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残党狩りのハイエナ  作者: マトイ
生存編 利益のために
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24 朝食と会議

 

 まだ日も登らぬ暗闇の中、複数の松明の灯りが村の中を徘徊している。護衛兵や村人、傭兵達が忙しなく動いている。数時間の仮眠の後、皆戦いに備えて準備をしている。剣を研ぎ弓矢を手入れする者、素振りをする者、鎧を磨く者と様々な人間がいる。村の雰囲気も前と比べて悪いものは感じない。皆が自信を持って敵に挑もうとしている。非常に有難い事ではあるのだが、当の指揮官はまったくもって自信がない事を一体幾人が知っているだろう。少なくとも目の前の数人は知っている。


 村の一番大きい建物、今は亡き村長の家に指揮官達が集まっている。護衛兵部隊からカラシャ他数人、狩人達からマカと付き添いの狩人、村人からラミンと頼れる男達、傭兵部隊から傭兵隊長一人、そして私がこの場にいる。蝋燭が十分に行き届いておらず、非常に薄暗い。広間で座って待っている彼らの顔に大きな影ができている。その光景は、悪の秘密結社が会議しているようにも見える。全員が集まると、私は召し仕い達に食事を運ばせ、付き人を含めて彼らの前に朝食を置いた。


「少し早い朝食です。これからまともに食事が取れないかもしれない。もしくは最後になるかもしれません。味わって食べてください。」


「おお、旨そうだ。」


 朝食の内容はいたって普通だ。牛のような動物の乳を混ぜた粥、パンと肉の卵閉じ料理、野菜の雑多煮スープの三品だ。だが、きっと彼らは仰天するだろう。部屋の中に立ち込める匂いが、食欲をそそり、空腹を限界にする。


「さあ、マカに感謝して、まともな朝食をご堪能ください。」


 これらの料理は、全てマカが作ったものだ。私は精神を病みそうになっていた彼に一つの趣味を与えた。人間は食事なしに生きられない。だから色々なものを食べるわけだが、自分に余裕ができてからこの世界の食事に不満を抱いていた。元の世界では海外に出ただけで故郷の食事が死ぬほど恋しくなった。異世界ならなおさらだ。今まではどうしようもないと諦めており、自分で作ろうとさせしなかった。私は料理の才能がない。だから他の者にやらせる事にしたのだ。


「旨い、美味しいですよ。流石マカさんだ。」


「マカにこんな才能があったなんてなあ。」


 皆口々にマカの料理を褒めちぎる。当人は褒められる事に慣れていないため、右往左往しながら食事を取っている。心なしか、一昨日の夜の時に比べて元気になってくれたようだ。昨日は偵察要因として全ての狩人を動員したが、マカだけは残した。そして、料理という任務を与えて孤軍奮闘させた。


 考え過ぎて悩むより何かに熱中させた方がいい。幸い彼は孤児院で生活していた時から料理は好きだったし、味も悪くなかった。私の知る限りの料理の知識を出し惜しみせず、彼に教えたため中々良いものになっている。私もまともな食事にありつこうと皿の中の料理に手をつけた。


「くっ、ふぅ......。」


 気づけば涙と共に変な声が出ていた。それも感動の涙ではなく、失望の涙だ。乳の入った粥は色々な意味で新鮮だ。だが、いかんせん乳の味が強く、教えたであろう岩塩との調和が意味を成していない。乳の甘味も抜けているため少し苦く感じる。卵閉じに関しては中のパンの酸味が強すぎて話にならない。余っているパンをそのまま食べるのは死ぬほど不味いため卵と組み合わせてみたが、結果として卵の良さをパンで潰してしまった。最後に野菜スープ、これだけは美味しかった。マカが昔から作っていた料理だ。どの家庭でも野菜スープは作られる。だから、これだけは安定して美味しい。


 他の者達は美味しそうに食事するが、私は滝のような涙に恥ずかしい思いをしていた。自分が情けなかった。料理人がいくら良かろうと、素材の味が悪ければ意味を成さない。普通なら料理人の腕次第で悪い素材も美味しくなるというが、これはその領域の話ではない。料理人でもどうにもならない次元の素材の悪さだ。もしくは、私の肥えすぎた舌に問題があるかだ。もう故郷の料理を食べられないというのなら舌を切り落としてしまった方がいいかもしれない。


「ハイエナ、泣くほど美味しいんだね。嬉しいよ。」


 マカが嬉しそうにこちらを見る。彼の元気な表情を維持するために、ひたすら目の前の食事を口に入れる。普段の食事と変わらない質でありながら、量は普段の2倍だ。いや、ある意味で質は下がっているといっていい。だが、それを表に出すわけにはいかない。


「うん、うん、いくらでも食べられる。」


 泣きながら食事を取る姿は指揮官のそれとは思えないだろう。幸い場の雰囲気で気味悪がられる事はないが、時間の問題だ。皆食事を終えようとしている。ただ、私以外の一人を除いてだ。


「ラミン、食べないのですか?」


「敬虔な聖教徒は朝食を取りません。ひたすらに教えを守ります。」


「おやぁ、神は食事を残せとおっしゃてるのですかぁ?」


「そ、そういうわけではありません。」


「では食べてくださいよぉ。ほらほら、せっかくマカが作ってくれた朝食ですよぉ。あんな可愛い子が作ったものを粗末にしろと?」


「くそっ。」


 ラミンは分かりやすいほどに動揺している。私はそんな彼の顔に一口しか手をつけていない卵閉じを近づける。ラミンはその匂いに顔をにやけさせまいと必死に耐えている。だが、それも数十秒の後、限界に達した。私の卵閉じもろとも目の前の食事をあっという間に平らげた。その速さたるや、噂に聞く番人達の武器にも劣らないものだ。


「いや、良い食べっぷりですねぇ。」


 私は丁寧に朝食を貪り食う彼を見つめた。しばらく見ていたが飽きてしまい、別の方向へ向いた。その方向にはマカがいた。こちらを凝視している。なぜ私が見つめられているかは分からないが、きっと怒っているのだろう。いや、分かる。おそらくは朝食を完食せずにラミンに与えたからだ。マカは怒るわけでもなく、ただこちらを見つめている。その眼光は蛇のようだ。さしずめ私はカエルだろう。その状態がしばらく続いた。







「これより作戦会議を始めます。」


 私は出来る限りの凛々しい声で皆に威厳を示そうとする。だが、席につく面々の顔はどこか不満だ。理由は、私が歯磨きを強要したためである。一人一本の長細い小枝を与え、歯の間を掃除させた。マカには孤児院の時から強要していたため不満そうな顔はしてない。


「私は狩人を連れてここから東に半日ほどの距離に敵の本拠地を見つけました。これから収集した情報を書いていきます。」


 私は机の上に大きな羊皮紙を広げ、大まかな地図と情報を記入していく。何人か文字が読めない者がいるため、口頭での説明も交えながら地図を完成させた。


「砦の周りは開けています。さらに切り株が障害物となっている。ここでは安易な突撃は控えた方がいいでしょう。次は丸太の壁が待ち構えている。高さは私の2倍ほどです。高くはありませんが、優秀な防御陣地です。そして、南北に門がある。門の先には複数のテントと畑、井戸がある。おそらく狩りもしているでしょう。持久戦は止めた方がいい。」


「ならば、2度の分けての攻撃で攻略できるのでないでしょうか? 1度目の攻撃で北側に敵兵力を集中させ、南側が手薄になったところを隠れながら回り込んで攻撃する。その高さの壁なら簡易梯子で突破できますよ。」


 護衛兵の一人が作戦を発言する。確かにその作戦は中々いい。攻撃側が攻撃地点を選べるという長所を伸ばした作戦だ。だが、その発言のすぐ後にカラシャが口を開いた。


「それで敵が北側に兵力を割かなかった場合どうするんだ? 仮に上手くいったとして、南側を確実に突破できるのか? 相手は一応正規兵だぞ。農民と傭兵の混成部隊では足止めされて北側から兵力が戻ってくる可能性もある。」


「では、他の意見はありませんか?」


 カラシャの指摘に若い護衛兵は萎んでしまった。仕方ないこととはいえ、カラシャには苦労をかけてばかりだ。給金を上げるべきだろう。


「では、狩人達に砦へ潜入してもらい、内側から門を開けるのはどうでしょうか? 夜に行えば夜襲となりますし、開城も容易いでしょう。」


「無理です。」


 村人の意見に、マカが即座に反対した。


「連日の任務により狩人の何人かは体調を崩していますし、ほとんどの者は疲れきっています。これ以上の酷使は困ります。」


 狩人は優秀な偵察要員であり、優秀な弓兵でもある。優秀な者には仕事が回ってきやすい。ここ数日で彼らを追いつめてしまったようだ。


「では、誘き寄せはどうか。敵を罵り挑発して砦から出させるんだ。そして、待ち伏せで一気に叩く。」


「どうやって挑発するんですか。相手は元とはいえ正規兵です。悪口くらいでは挑発にもならないでしょう。」


 作戦会議は踊る。色々な案が出ては消えていく。平行線の議論だ。議論が白熱するごとに空は明るくなっていく。その明るさが最大に達する頃には良い作戦案が出ているだろうか。いや、きっと明るさが最小になろうと議論は踊り続ける。


「ハイエナ様、良い案はありませんか?」


 不意に護衛兵の一人が私に質問した。その声と共に、部屋にいる全ての人間が私の方を見る。皆踊り続ける作戦会議に嫌気がさしている。


「カラシャ、捕虜はいくら残っていますか?」


「20人前後。」


「油壺は?」


「全てある。」


「死体の数は?」


「たくさん。」


「短剣を持ってきてください。それと、馬車に死体と油壺を乗せて運びましょう。矢も忘れずにお願いします。最後に、皆を集めてください。はぐれ傭兵の残党狩りに向かいます。」


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