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残党狩りのハイエナ  作者: マトイ
遺跡編 友のために
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72 殺害と効率


 部隊は前進した。無限に同じ風景が続くと思われた通路は終わり、その先には多くの死体が山積みになっていた。


 まだしっかりと片付けられていない死体も多く、単に壁にもたれかけさせたものもある。腰を壁に当て、白くなった肌と光のない目を地面に向ける者達。その中にはおそらく、その者の所有物であっただろう直剣が側に立て掛けられている。


「人形......」


 私は目の前の光景をそう感じ、また、以前ラーテの城で見た彼の従者達を思い出した。立ち話している主人を護衛している時、彼らは木の如くピクリとも動かなかった。まさに人形だ。目の前のそれと違いがあるとすれば目が動くか、そうでないかだ。


「これは?」


 私はローヌに尋ねる。彼は少し驚いた反応を見せた後、口をモゴモゴと動かした。


「その......先ほども言いましたが、貴方達より先に来た傭兵部隊です。山積みになっているのがそれで、丁寧に隅の方へ避けられているのは盗賊です。」


「ハイエナ隊長、こいつなんて言いました? 声が小さくて聞こえませんでした。」


 後ろの部下の中から、ロテアが威圧するように彼を睨み、抜き身の刀剣を近くに出す。あまり行儀の良い行為ではない。


「彼は、山積みになってるのが我々の友軍の死体、丁寧に避けられてるのが盗賊の死体って言いましたよ。」


 注意するか迷ったが、取り敢えず質問に回答するだけにした。私の言葉を聞いた後、彼は捕虜へ向けていた刃先をより近づけた。


「そうですか。ありがとうございます。」


 彼は感謝の言葉を述べながら物騒な行動を取り続ける。私はその矛盾した姿に、思わず微笑みそうになるが、どうにか堪えた。


「何をやっているんですか。この者に戦闘の意志、力はありませんよ。手も縛ってます。」


「いえ、こいつ......さっきから質問にボソボソと答えててイライラするんですよ。もっとはっきり喋れよ、おい......」


 彼は凄みのある声で捕虜に詰めた。一応、剣は当たらないように刃先を下に向けたが、下段からいつでも攻撃できる体勢だ。そして、刃先が彼の鎖帷子に当たり、擦れた金属音が聞こえた。


 護衛兵の標準装備。彼らの鎖鎧は、少し赤黒い。貴重な水を遺跡内で使うわけにもいかず、また手持ちの道具も乏しいため、戦闘で付着した血液はそのままの状態だ。その迫力もあってか、捕虜のローヌは恐怖のあまり黙ってしまう。


「は? 何を黙ってんだ、何とか言えよゴキブリが。何も喋れんならいっそのこと、その舌切り落としてやろうか!」


 ロテアは下にあった剣を持ち上げ、捕虜の口へ刃先を向け直した。それに呼応するかのように、彼の後ろにいた部下の何人かが剣を抜く。彼らは別にロテアを止めようとしているわけではなく、むしろ自分が舌を切り落としたい、と言った雰囲気だ。


「ヒッ......」


 声にならない声を出し、ローヌはしゃがみこむ。


「こらこら......」


「お前達なあ。今回の作戦は一味も二味も違うんだぞ。いつもみたいに捕虜殺したら、案内いなくなるだろうが!」


 カラシャが刀剣の柄に手をかけながら、部下達をなだめる。


「そうですよロテア。今回は捕虜一人なので、替えは効かないんですから、あまり無茶しないでください。」


 私は彼に優しく話し掛ける。彼を含めた、捕虜を拷問したい部下達は黙り込む。仲間のために純粋なのは結構であるが、その使いどころは見極めるべきだと思う。


「......分かりました。失礼しましたハイエナ様、カラシャ隊長。」


 そう言って彼は刀剣を下に向けた。


「カンベンシテ......カンベンシテ、クダサイ......」


 舌を切られそうになっていたローヌは、虚ろな表情で、縛られた手を合わせ、祈っている。また、同じ事の繰り返しだ。


「なんです? 大きな声で、はっきりと」


「勘弁、してください。俺には息子がいるんです。」


 彼は命乞いをしていた。何十回と聞いた台詞、ありきたりな台詞だが、意外と効果のある台詞だ。私が武器を持って数ヶ月の頃までは、そうだった。


 そう聞いた後、私はゆっくりとローヌの服を掴み、引きずる。


「え、何、やめて! やめてください!」


 彼は叫んだ。私は彼を部下の集団の中へ連れていった。彼の後ろ髪を掴み、立ち上がらせる。


「ローヌ、見てください。彼を見て......」


 私は先ほどまでのロテアに接したように、優しく捕虜へ語りかける。


「ほらほら、ちゃんと見て......よし、見ましたね。分かりますか、私の部下の表情が。彼らにも、エートルで帰りを待つ人がいます。あ、エートルっていうのはシュパレーより南の方にあるんですよ。」


 私は微笑みながら彼の顔を覗き込む。彼の瞳の色は黒だ。というより、この大陸の人間はほとんどが黒目なのだ、と雑念が頭に浮かび上がる。


 しかし私はそれを払いのけて話を続ける。


「向こうで、屍と化している部下達も同じでした。そんな半端な覚悟で戦場に出たんですか。傭兵として、戦争で食ってる身としては、半端者が一番嫌いです。」


 私は微笑む。彼は震えている。それは保身か、それとも気付きか。


「言葉遣いは選んだ方がいいですよ。まあ円滑に情報が得られなければ、すぐにカラシャに引き渡しますけどね。分かりましたか?」


 男は黙って震えている。


「また黙ってる......あ、そうだ。彼ら、私の部下達の手を見てください。」


 私は彼のこめかみに両手で優しく触れ、顔の向きを変えた。そして彼の視線を、部下の手のひらや甲へと誘導した。どちらもしっかりと見せる。


「なんで彼らの手が震えているか、分かりますか? なぜこれほどまで彼らが興奮しているか、分かりますか?」


 彼はまだ、沈黙を貫いている。それでも、ガタガタと唇を震えさせながら、慌てて思考しているようだった。やがて元来た道から風が吹いた時、響く風音によって、彼は驚いて跳ねた。そして口を開き始めた。


「そ、その......怒りに震えているから」


「怒り?」


「俺たちが、貴方の仲間を殺した、から......」


「なるほど、そういう解釈もできますね。いやね、震えに関しては別なんですよ。そりゃ怒りに震えてる者もいるとは思いますがね。突入前に私達の部隊は、眠気覚ましの薬をやり過ぎて、手が震えるようになったんですよ。」


 そう言いながら、掴んでいたローヌの髪を後ろに引き、勢いをつけながら目の前の部下達に放り投げた。彼はうつ伏せに倒れる。


「うわあああ!」


 彼は絶叫していた。それと同時に部下達は再び剣を抜き、彼に飛びかかった。


「助けて、助けて!」


 ローヌはこちらに助けを乞うも、彼らに顔面や腹を蹴られ殴られて、地面にうずくまった。彼らも手加減はしているはずだ。


 私はそれを十秒眺めた。


「止まれ!」


 声を上げて、彼らを止める。顎に短剣が当てられ、今まさに皮を剥がれようとしているところだった。一滴の血が流れた。


「分かりましたか。私の一存で、貴方の生死を決める事が出来ます。私の部下は優秀で仲間思いですが、故にそれを殺した敵を放っておくはずがないんですよ。知っていますか、戦場だと、捕虜の殺害はよくある事なんですよ。」


 ローヌの顎から短剣が離れる。彼は口と目を大きく開け、そこからささやかな滝を作っていた。


「でも私もカラシャも、そんな事を望んでいません。案内は必要ですからね。」


 ここはいわゆる海の真ん中だろう。私は小さな岩、周りにはサメがウヨウヨいて、荒波が立っている。この男が助かるには、私にひたすら媚びて、協力する事だけだ。そうすれば突き出た岩の上に立ち、少しの間生き延びられる。


「時が経てば、捕虜にも優しい教会の方々がいらっしゃいますから、その時まで耐えればいい。私達も、彼らの前で捕虜を殺す事は出来ませんからね。あ、それと、サメって知ってます?」


 まだ、彼は黙っていた。


「返事は?」


「へあ......あ、は、はい!」


「良かった。ありがとうございます。さあ、急ぎましょう。案内、出来るだけ早くお願いしますね。」


 私は婦人をいたわるように、倒れていたローヌを優しく起こした。このような行為はラーサ院長にしかした事がない。それでも、急かしているという点では大違いだ。何故急かすのか、私には二つの理由があったのだ。殺害と効率。


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