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旅行記ダラン  作者: 未定
第一章 故郷と幼い友人達
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02 近くの森林と祖父

 古い猟銃が、先行く祖父の背中で揺れている。

 顔の代わりに見える後頭部では、父と同じ濃い茶髪に白髪が混じっている。

 結婚の適齢期が早い為、そこまで老いておらず、足取りは軽く体付きは逞しい。


 祖父の名前はドゥクトゥス。

 必要以上に無口で不愛想な祖父が、俺は嫌いじゃない。

 両親は俺の上京を反対するが、祖父は中立と言っていいからだ。


「やらしてみりゃいい。できね時は、戻って家業継げ。」

「親父!村の外なんて世捨て人になるだけだ…それに馬車に金払う余裕もないんだぞ!」

「…死ぬ程の無茶すンのだけはやめろ。準備できね馬鹿にゃ、外は無理だ。」


 以前の家族会議で、助け舟を出してくれた事を思い出す。

 反対する父にも、俺にも賛同してくれた。

 放任というより、自主性が強い祖父は情に厚い。


「じいさん、これは前にも教えてくれた草?」

「おう。」


 今だって森番の手伝いと称して、旅の準備を手伝ってくれてる。

 野草の知識や、猟銃の使い方、動物の捌き方、獣道を歩く練習。

 教えるのが下手なので、こちらが質問して確かめるのが主な会話だ。


「ヌーペルっていう野草で、実に毒はなくて、葉は炎症を抑える薬になる。で、合ってる?」

「作り方は?」

「お湯で煮た後に、すり鉢を使う。傷口に塗って使う。」

「おう。とっとけ。」


 ヌーペルの葉を採取し、実を口に放りながら道を進む。

 見た目は木苺に似てるが、味は苺のようで食べやすく美味しい。


「じいさん、あげる。」

「いらん、食え。」


 一瞥もくれず、歩みも止めない。

 険しい道なき道を選ぶが、子供の背丈で可能な範囲だ。

 俺の精神が肉体と同じだったら、間違いなく怖がるか厳しいと文句を言っていた。


「じいさんはなんで、俺が旅に出るの反対しないんだよ?」


 初めてこちらを見る、父の家系は俺を含めて眼光が鋭い。

 上司とは別種の圧がある。

 無言のまま暫くすると、また歩き出す。


 目を合わせてくれたので、聞こえたはずだ。

 子供に優しくない接し方だが、今も俺のお守をしてくれてる。


「今日はここで休む。1人でやってみろ。」


 丁度いい切り株に祖父は腰を落とす。

 言われた通り、俺は焚火や寝床を作る準備をする。

 以前教えて貰った通りに、乾燥した枝や葉を集める。


 何度かやったが、未だ手際よくはできない。

 やっと確かめながらではなく、独りで黙々と作業できるくらいだ。

 祖父は古い猟銃を撫でながら、低い声でぽつぽつと話始める。


「……これはアケルウスに貰った。」


 そうして話してくれるじいさんの昔話は言葉足らずで、何度も質問するはめになった。

 俺が休憩する場所を作った後に、軽い昼食を作りながらも、話は続いた。

 言葉は少なくとも、長い時間かかった昔話をまとめるとこうだ。


 友人のアケルウスは、じいさんと競うように狩りをしたライバルでもあった。

 祖父はずっと続くと思っていたが、日常は終わりを告げた。

 密かに金を貯めていたらしく、さっさと馬車に乗って村を出立。

 唐突すぎて面を食らったが、行動力の高さを買っていたので嫌な別れではなかったそうだ。


 彼は、文字を読むのも書くのも得意じゃない祖父に、何通も手紙を寄越した。

 その度に他の村人に読んで貰い、代筆をお願いした。

 彼が安定して街に住み着けた後も、文通は続いた。


 ある時に祖父はそれが面倒になり、もっと簡単な文を寄越せと言った。

 祖父でもわかるように簡単に「元気!幸せ!」とだけ書かれた手紙と、猟銃が届いた。

 手入れはされていたが、もう使う機会がなくなったという事だろう。


 それ以降届く文はめっきり減ったが、偶に「無事」とか「生きてる」といった内容が届く。

 毎回お土産を付けて、高価な紙の手紙を使うから、生活に苦労はしていないらしい。

 祖父は昔は木の板を送ったが、今は頻度も減った為、お土産代わりに自分で羊皮紙を作り贈っている。


 無茶だが無理ではないと知っているから、俺が村を出る事に反対しないでいてくれるようだ。

 細く長い友情に、現代での友人達を思い出し、胸が熱くなる。


「俺もじいさんに手紙書くよ。」


 焚火の処理をして、山を下りる準備をする。

 祖父の瞳に映っていた柔らかい炎は消えたが、今なお優しい目をしていると感じた。

 髭をさすりながら、変わらない不愛想な声で告げた。


「始めは、ンな事に金を使うな。」

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