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旅行記ダラン  作者: 未定
第一章 故郷と幼い友人達
9/22

08 辺境の変人

 翌日は適度に声を掛け、掃除をする。

 結構な自由時間が出来たので、読書に没頭する事にした。

 俺は床になんて置けないので、ベッドに並べていく。

 題名は___


「お家のお手伝いできるかな?実用編」

「アウローラの足跡~森林と伝統~」

「フィーニスの手記」

「植物図鑑【秋】」

「オリーゴ騎士団の冒険 第一巻」

「 」


 他にも4冊あったが、俺の知らない言語で書かれている。

 流し読みもしたが、挿絵はなく文字のみなので断念した。

 題名のない本を差し置いても、ジャンルがバラバラで無節操だ。


 全部見た事のない本で胸が高鳴る。

 しかし1番目を引くのは「お家のお手伝いできるかな?実用編」だ。

 ノクスさんの年齢的に浮きすぎているし、こんな内容に貴重な紙を使う事に驚きを隠せない。

 題名のない本も気になるが、俺の年齢的にもこの本を読んだ方がいい気がする。

 この懸念は今更な気がするし、ノクスさん(変人)相手に無駄かもしれないが。


「……。」


 目次で既に後悔している。

 しかし見紛う事なく、「魔力」の文字がある。

 魔法使いや魔獣が恐れられる中、こんな本がでていていいのか?


 顔面蒼白しながら、震える手でページを捲る。

 ふざけた名前の小説かもしれないと、淡い幻想はすぐさま壊される。

 これは生活に必要な魔法の指南書だ。

 無意識に顔をあげると、ノクスさんと目が合う。


 偶然ではなく、彼女はまるで俺を観察するかのように、体ごとこちらを向いている。

 転生者として諸手を挙げて喜びたいが、この世界の常識を考えると、機嫌を損ねれば死ぬかもしれない。

 先に何か言ってくれないかと、口をはくはくさせながら、目を泳がす。


「……っ…は…。」


 緊張で、小さく息が乱れ始めた俺を、変わらず真顔で見つめてくる。

 その顔がどういう感情で、正解は何なのか理解できないが、俺からのリアクションを期待されている。


「ノクス、さんは…っ魔女、なんです、か?」


 前世も込みで長い間生きてきたが、今が一番怯えている。

 俺ってこんなかすかすの声がでるんだ、なんて思考を放棄してしまう。


「うん、君と一緒。」

「……えっ。」


 俺は普通の親から生まれた、普通の子供だ。

 普通の子供は言い過ぎた、転生者ではあるが魔法なんて身に覚えがない。


「隠さなくていいよー。ばらす気ない。」

「本当に違います。俺、…そんなんじゃ、ないです。」


 真剣に否定する俺に、前後逆に座っていた椅子から降りて、近付いてくる。

 ベッドに座っている俺の手前、床に直で座る。


「鼻が利く方?」

「ふ、普通だと思います。」

「魔力は大なり小なり溢れて、香るの。」


 魔法使いは攻撃性が高く、簡単に人間を殺せる術を持ち、突然現れては人を攫う。

 街を沈め山を消す、話も常識も通じない、人でなし共。

 そんな前提をあざ笑うかのように、目前の魔女は理知的に話し出す。


「魔力は素晴らしいよ、何でもできる。洗濯をする時を思い浮かべて。」


 水を井戸から用意して、石鹸を泡立てる。

 乾かす為には、暖炉や日の光使う。

 風もあれば、より早く乾く。


「今考えた必要な手順は、魔力で代用できる。」


 畳んだ服がひとりでに動き出す。


「位置エネルギーと運動エネルギーは想像しやすい。自分がいつもやっている動きを思い浮かべるの。」


 彼女が両手で皴を伸ばすような動きをすると、離れた場所の浮いている服が、パンパンッと乾いた音を出し皴を伸ばす。


「次に水。温度は、味は、色は、重さは?」


 何もないところから、水が溢れ出す。

 宙に浮いた水と服が近付き、くるくると回る。

 いつかのCMで見た、洗濯機を透明にしたイメージ図みたいだった。


「そして石鹸。固さは、味は、色は、香りは、何で出来ていて、どういう過程で作る?」


 何もないところから、複数の液体や、植物が現れる。

 空中で混ざり合うと、みるみる固まり石鹸らしくなる。


「具体的に想像できると、魔力の消費が少なくて済む。余った魔力でまた別の事が出来る。」


 現実みたいな、合成映像で出来た魔法を見てきた。

 目の前で合成映像のような、現実の魔法がある。


 洗濯を終えた服は、みるみると乾いていく。

 秋には場違いの、春を思わせる暖かい風が吹いている。

 つい先程まで、冷や汗をかいていた額に、実に心地良い。


「魔力が使えるから、色々省略できて、国はとても豊かになった。」


 服はきっちりと畳まれて、お行儀よくトランクケースに納まる。

 鮮やかで美しい光景に、知らない間に口が開いていた。


「だからこんな不便な所に居る魔法使いは珍しい。興味が湧いたから、魔力の香りを追ってきたの。」

「それが俺…?」


 夢のような心地の俺に、魔女は現実を教える。


「君はこれからどう生きる?」

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