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残党狩りのハイエナ  作者: マトイ
遺跡編 友のために
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62 戦いと虐殺


「突撃!」


 百歩まで近づいた突撃部隊が号令によって一斉に走り出し、それに続いて私の部隊も丘の上を目指す。戦闘におけるこの瞬間、制圧目的の突撃は時間の進みが遅い。いつもより自分の身体が鈍重に感じられ、敵が向こう側へ遠退いていくような不思議な体験をする。もっとも、防衛側の敵施設・設備が後退するはずはないが、どうしてもそう感じてしまうのだ。


 実際のところ、盗賊の何人かはその顔に恐怖を表しながら後退している。防護設備を失った盗賊団は恐慌し、対応に失敗している。その隙をついて突撃部隊の先頭、軽装部隊が未だ燻る城壁に梯子と縄をかけ、強固だったはずの石塊は後続の重装歩兵に踏みにじられる。


 突撃部隊はついに砦の内部へ侵入した。


「抵抗する者は全員殺せ!」


「ゴミ共を逃がすな!」


 壁のあちらこちらから味方が侵入していく。城壁上の射撃場で白兵戦闘が開始され、血飛沫や衝突音が激しくなる。敵の小集団を挟撃しようとした味方が逆に敵の増援に背中を刺され、また別の味方がその増援の側面へ新たに梯子をかけて攻撃する。


 私が梯子までたどり着く頃には味方の先頭が敵の城壁防衛部隊を壊滅させており、更に奥へ攻め込んでいる。梯子を上る際に死体を踏んでバランスを崩しそうになり、後続のため放り投げるようにそれを動かした。どちらの死体かは分からないが、もの言わぬ肉塊になった以上、生きている者のために雑に扱うのは許して欲しい、と心の中で静かに願った。


 そうして梯子を登って行き、城壁に立つと砦の全景がしっかりと私の目に入ってきた。


 黒く焦げ付いた壁の先にあったのは、同じく焼けただれた多くの天幕と物資、そして黒い山積みの塊から生えている手足だ。一部の天幕は無事なようで、砦内も意外に片付けられている事から必死に炎と死体に対処しようたした盗賊の努力が伺える。しかしその労力も今から無駄になるだろう。


「分断しろ!」


 先頭の突撃隊長が檄を飛ばす。なだれ込む重装歩兵隊の気迫に負け、戦う気力を無くした何人かの盗賊が遺跡の中へ入っていく。ある者は腰を抜かしながら地を這いずり、なんとか中までたどり着いた。その手前で弩を打っていた者は、飛んできた手投げ斧に頭を割られた。未だ仲間のために前線で戦う彼らを必死に援護していた者が無情にも息絶え、逆に見捨てた者が生き残るのは当然と言えばそうかもしれない。だが私はそれを良く思わなかった。


 最前線、敵側には鉄鎧を着た熟練者らしき盗賊達と農民と変わりない服装の者達が数十人ほど残っている。どうやら古参兵が奥へ逃げようとする者達を押し戻し、戦わせようとしているようだ。


「戦え、逃げるな!」


「死ね、屑ども!」


 先頭の傭兵らが叫びながら、半ば無抵抗となった者の頭を真っ二つに割る。勇猛な傭兵達が盗賊を中央で左右に二分し、焦げた壁へと押し込めていく。そうして逃げ場の無くなった盗賊達を丁寧に一人一人殺し、傭兵達は彼らをいたぶって遊んでいるようにも見えた。


「終わったな。」


 優勢な状況から私は追随してきた自部隊を敵負傷者の確保や介錯に回し、ただひたすらに残敵を殲滅していく傭兵達の背中を見ている。


 先頭から肉片と血しぶきがよく見え、それらに気をとられて、また転がっていた死体に足を取られそうになる。何とか転ばずに済んだがその死体は炭化しており、泥にまみれていた。それを見た時に羽アリを思い出したが、今考えるべき事ではないと、その記憶を頭の中から消した。







 時間が経つごとに戦闘していた集団から罵倒や叫び声が消えていき、それらは全てうめき声と悲鳴へ変換された。こうして商業都市シュパレー周辺の盗賊の大拠点は、黄金と教会の権威によって滅ぼされた。


「ぎゃああああ!」


「戦闘では偉そうにしてた癖にこれぐらいで悲鳴あげてんじゃねーよ。」


「ははは、根性ねぇな。」


「いいぞ、もっとやれ!」


 捕虜となった盗賊の何人かが、傭兵達に弄ばれている。生きたまま手足を切り落とされる者、顔を踏まれながら血の混じった泥をすすり、槍で腹わたをゆっくり刺される者もいる。


「やめろ!同じスラーフ人だろ!」


「黙れ屑が!」


 右を見ると、盗賊の命乞いに耳も貸さずに傭兵達は燃える天幕の残骸へ盗賊を放り込んでいる。炎に包まれた盗賊は手足を縛られているため火を消そうと、逃げる事も転がる事もできない。そうして釜戸で豚の丸焼きが出来上がるようにその盗賊は数秒叫んでから焼死した。


 左を見ると、武器による処刑の手間を嫌った傭兵達が、先ほどと同様に手足を縛られた盗賊を壁に顔面からぶつけていた。まるで攻城戦で丸太を門にぶつけるように、人間を壁にぶつけて殺している。焼殺す方は淡々と殺していたが、こちらはお祭り騒ぎのように他の傭兵達も楽しそうだ。


「違う違う!丸太をぶつける時は他の者と息を合わせろ。それと手前で止まるな、その壁を壊してやろうという勢いのまま突っ込め。」


 どうやら突撃隊が訓練しているようだ。丸太を切り出すのも多大な労力がかかり、訓練者への身体的負担が大きい。しかし人間丸太であれば処刑ついでに軽い負担で訓練ができ、なおかつ戦死した仲間への復讐にもなる。ある意味で合理的な行為だ。


「下品な奴らだ。」


 ふと、私の横にいたカラシャがそのように呟いた。私も彼と同じ意見ではあるが、目の前で虐殺を繰り広げる傭兵達には彼らなりの考えがあるのだろう、と思いたい。


「まあ、私達も人の事言えません。捕虜を拷問した事ありますからね。」


「俺達の場合は情報を吐き出させるため、仕方なくだろ。あいつら人殺しを楽しんでる。」


「人殺しを楽しまない兵士はいませんよ。特に腕の良い弓兵はね。」


「そうか?少なくとも俺は人殺しを楽しんでないぞ。ハイエナ、お前はどうなんだ?」


「さあ、一々考えるわけじゃないですからね。とっさに答えなんて出ませんよ。」


 火攻めと虐殺によって目前は酷い光景が広がっている。カラシャとの会話が途切れ、私は取り敢えず山積みの焼死体の近くで息を大きく吸った。


「何を匂ってるんだ?」


「いや、人の焼けた匂いだなって思ったから、何となく嗅いでいました。いつもこうなんですよ、無意識に鼻が動くんです。」


 私の答えに彼は奇妙なものを見る目を向けてくる。私はそれを気にせず何度も戦場の香りを確かめる。まるで石油を嗅ぐような感覚だ。


「お前は戦争が嫌いだろ?」


「そうですね、いや......と言うより、戦争はただの義務であり仕事ですからね。仕事が嫌なのは皆同じでしょう?」


「違いない、俺も出来る事なら働かずに姉さんと一緒にいたいものだ。」


 私が苦笑いでそのように言うと、カラシャも笑いながら同意した。彼の姉への愛情は彼女がたった一人の家族だから、そんなにも熱烈なのだろう。家族とはそんなに良いものだろうか、私には分かりずらい感覚だ。


「あ、教会の連中が止めに入ったな。」


 どうやら墓守りが蛮行を働く傭兵達を制したようだ。教会人にお楽しみを止められた彼らは不貞腐れながら片付けを始める。


「しかしなんで始めから止めないんだろうな。俺にはあれが民衆から信頼されてる聖人達の姿には見えないぞ。」


「たぶんニセノルト殿が傭兵のガス抜きのためにある程度許しているんでしょう。そうしないと、不満の溜まった傭兵達が近隣の一般人にまで手を出すかもしれません。場合によっては職務放棄の上、反乱まで起こすかもしれない。」


「はあ、最近の傭兵っていうのは質が落ちてんだな。」


 褐色の戦士は嘆き、私はその横で教会人の善い行いを見つめている。数十人の捕虜のうち、生き残れたのは半分の小汚ない農民達だけだ。傭兵を兼業していたであろう高位の盗賊は、装備品目当てにほとんど殺された。


 ただ二、三人ほどの隊長格は生き残っており、これからニセノルトの尋問に耐えなければならない。敵とはいえ、私は彼らに同情していた。


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