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旅行記ダラン  作者: 未定
第一章 故郷と幼い友人達
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05 村外れの我が家

 アディーレの家に長居したから、村長の家に行くのも遅くなり、家に帰るのも遅くなってしまった。

 街灯のない薄暗い夜道を、村長から借りたランタンと、点在する民家の灯りを頼りに歩く。

 田舎では懐中電灯を持って、夜道を歩くと言うが、切実に懐中電灯が欲しい。

 裕福ではない人は、松明を持つらしいが、足元は見えるのだろうか?

 今度じいさんに、作り方と使用後の処理を聴こう。


 事前に村長の家に向かう事を伝えてあるから、電話がないこの世界でもさほど心配はしていないだろう。

 以前は村長の家で本を読み、遅くなった事もあるから、初めてでもない。

 かなり賢いと評されてる俺は、しっかり者としても有名だ。

 転生した成人男性だから、そうでなくては困るのだが。


 家に帰ると、ドアの前に母が待っていた。

 母親のテネリタスは、俺と同じ金髪碧眼だが、ふわふわの癖毛とたれ目な所は似ていない。

 温和という言葉が似合う、可愛い雰囲気の女性だが、今は泣きそうな顔をしている。


「イデア!良かったわ…心配したのよ。」

「ご、ごめんなさい。村長の家に行ってたんだ。」


 抱きしめられて、反射で謝る。

 断じて、照れている訳ではない。

 精通がまだか、親族だからかはわからないが、性欲が全くない。

 狼狽えた母に困惑した俺は、祖父を見るも厳しい顔をしていた。


「……今日、森で魔獣が出た。モーレスは脚が折れた。」

「魔獣?!父さんが生きてて良かった…。」


 魔獣は、野生動物とはやや違う見た目をしていて、魔法を使うので手強い。

 例えばホーンラビットは、兎の額に角が生えてる魔獣で、風の魔法を駆使して素早く動く。

 詳しい生態系は解明されていないが、突然出現するという認識で、天災に近い扱いだ。


 この世界は魔獣と魔法使いが、危険視されている。

 理由は単純で、攻撃性が高く強い個体だからだ。

 兵士は街を守る者、騎士団は魔獣や魔法使いを狩る者だ。


 兵士は自衛官に近く、騎士団は軍人に近いイメージがある。

 余談だがギルドがあって冒険者も居るが、それは傭兵や万事屋に近い。

 騎士団の人手が足りない場合は、ギルドに依頼を、それでも人が来ないと村人総出で魔獣を狩る。


「だが森番はできん。」


 森番は狩り以外にも、する事がある。

 魔獣や山賊の確認や、井戸が凍った冬は木から水を採る際の、案内と護衛なんかもある。

 異常の確認が主だが、脚を折ってはあまりに不便だ。

 何よりまだ魔獣が居る為、普段より逃げ足が必要だ。


「街に伝令を出した。結果が決まるまで、儂が森番をする。」

「じゃあ俺の森を歩く練習は一旦休みか。」

「おう。」


 魔法があると知った時は、心が躍った。

 しかしこの世界では「悪い子供は魔法使いが攫っちゃうぞ」と言い聞かせるくらいだ。

 お目にかかるのは難しい、を通り越して無謀と言える。


 村長の家には、過去の魔法使いの悪行をまとめた本があるくらいだ。

 魔法使いは簡単に人間を殺せる術を持ち、突然現れては人を攫うらしい。

 酷い事例では、一夜にして街が沈み湖が出来たり、逆にぽっかりと山が消えたりする。

 しかも魔法使いの国があり、高度な文明を有しているが独占し、世界各国の目の敵にされている。

 戦争で騎士団を、修好条約で使者を、何度も人を送っては、誰も帰ってこない。


「父さんは今どこに居るの?」

「部屋で休んでるわ。痛みが酷かったんだけど、やっと寝れたみたい。」

「そっか…医者は呼んだ?」

「伝令に行った人に、一緒にお願いしたわ。」


 我が家が猟師だから、応急手当も出来るが、それとは別にこの村に医者は居ない。

 昔テレビで見た、医者が居ない田舎の島を彷彿とさせる。


 漠然とした不安を抱き、途方に暮れる様に窓の外を眺めると、相変わらず月が2つ見える。

 ここは紛れもない、異世界である。

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