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旅行記ダラン  作者: 未定
第一章 故郷と幼い友人達
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04 余所者の家

 想像より簡単に、絵本の持ち出し許可が出た。

 何かしら手こずると思っていたが、2つ返事で喜んでって感じだ。

 金を取る事は、言わない方がいいんじゃないかってぐらい。


「おはよ、アディーレ。」

「おはよう、イデア。」


 家の扉から小さく顔を出した少女が、玄関から門まで歩み寄ってくる。

 煉瓦造りの家だが、ここは村長の家ではない。

 なんならこの家は、村長の家より豪華だ。


「どうしたの?」

「絵本の持ち出しに成功したんだけど、読む?」


 俺より背も高く2つ年上だが、幼い笑みを作って、無邪気に喜ぶ。

 整った顔立ちに、清潔で上品な服、艶のある金髪に茶色の瞳。

 物語に出てくる貴族のような、いでたちだ。


「いいの?わたくし、とても読みたいわ。」

「俺も本読みたいんだけど、いいか?」

「ええ。イデアなら本を大事にしてくれるから、いいわよ。」


 村の離れにある彼女の家に、俺は何度か訪れているが、これは誰にも言わない方が良い。

 彼女の父親は大変珍しい、村の外からやってきた人間だからだ。

 田舎の余所者に対する厳しさは、異世界でも変わらない。


 アディーレの父親は、アリクアンドーの役所で事務仕事をしていた。

 査察で村にやってきた時に、アディーレの母親に一目惚れ、そして求婚した。

 当時の村の女達はお伽噺の様だと、コイバナ兼ゴシップに盛り上がりまくったそうだ。


 しかし村娘は街へ出る事を怖がり、婿入りという形で落ち着いた。

 そこで村での仕事をしていけば、もう少し立場が良くなったかもしれないが、職が見つからなかった。

 義理の父は家業を継がせたくないと猛反対、村の女達が騒ぎまくったので、村の男も非協力的。

 極めつけは、この村に事務仕事が村長職以外にない事だった。


 仕方なく夫は単身赴任で街へ、残った妻は家業の手伝いをした。

 この程度じゃ娯楽の少ない村は収まらない、また問題が発生する。

 今度は街へ嫁に行かなかった妻への、村娘達からの嫉妬だ。


 シンデレラストーリーに憧れた女達が、ここぞとばかりに陰口や仲間外れを行った。

 精神的に弱ってしまった妻の為に作った離れ、それがこの家だ。


「では、ごゆっくりどうぞ。」


 村長の家にすら居ないメイドが、美味しそうな柑橘の飲み物と、焼き菓子を置いていく。

 アディーレ曰く、父の姉にあたるらしい。

 未亡人になった彼女は再婚する気がなかった。

 色々と面倒になり、歳の離れた弟の家に、使用人として転がり込んだというわけだ。

 訳有り一家の娘も、勿論秘密を抱えている。


「ありがとう、すごく美味しいよ。」

「お行儀が悪いけれど、読書をしながらの紅茶は最高ね。」


 書斎で秘密のお茶会を開く。

 アディーレは所謂本の虫で、将来は印刷業や作家、本屋になるのが夢だ。

 村では叶わないので、街に出るしかないが、そうなると問題がある。

 実家の手伝いをする妻と、余所者で不在の夫、そして使用人の女性1人では体裁が悪いらしい。

 子供が居れば、子育て中として風当たりがややマシだという。


 しかしアディーレは諦めが付かず、俺達が街へ出る事を聴きつけ、仲間に入りたがった。

 その時はムルタが「女子は入ってくるな」という、実に子供らしい理由で拒否した。

 珍しくオムニスはフォローしなかったが、親同士の立ち位置が微妙なせいだろう。


 俺はと言えば街へのコネや、読書やお菓子の為に、足繁く通っている。

 ムルタや親に気付かれない程度に抑えているが、オムニスには気付かれてそうだ。


「ん?また本増えた?」

「うふふ、流石ねイデア。お父様が先週贈ってくださったの。」


 アディーレの父は休みを取れば必ず帰ってくるし、娘の好きそうな物を的確に贈る、子煩悩愛妻家だ。

 顔を合わせた事はないが、一目惚れプロポーズといい、かなり情熱的なイメージだ。


「満足したら言ってよ。その本、村長に貸すんだ。」

「あら、村長様も読書家なの?」

「それはオムニスの教材用。でも、確かに家に小説は数冊あったなあ…。」

「本を貸しあったら、良好な関係の一歩になるかしら?」


 大人と子供での本の貸し借りを想像して、苦笑いしてしまった。


「他の村人との溝は深くなりそうな気もするけどね。」

「皆さんも、本を読めばいいのに。」


 村の大人には、そんな暇も環境もなければ、識字率も低い。

 賢くて口が回っても、まだ子供だなと、微笑ましい気持ちになった。

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