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旅行記ダラン  作者: 未定
第一章 故郷と幼い友人達
15/22

14 早寝の家々

「っ浮いた!浮きましたよ!」

「うん、そのまま維持。」


 机にかじりついてるノクスさんは、一瞥もくれず食い気味に答える。

 俺はこんなに息が切れているのに。

 ノルマが終わった時に追加で筋トレさせる、ダイエットインストラクターみたいだ。

 椅子から降りて、浮いたパンツの周りを、ぐるぐると回る。


「もういいよー。」

「っはあ~~…。」


 俺は音を立て、その場にくずれ落ちる。

 膝に次いで手をついたので、服は汚れずに済む。

 しかし、マラソンの比ではない程の倦怠感に包まれていて、床に別れを告げられずにいる。

 汗を拭うも1滴も垂れていない事が、不思議でならない。


「次も同じように浮いたら、教えて。」


 集中力が切れそうだ。

 切実に時刻がわかる物が欲しい。

 村長の家の庭に日時計、アディーレの家に火時計があった。

 細かい時間が必要ないのか、火時計は埃被っていたが。


 体力が戻った頃には、日が落ちていたので急いで片付ける。

 女性用下着を握る孫なんて見せたくない。

 迎えの祖父が、ノクスさんの夕食を持ってきてお開きになった。

 宿題として「お家のお手伝いできるかな?実用編」を借りた。

 実は魔道具だったようで、魔力が無い者には白紙に見えるらしい。


 元日記は普通の紙だが、読まれて困る事は書いてないようで、万年筆と一緒に持ち帰るように言われた。

 盗難が怖いが村に質屋はないし、絵を描くのも必要なので、大人しく従う。

 ノクスさんの他の本も読みたいし、宿題に期限はないが、結構やる事が多いな。


 帰宅して、家族を説得しないといけない事を思い出す。


「父さん、ちょっといい?」

「うん?どうした。」


 寝室のベッドで療養する父を訪ねる。

 やる事がない父の部屋には、斧と薪、銃や刃物に砥石がある。

 読み書きが得意ではないと、動けない時に暇を持て余すのだろう。


「ノクスさんが、魔獣が退治されても滞在したいって言ってた。」

「おお!いいじゃないか、居てもらえ。恩人を無下にはできないしな!」

「でもお金はもうないって。」

「う~ん…日数にもよるが、父さんはいいと思うぞ。」


 嬉しそうな顔が、一転して渋い顔になる。

 そんな父さんだからこそ、嘘は言ってなさそうだ。

 本当に日数によるんだろうな。

 恐らく我が家には、冬越しに客人1人養う程の余裕がない。


「そっか。今度会う時に伝えてみる。」

「そうしてくれ。あんなに腕が良い医者だからな。村の皆も反対はしまい。」


 笑いながら、自分の脚をさする父の言葉には、説得力があった。


 ノクスさんの夕食を作る時に、家族の分もまとめて作っている。

 作っている時に不在な俺は、自動的に後片付けの担当になった。


 手伝いを終え、灯りがあるリビングで、借りた本と貰った元日記を開く。

 本を読むだけだが、魔力のない人には白紙に見えるようなので、不審がられない対策だ。

 お手本の絵を、白紙のノートに真似しようとする子供に見えなくはない。


 しかし見慣れない高価な物なので、疑うように声を掛けられた。

 本の内容はさておき、盗んだわけではないので、堂々と借りた事を伝える。

 言い訳の余地がある家族仲で良かった。


「…?」


 内容がおかしい。

「お家のお手伝いできるかな?実用編」の題名に偽りはない。

 文字が読めないわけでも、文法に間違いがあるわけでもない。

 教わった事と、過程が全く違う。


 俺が必死に練習した物の浮かせ方が、どこにも記載されていない。

 ノクスさんが見せてくれた、水や石鹸を使う洗濯方法も書かれてない。

 洗濯魔法は、服に漂白と除菌を行う方法で、呪文の指定があった。


 恐らくこの本は、復習ではなく予習なんだろう。

 石鹸の手洗いと、洗剤や漂白剤では、仕上がりには雲泥の差がある。

 使える魔法が増えると思うと嬉しくなり、どんどんページを捲り、俺はかなり意欲的に予習を行った。

 それこそ母に灯りを消すと、就寝を催促されるまで、熱心に読んだ。

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