は、私が居ない日々を普通に過ごしているのだろうか。光が香ばしい珈琲に変わってしまう憂鬱と、何もかもが色彩に歪められていく感覚に少しだけ微笑が浮かぶ。悲しみがイエスに祈りの姿勢を取らせるのか。信仰とは、総ての絵本に綴った懺悔を赦される為にあるものなのか。
回想を終わらせる為に、私は部屋中に芽吹きを示す橙色が淡く波打っていくのを、じっと見つめていた。黙って豪華すぎるベッドの上に座っていると、微かな波の気配を感じる。絨毯の上に置かれた調度品は、私の手によって開けられることは1度としてなく、有り体のシクロプロパンによって、金銀を求めるAladdinを蔑んだ。
「言葉を喋る宙、貴方の音は何色ですか?朝焼けが私を、海へと吸い寄せてしまうのならば、耐えた世界の主。」
詩人のつもりで、取り出した言葉を紡ぐ。何となく悪夢を見た後の気分というのは、理論を立てないハイゼンベルクにでも生まれ変わった様に感じるのだ。私はベッドから降りると、窓際の椅子に腰かけ、微睡みに落ちてしまうように陽の光を浴びたのだった。
悪夢を形のない物として表現するのは、宗教チックな絵柄に感じますが、それをまた眠りに還元できるのが絵本を描く彼女の所以なのかもしれないと思っていたり...。
そろそろ、第1幕も終わりに近づいていますが、ここまで読んでくださってる方、本当にありがとうございます!続きもぜひ、お楽しみください。