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残党狩りのハイエナ  作者: マトイ
生存編 利益のために
23/78

22 処理と苦悩

 

 広場の中央で亀が甲羅に閉じ籠るように盗賊達は耐えている。それに八方から矢や石、投げ槍等が襲いかかってくる。普通なら部隊を十字に配置して適切に火力を高めるのが最善だが、私達はそんな練度や指揮能力を持ち合わせていない。誘い込んで囲んで叩くのも幸運ものなのだ。


「ハイエナ、そろそろ品切れだ。」


 下で細かい指示を出していたカラシャが、飛び道具の終了を報告してきた。


「分かりました。」


 私は報告を聞いた後、再度敵の方を見る。亀はハリネズミに変化しており、もはや同情しかない。そして、私は同情の念と共に驚嘆している。盗賊達が持つ盾はどれも円盾だ。矢の嵐を防ぐにはいささか心もとない盾ばかり、防御体型になっても隙間ができる。それなのに盗賊達はずっと防御を維持している。素晴らしい練度、素晴らしい仲間意識だ。


 そもそも全員が盾を持っている事に驚いた。盾は壊れやすく常に手入れが必要であるため、携帯しているのは攻城戦等の大規模戦闘の尖兵ぐらいだ。私は盗賊達への考えを改めなければならないと思った。


「撃ち方やめ!」


「「 撃ち方やめ! 」」


 目一杯の大声で射撃停止の号令を出す。それに続き各部隊長が号令を復唱して、嵐は次第に収まった。先ほどまで怒号と悲鳴溢れいた祭りのような戦場は、穏やかな夜の森の如く静かになった。時折聞こえる負傷者のうめき声が虫の美しい声代わりだ。


 矢の嵐が完全に収まり、静寂が訪れるとハリネズミのような盾の塊から数人の盗賊達が顔を出す。矢切れだと勘違いされる前に降伏勧告しなければならない。実際のところ矢切れに等しい状況ではある。


「エートルを脅かす盗賊達よ、聞け! 我々はギルドの傭兵部隊だ。ギルドは蛮行を働く者共を許さない。何百人という部隊がお前達のために動いている!」


「お前達は包囲されている。無駄な抵抗は止めて武器を捨てて降伏しろ。命は助けてやる。」


 私は嘘を言わない。一応ギルド所属の行商人であり、傭兵部隊を雇っているし、ギルドは攻める気なしに傭兵をかき集めて盗賊対策にしている。そして、私は命は取らないつもりだ。


 模範的な降伏勧告の後、盾から少しだけ顔を出す盗賊達が増えていったが、誰1人として武器を捨てようとしない。私の言葉を信用する要素が皆無なのもそうだが、彼らは他の盗賊達の動きを伺っているのだ。私は中々動こうとしない彼らに少し苛立ちを覚える。


「弓隊狙え!」


 喉を痛めんばかりの大声で弓兵に攻撃準備の号令を出す。降伏しないなら皆殺し以外の選択肢がない。個人的には出来るならそのような事をしたくないと思っている。


「待ってくれ! 降伏する、降伏するから撃たないでくれ!」


 盾の中から一人の盗賊が、神に懇願するかのような声で丸腰で出てきた。それを皮切りに盗賊達は皆剣と盾を捨てて降伏した。







 増援の盗賊達が全員降伏した後、私達は戦闘処理に追われた。勝どきなんてものはない。ただ一つの戦闘が終わっただけ、敵の本拠点は健在だ。


「ハイエナ様、捕虜の手当てと収容終わりました。」


「ありがとうございます。しっかり見張ってください。特に外側を...。」


「外側ですか?」


「村人が捕虜を殺しかねません。私は約束を守ります。それと、カラシャを呼んで捕虜の尋問を行うように伝えてください。敵の本拠地を聞き出すようにお願いします。」


 私の話を聞き終えると、護衛兵は仕事に向かって駆けていった。目の前には負傷者を治療する者とトドメを刺す者、装備を剥ぎ取り骸を火にくべる者、土を堀り祈る者と様々な人間がいる。共通点をあげるなら皆一応に暗い表情をしているという事だ。


 村人は初のまともな戦闘に衝撃を受けている。護衛兵は白兵戦を出来ずに嘆いている。傭兵は傷んだ戦利品の数々を見て落ち込んでいる。そして、腹を立てた傭兵達は1人の捕虜を袋叩きにした。すぐに止めて減俸を言い渡したが、反省していないようだった。非常に悲しい。傭兵のせいで危うく二つの契約が無駄になるところだ。


「やはり戦争は自分でしない方がいいな。」

 

「何か?」


「いや、何でもありません。」


 付き従う護衛兵に返答した後、私は雇いの商人達に声をかけた。彼らは数や物流を担当している。


「それでこちらの損害は?」


「死傷者は狩人1名、傭兵5名、村人13名の計19名です。負傷者は護衛兵1名と傭兵17名、村人7名の計25名です。合計で44名です。」


「圧倒的、とは言い難いですね。善戦かな。それで損害の一番大きい村人と傭兵はどのような問題が?」


「村人は単純に弱いというのがありますが、戦傷箇所が首ばかりですね。初動で接近されたのが原因です。胴体はやたら固い鎧で守られ、脚は致命傷になりにくい。残るは頭部分なので、盗賊達は村人の首元を狙った。」


「傭兵に関しては逃げ道の東側を封鎖していたし、火力が集中する西側を避けた結果でしょう。一番敵が来ていた。」


「なるほど。村人には首に鎖帷子を装備させれば良かったか...傭兵は別に問題ありませんね。」


 商人の報告を聞きながら、今回の戦闘に投入した鎧の補強を考える。布鎧の防御力は証明されているが、腕や脚、頭と言った部位は守れない。その場合既存の防具で守る事になる。


「首には鎖帷子をつけるとして、他にどのような対策をしましょうか?」


「一番良いのは全ての箇所を布防具で固める事ですが、生産を重視するなら止めた方がいいですね。布鎧そのままで腕は安い盾、もしくは槍を持たせるのがいい。頭は鉄製のもので号令の聞きやすさを重視する事、脚は皮のすね当てを使いましょう。」


「価格と生産性重視ですか?」


「その方がハイエナ様の商売にあってますよ。この時代、鉄装備が高すぎて、まともに武具を揃えられない農民あがりの傭兵が多いですから数を売った方がいい。」


 目の前の商人は饒舌に考えを述べる。彼の言う事は正しい。負の連鎖で盗賊が増える中、傭兵と盗賊の境は曖昧になった。帝国崩壊直後は忠誠心溢れ、装備の充実した傭兵団がいた。いわゆる、プロ意識を持った職業軍人だ。


 だが、時間が進むに連れて民兵の数が増えた。数が増えるという事は多少質の低下を招く。傭兵は盗賊となり、従来の傭兵像は人々から消え失せた。


「じゃあ、その事について話合いましょう。素材はありますから人材と設備を...。」







「ハイエナ様。」


 背後からの突然の声に少し驚き、一瞬身体が跳ねる。気を取り直して声の方へ顔を向けると、狩人の1人が立っている。酷く疲れているようだ。だが、どこか生き生きとしてしている。彼から良い運動をした後のような雰囲気を感じた。


「報告します。戦闘中に逃亡した敵の大半は北側の落とし穴で処理できたようです。南側で7名殺害しました。こちらに損害はありません。」


「そうですか、狩人と村人の混成部隊の報告をお願いします。ちゃんと、敵を複数で囲んで叩けましたか?」


「問題ありません。」


「そうですか。では、狩人の皆さんはもう休んでください。また、仕事してもらいますからね。」


「それは構わないのですが、報酬はいつ...。」


「戦闘処理が済み次第今回の報酬を渡しますから、取り敢えず休んでください。」


 私の言葉を聞いた狩人は安心した表情で仲間のところへ帰った。私は商人と話を続け、気づけば私達以外は戦闘処理を終えて食事を取っていた。商人達と話を切り上げて、休息を取るように進める。食事に向かう彼らを横目に私は自分のテントへ向かった。


 空は赤く輝き、野鳥が舞っている。村は戦闘処理の時と違って、兵士を中心に食事を楽しむ男達の声で賑わっている。食事の時はどんな人間でも笑顔になるのだから不思議なものだ。







 私のテントには、干し草の上に置かれた毛皮のベッドと木箱の机があるだけだ。鞄から燭台を取り出し、蝋燭を突き立てる。外の松明から火を貰い、燭台を木箱の上に置いた。地面は石畳になっているため、安定していて非常に有難い。テントを設営してくれた召し仕い達に感謝しなければならない。


 再度鞄を探り、帳簿と木炭と水を探す。物溢れる鞄からそれらを見つけると、私は小さな明かりを頼りに記入を始めた。護衛兵や狩人、召し仕い達への給金が私の財布を殺しにかかってくる。さらに隊商の人員を軒並み部隊に組み込んでいるため、武器の輸送はエートルで止まったままだ。つまり、金が飛ぶばかりで収入がない最悪の状態と言える。


 さらにエートルの街に残した負傷者や村人の家族、孤児院への支援を考えると頭が痛くなる。私に残された時間は少ない。早くこの戦いを終わらせて街道の安全を確保し、商売を再開させなければ待っているのは破滅だ。これからの事を考えるほど、頭は痛みを増していく。私は苦しさのあまり木箱にもたれかかった。

 

「ハイエナ? ちょっといいかな。」


 友人の声がテントに透き通る。彼の声は金に頭を抱え悶絶する私を落ち着かせた。


「マカ、どうした?」


「食事持って来たよ。」


「いつもすまん。」


 彼は木箱にパンと野菜スープを置き、私ベッドに腰を下ろした。一瞬だけ食事を置く彼を見たが、顔に精気を感じられなかった。


「大丈夫か?」


「うん。」


「本当に?」


「いや...大丈夫じゃない。ハイエナ、相談に乗ってくれる?」


「ああ。」


「良かった。あのさ、前に殺人に慣れる事が怖いって言ったよね。僕の予想は当たってたよ。」


「そうだな。」


「広場での戦闘の時、思うように引き金を引けなかったんだ。これまでは夜襲だったから敵の顔を見る事もなかった。でも今回は、相手の顔が鮮明に見えた。」


「マカ...。」


「僕は目が良い方なんだ。狩人の皆にも獲物を見つけるのが上手いって言われた事もある。照準の先に見たのは顔、そして目だ。僕はその時撃つのを躊躇ってしまった。躊躇った結果、狩人が1人死んだ。鹿や兎を狩る時とは違った恐怖が込み上げてきたんだ。」


「それは...。」


「そして仲間が倒れた後、僕は引き金を引いた。それからは作業だ。淡々と落ち着いて引き金を引くだけだ。ハイエナ、僕は人殺しに慣れちゃったよ。」


 自虐的な笑みを浮かべる彼に、私は言葉を発する事ができなかった。彼の悩みに対して聞くだけが正解なのかも分からなかった。戦場での心の病は自然治癒で治せただろうか。私は元の世界でストレス障害について講習を受けた事がある。だが、その内容を思い出す事ができない。


 今思えば私は知識を頭に入れるだけの人間だ。引き出しの場所を忘れ、蓄えた財産を無駄にする人間だ。そんな者にこの病人を癒せるのだろうか。いや、無理だ。


「マカ、もし...。」


 私は言いかけた言葉を飲み込んだ。マカを孤児院に返したところで心の病が治るのだろうか。ラーサ院長やシャラ、子供達に負担をかけるだけでないかと考えた。優しいラーサ院長や病気がちのシャラにそのような事を押し付けられない。子供達もだ。


 本当にそうだろうか。私は友人を病ませてしまった事を攻められるのが怖いと思っているのではないだろうか。いや、そんなはずはない。


 頭の中で、自問自答を繰り返しながら結論を出そうとしたが徒労に終わった。私はマカに何もできない。テントで共にいる事しかできない。私達は無言のまま過ごした。外から聞こえてくる楽しげな声が私の頭をより苦しませた。


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