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親としての最後の戦い

 意識を取り戻した僕は、暗く何も無い所にいました。

 

 「ここは?」

 「洞窟の中だよ」


 聞き覚えのない声が近くから聞こえてきます。

 二つの気配を感じ、急遽きゅうきょ戦闘態勢に入りバックステップをして距離を取ります。


 「暗視」


 僕は、暗闇の中でも目が使えるように自分に魔法を使います。

 すると何も見えなかった視界が、暗いまま見えやすくなります。

 目の前に居たのは、少し前まで助けようとしていた犬の親子でした。


 「君達か」


 殺意が全く無かったのでその場に座り込みます。

 ほぼほぼ治りかけていた体に回復魔法をかけ、全身の骨や体の傷を治していきます。

 すぐに完治させて、犬の親子に目を向けると子犬が思いっきり飛び込んできました。

 それはかなりの勢いで、お腹から空気が大量に出て汚い音がします。


 「助けてくれてありがとう」

 「いえ、いえ」


 倒されてしまった僕の体の上を歩き、子犬が顔をぺろぺろと舐めます。

 その為、子犬の唾液で顔がベタベタになりました。

 上着の袖で全て拭い取り、体の上から下ろします。

 

 「私からも言わせてください。ありがとうございます」


 今度は親犬が感謝を述べ、地面にお腹が着くぐらいまで体制を低くします。

 恐らく神獣の世界ではこの体制が感謝を伝える姿勢を表すのでしょう。


 「気にしないで。それよりなんであんなことになっていたの?できるだけ教えて欲しいのだけど」

 「わかりました。全てお話します」


 そこから親犬は、何があったのか話し始めました。


 「私達家族は、神様のめいり神獣フェンリルとして、この魔力の産まれたばかりの世界を守るため、旦那とこの子を連れてやってきたのです」


 ずっと犬だと思っていましたが、フェンリルの家族だったそうです。

 ここには居ませんが、父親も合わせて三匹でやって来たようです。


 「この山に転移して来た時にはもう、モンスター達が群れをなし暴れ回っていました。私達フェンリルは火の神に属しております。そしてあのモンスター達は、火が弱点のようで家族で何とか戦えていました。ですが旦那が戦闘中怪我を負って捕まってしまい、モンスター達に飲まれてしまいました。私は何とかこの子を連れて逃げました。貴方と公園で出会い、治して貰った怪我はその時のものです。その後旦那を探すために山に戻りました。夜が深くなり、何とか見つけることが出来たのですが、その時にはもう旦那は神様から授かった聖なる魔力が、邪の魔力に完全に飲まれ生きた屍となり、私達を襲ってきました。その後元旦那だった物をまきましたが、先程のモンスター達に見つかってしまい逃げていたところを貴方に助けてもらいました」


 僕は説明を聞き終わり頭の中で整理し自分なりに理解しました。


 「パパは助けられる?」


 子フェンリルは、寂しそうな顔をしながら僕に聞いてきます。

 母フェンリルは子フェンリルから目を離して下を向き、地面に水滴を沢山落としていました。


 「君のパパはもう死んだんだ」

 「嘘だ!パパはまだ生きてる!悪い奴に操られてるだけなんだ!嘘だ!」

 「本当だよ」

 「嘘だ!絶対嘘だよ!」


 子フェンリルは、強く何度も腕に噛みつきます。

 僕の腕からは、大量の血が流れていきます。

 それでも僕は、子フェンリルを離さず自分の元に寄せ強く抱き締めます。

 子フェンリルは父親が助からない事本当はを分かっているようで、腕を噛むのを辞めて涙を流しながら眠ってしまいます。

 僕は、腕を治癒し目元の涙を指で取り、子フェンリルの頭を撫でました。


 「うちの子がすみません」


 母フェンリルは、こもった声で謝罪しました。


 「この子のこれからの辛さに比べたらなんでもないですよ。少しでもこの子の傍に居てあげてください」


 僕は、子フェンリルを母フェンリルの元に返します。

 母フェンリルは、包み込むように抱きしめ愛情を込めて丁寧に毛繕いをします。

 毛繕いを終えた母フェンリルは、立ち上がり僕の目の前で人型の姿になります。

 そのことを聞こうとしましたが、真面目な顔をしていたので辞めました。

 人型になった母フェンリルは、土下座をし地面におでこを擦りつけます


 「二つお願いがあります。一つは私達を浄化して貰えないでしょうか。そしてもう一つはあの子を」


 一度顔を上げ、子フェンリル見てまた頭を下げます。

 

 「あの子を、育てて貰えないでしょうか」


 僕は、最後の母親としての責務を全うしようとする姿を見て誓いました。


 「わかりました。責任を持って引き取らせてもらいます」


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