表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残党狩りのハイエナ  作者: マトイ
遺跡編 友のために
71/78

66 憩いと異変


 地下遺跡のどこにいるかも分からない中、私達の部隊は士気と体力を回復するために仮眠を取っていた。皮袋の水筒から水分補給を行い、各人員は役割を果たしている。見張り役の六人が二手に別れて前後の監視を行い、全体の休息のために尽くしている。一方でそれ以外の者達は少しでも体力を回復するために装備を外して仰向きで寝ている。


 彼らは片目を開けて寝ている。半分覚醒した状態で身体を休めており、そうする事で咄嗟の攻撃に対応でき、寝たまま何もできずに殺されるという可能性は低くなる。局地戦闘や敵陣地への潜入工作、あるいはゲリラ戦で使われる眠り方だが、私が訓練の場で直接教えたわけではない。サヴァラとラリカの戦争の中で彼らが独自に身に着けたものだ。


 あの戦争では軽装歩兵の遊撃小隊として敵の早期発見等の監視任務を請け負い、また味方本隊と連携しながら敵の追撃、残党狩りを繰り返していた。つまり、味方が素早く確実に軍事作戦を行うための露払い、あるいは補助部隊という損害が大きくなりやすい危険な役回りではあったが、意外にも苦しくはなかった。偵察任務を遂行する上で重要になる高度な技術と土地勘は狩人たちが全面的に補いつつ、護衛兵にも様々な技を教えてくれた。さらに追撃戦では彼らが先導して素早く行動し、護衛兵達の武力をもって、敗走部隊とはいえ倍の数を撃破しており、剝ぎ取り等の戦利品やラリカ軍からの給料も悪くはなかった。それなりに、儲けさせてくたわけではある。


 その中で、私が一番の利益になった事を思い浮かべるとすれば、それはあの戦争が部下達の良い練習場になったという事だ。狩人の技術、敵の土地での食料確保の方法、正規軍との戦闘等、彼らにはあそこでの経験全てが大きな力になっているはずだ。現にこうして、教会からの危険で見返りの大きい任務をこなせているのも、彼らの努力の賜物といえる。彼らが私に尽くしてくれなら、私も彼らに尽くすべきだという考えが、彼らと接するごとに思い浮かんでくる。


 私は鞄から袋を取り出し、後ろ側の見張りの方へ姿勢を低くしながら向かう。そして、伏せの姿勢で監視を続ける彼らの隣に寝るように近づき、一人の前に袋を置いた。


「これを……」


「ハイエナ様、これは?」


「羽アリです。よかったら食べてください。」


「おお、ありがとうございます。」


 彼は嬉しそうな声色で目を輝かせた。残りの二人もこちらを見て、軽く頭を下げる。そして彼らは通路の奥から目を離さないようにしながらも、袋から羽アリを取り出して食べ始めた。


「最近は甘いものなんて食べてませんでしたからなぁ。」


「おっ、この羽アリ、乳製品みたいですな。後味がまろやかで食べやすい。」


「俺は酸味が効いた方も好きですけどね。こっちも中々うまい。」


「食べやすいからって、あまり食べ過ぎないでくださいよ。交代の時に残ってないと喧嘩になりますからね。」


 私は笑い交じりに注意する。それを聞いた彼らも少し笑いながら返答する。


「味はともかく、満腹にならない事は理解してるから大丈夫ですよ。」


「では見張り、頑張ってくださいね。」


「ありがとうございますハイエナ様。」


 私は後方から離れ、前方の見張りにも羽アリを差し入れるために移動する。寝ている部下達を起こさないように足音を立てず、姿勢も低くしてなるべく風も起こさない。そうして松明の灯りだけが頼りの薄暗い通路を動く様は、まるで蟻のようだろう。


「お疲れ様です。これを……」


 そうやってつまらない想像をしながら、私は彼らにも菓子を差し入れた。


「羽アリですか、ありがとうございます。」


「見張り役は負担が大きいですから、少しでも栄養は取っておくべきです。ところで、状況は?」


 部下達は羽アリを手に摘み、それを口に放り込んでから喋り始めた。


「今のところ変化はありません。ただただ暗くて見えづらいだけですよ。」


「そうですか、何かあったらすぐに報告してください。」


 私は前方から離れ、部下達が眠っている中央に移動して腰を下ろす。そして一息ついた後、鞄から水筒を取り出して水分を取った。冷たい水が喉を通して全身に広がり、疲れた身体を癒していくような感覚を覚えた。人間は三日ほど食料が無くても生きられるが、水が無ければ三日で死ぬというのは本当にそうだと改めて思う。それを考慮して部下達には水分補給と仮眠を取らせており、糧食には手を付けさせていない。


「貴方の隊の次に物資を持った調査専門の部隊が突入しますよ。だからできるだけ奥に進んでいてくださいね。」


とニセノルトは言っていた。あの変人司教代理人を完全に信頼するべきか、議論の余地が残るところではあったが、いずれにせよ選択権はなかった。言われるまま、手持ちの物資の限界まで進むしかない。残りの物資は節約しても五日分だろう。それまでに遺跡の終わりが見えればいいが、一瞬だけこの通路の奥を見てその考えも彼方へと消える。


「また悩み事か?」


 隣で静かに寝ていたカラシャがゆっくりと起き上がり、そのように聞いてきた。


「ええ、ですが大した事ではありませんよ。」


「寝つけていないのにか。身体のために休めといったのはお前だぞ。寝た方がいい。それとも俺が寝かしつけてやろうか?」


「どうやって?」


 私は笑いながら聞き返し、褐色戦士はそれから少し考え込んだ。


「そうだな、運動でもするか。打ち合えば確実に疲れるだろう。それにこんな暗い方が俺はやる気が出るぜ。」


「まあ、そうでしょうけど、やめときます。剣の音で皆起きてしまいますからね。それにしても、貴方は特殊ですね。暗い中での戦闘が楽しいなんて」


「ああ、暗いからというより、自分に不利な状況でこそ、剣士としての成長の機会が存在してると信じてるからだ。今まで海とか、山や平原で戦ってきたが、こんな狭い場所でなんて戦った事はないからな。試してみたい。」


 彼は側にあった曲刀を片手で持ち、少し抜いて刀身を確認する。よく手入れのされた綺麗な刃だ。


「確かに、こんなところで戦う事は滅多にありませんからね。古代帝国の地下遺跡なんて……」


「ああ、本当に不思議な場所だよな。俺は学者じゃないから建造された正確な時代とかは分からないが、古代帝国の全盛期は千年以上前だろう?」


「いえ、千年も遡ると存在したかも怪しいと学者の間で言われていますけどね。とにかく帝国が大陸の覇者として全てを治めていたのは少なくとも七百年以上前だと言われています。」


 その言葉を聞いた時、カラシャは感心した様子で口を少し開けながら相槌をうった。私はポム司教に会うためシュパレ―の教会へ行ったり、ラーサ院長の個人的な蔵書を読んでいた。そのため最低限の知識はあるが、興味があってもわざわざ調べようとしない人間からすればそういう反応になるのだろう。


 そう考えるとラーサ院長の、教会図書に匹敵するような個人蔵書は一体どのようにして手に入れたものなのだろうかと、謎は更に深まるばかりである。彼女いわく、生活費のために多くの本を売ったと言っていたが、それでもシュパレーのニセノルトの図書室並にはまだ本が残っているのだ。


 そうやってこの遺跡と同じぐらい不可解な謎を考えていると、再びカラシャが口を開いた。


「大昔に存在したのに、まだ施設が使えるんだぜ。しかも見てみろよ。古い遺跡だというのに、植物や虫が入ってきていない。一体どんな魔法を使ったんだ?」


「実際に、彼らは土木魔法を使いましたからね。そういう魔法もあるんでしょう。」


「虫よけの魔法か。さっきの螺旋階段やこの建物といい、帝国の技術は凄いな。」


「一応、教会にも螺旋階段とか一部の技術と資料が伝わってはいるらしいんですが、それは昔からあるような古い教会や、中央教会の図書館だけみたいです。」


 だからこそ南スラーフ教会は遺跡の調査に執着しているのだろう。実益としても、権威付けとしても、このような機会はあまりないはずだ。教会に権威がないというわけではない。むしろ、この大陸の何よりも権威と権力を持っているだろう。しかしそれは外部との比較の場合で、内部抗争とは別の話だ。近年では教会内部での対立から、このような活動も重要になってきているのだ。


「今彼らが蘇ったりしたら、あっという間に我々は滅ぼされるかもしれん。しかしなぜそんな強力な帝国は滅んでしまったんだろうな。」


「まあ様々な考えられる原因はありますが、たぶん国が大きくなって色々と抱え込み過ぎたんですよ。どんな資質を持つ統治者であろうと、一人の人間に許容量を超えたものは治められません。」


 私がそう言うとカラシャは私の方を見つめていた。何か言いたげな表情で、彼はこちらを見ている。


「なにか?」


「いや、何でもない。話がずれたな、何の話だったか。」


「帝国の魔法が凄いって話です。」


「そうそう、それ……前に、ムステからここに来る時、船乗りに聞いた話なんだが、海には声の魔法で人を惑わす怪物がいるという噂だ。ここにもそんな奴がいたりして……」


「隊長!」


 その時、前方の見張り役が大声を上げた。その声色から何か異常事態である事はすぐに分かり、私は弩をもって素早く前方へ向かった。カラシャも同様に曲刀を手に取り、後ろから付いて来た。


「どうしました?」


「あれを……何かが、います。」


 見張りは弩を構えながら通路の奥を指指す。私はそれを視認するよりも前に音を聞いた。暗い通路の奥から剣に砥石を使った時のような音が聞こえてきた。それは段々、こちらに近づいて来た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ