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残党狩りのハイエナ  作者: マトイ
生存編 利益のために
22/78

21 増援と奇襲

 

 今私の心は曇りなき空のように明るい。それに対して目の前の村人や兵士達の雰囲気は最悪だ。士気が低いという訳ではない。彼らは来るべき嵐に向けて意識を集中し、覚悟を決めている最中なのだ。


 警戒に出ていた狩人が荒々しい息で村に転がり込んできた。狩人は盗賊の援軍が村に向かって来ていると報告した。予定より一日早い援軍だ。この報告に村人達は動揺したが、カラシャが落ち着かせた。その後、私が細かい指示を出しながら全員を配置に着かせた。


 村が無人だと盗賊に警戒されるため数人を外に出して、ほとんどの者は家の中に隠れさせた。百人以上の男達を狭い家々に押し込めるのは無理があるかと心配していたが、意外にも問題はなかった。ただ、私は家の中には絶対入りたくないと思った。この数日間は盗賊との戦闘の準備を急いでいたため、誰も水浴びをしていない状態だ。そもそもこの地の人間は水浴びをする頻度も低い事を考えると、家の中の匂いなど想像したくもない。そのため、私は盗賊を出迎える役に志願した。


 村の北側と南側は罠を仕掛けているため、わざわざ盗賊達を出迎えないといけない。ラミンがその役目を買って出てくれた。私は彼の従者のふりをして出迎え役となる予定だ。私は一応指揮官だ。ラミンに指揮官が前線に出るのは良くない、匂いなど我慢して家に入るべきだと言われた。だが、それを拒否したくなる匂いだったし、別の理由もあったためラミンと一緒に村の東で立っている。


「本当に大丈夫なんですか?」


「たぶん大丈夫、問題ありません。」


 ラミンは不安そうにこちらを見る。狩人に盗賊が接近しているとの報告を受けてから彼は落ち着きがない。額には汗をかいて手も若干震えている。


「貴方こそ大丈夫ですか?」


「正直なところ、怖いです。」


「怖い?」


「ええ、今から盗賊との殺し合いが始まる、怖くないはずがありません。貴方達が村に現れて、盗賊を殺して回ったり、自分の手で仇を取れた時はそんな事を感じなかったんですが、今は恐怖している。」


 目の前の青年は淡々と自分の気持ちを語っている。聞き流そうとも思ったが、この青年は村人からの信頼が厚い。今は亡き村長の息子というのもあるが、村々への夜襲や訓練の時に村人をまとめていた。元々そういう人間なのだ。だから、彼は私と村人達を繋ぐ上で重要な人物であるため優遇した方がいい。


「ハイエナ様は怖くないのですか?」


「よく、わからないです。怖いと思うなら、その心を忘れないようにしたらいいと思いますよ。でも、敵はちゃんと殺してください。」


「わかっています。」


 彼から不安と恐怖心を取り除くのは、話を聞く事が一番だと思い、明確に答えようとはしなかった。それに、盗賊が来るまでの退屈しのぎにはちょうど良い。ただ、彼の話を聞くうちに、恐怖心の有り様について疑問ばかり持つ事になった。


 私は不安などないと自分に言い聞かせて精神を安定させようとしている。実際は戦う事を恐れているし、日々漠然とした不安を抱えている。恐怖と不安、この2つを活用する事が自分と他人を思い通りに動かす鍵だろう。だが、その方法を構築する事はただ金を稼ぐより難しい。


 人間は誰でも不安と恐怖を抱える。そして、私はそれらを十分に理解していない。私が他人と会話する時、特定の話で首を絞められたように言葉が出なくなる事もそれが原因だと考えられる。次々と思考を侵食する疑問に頭を痛めながら、盗賊が来るまで彼の話を聞いた。







「見てください、盗賊です。」


 ラミンが森の方へ顔を向けながら、嵐の到来を知らせた。薄暗い森からは多くの声が聞こえ、低い草が揺れている。私は村人の作業着に身を包んだ護衛兵に指示を出す。


「敵が来たと皆に知らせてください。そして、作戦通りに動けと...。」


 護衛兵は軽い会釈の後、村の方へ走っていく。私は森の方へ身体を向け、奥を凝視した。楽しそうな声とともに盗賊達の姿が見えた。


「ついに来ましたね。では、手筈通りにお願いします。」


「ええ、もちろんです、ハイエナ様。」


 少し不安が混じった頼もしそうな表情をしながら、ラミンは盗賊に向かっていった。


「皆さま、よくおいでくださいました。」


 ラミンは声を張って大げさに盗賊達を歓迎した。緊張の表れだろうか、数十人の武装した盗賊達を前に無理もない。私も多少緊張している。


「なんだ、今回は出迎え付きか。馬鹿もそれなりに学習したようだな。」


「ええ、もちろんです。」


「ところで歩哨が見当たらないようだが、どこにいる。」


「駐留していた方々は隊商の襲撃に向かっています。」


「襲撃? 歩哨も残さないでか?」


「ええと、それは...。」


「歩哨も含めて出撃しました。」


 私は無理やり会話に割り込んだ。言葉に詰まるラミンに代わり、盗賊と話そうとする。目の前の男は意外にも細かいところを気にしている。制圧した地域なのだから大雑把に歓迎されればいいくせに面倒な奴だ。ラミンは嘘が得意でない。私も得意ではないが、多少はマシだろう。


「なんだお前は。」


「ラミン様の、こちらの方の従者です。南側の街道を商人ギルドの大規模な隊商が通るとの情報を得たようで、ここに駐留していた皆様は歩哨も含めて出払っております。それに、交代は明日との事でしたので、帰ってくるのは夜かと思います。」


「そうか。にわかには信じ難い話だが、よく分かった。それにしても従者か、村人の間で下の者を作るのは感心しないと思わないか? 村人は平等に家畜だ。」


「そうでございますか、申し訳ありません。」


「分かればいい、では...。」


 話を終えた盗賊は、私の顔面目掛けて拳を振り上げた。凄まじい衝撃が顔にかかり、地面に倒れ込む。頬から首筋にかけて痛みが走り、起き上がれないでいた。いきなり殴るとは思わなかったため、私は心底驚いた。数秒経ち、痛みに耐えながら起き上がる。私を殴った盗賊は満足した顔で立っていた。


「豚が!」


「申し訳ありません。」


「交代の数日前は稼ぎに出るなと言っておいたはずなのに勝手な事を...本拠地に知らせもせずに出撃するなぞ死刑ものだぞ! お前達も止めるぐらいしろ!」


「申し訳ありません。」


 目の前の盗賊は声を荒げながら怒っている。私に八つ当たりするのは間違いだと思ったが、普段から村人の扱いはこんなものなのだろう。きっとこの男は殺そうとしないだけ良心的な方だ。


「行軍でお疲れでしょう。酒を用意しますので広場に来ていただいてよろしいですか?」


「はあ、くそが。いいだろう。大量の酒を用意しろ。それと騎兵もいるから馬用の食事もだ。」


「はい。」


 私はラミンとともに数十人の盗賊を広場に案内する。盗賊達は森の中を移動してきたため、疲労しているようだ。また、行軍を優先するために鎧や鎖帷子を脱いでいるため全員が普段着だ。とても都合がいい。特に軽騎兵が増援として来ているのがいい。ここで敵の主力を潰せる。







 私は盗賊達を広場に連れていく。所々に村人がいるが、その数は多くない。それに男ばかりで女がいない事を不審がられるかもしれない。さっさと済ませよう。


「各家々に酒と軽食がおいてあります。どうぞお入りになってください。」


「わかった。お前ら休憩だ。各自家で食事を取れ。」


 盗賊の隊長が指示を出すと、盗賊達は休憩に入る。疲れたようにその場に座り込む者、食事にありつこうと家へ入る者と様々だ。号令があるまで待機しているところを見ると、かなり行儀のいい集団だ。傭兵あがりや元正規兵も混じっているため秩序だっているのだろう。


「そう言えば、お前。」


「はい、何でしょう。」


「俺に殴られる前、交代について話したよな。」


「ええ、それが何か?」


「村人には交代の詳細は話していないはずだ。なぜお前が...。」


「ぎゃっ!」


 隊長が疑問を投げ掛けてくると同時に、家に入った盗賊達が情けない悲鳴をあげた。無理もない。扉を開けると、刺付きの丸太や球が上から頭目掛けて突き刺さるのだ。


「なにが...。」


 私は目の前の困惑している隊長の頭を、隠し持っていた弩で射る。隊長は顔を横に向けていたため、こめかみを短い矢が貫いた。矢は頭を貫通して向こう側の家の壁に突き刺さる。他の盗賊達は突然の出来事に混乱して、ただ立っているだけだ。私は大きく息を吸い込み、声を発する。


「攻撃開始!」


 攻撃の合図と共に家々の脆い屋根や壁が崩され、弓を持った狩人や護衛兵達が盗賊に矢を射かける。作業をする村人のふりをした護衛兵達が広場から出ようとしていた盗賊をいきなり斬りつける。突然の出来事に盗賊達はすぐに反応できなかった。弓兵の一斉射撃が呆ける盗賊の身体を貫き、虐殺ともいえる光景が広がる。


 弓兵の一斉射撃の後、家から村人や兵士が飛び出し、東西に展開して逃げ道をふさいだ。盗賊は袋のネズミとなる。西には投石器を持った村人達が集団で石を放ってくる。威力は弓ほどではないが、当たった石は盗賊の肉に食い込んで負傷させる。


 東には防御体型の傭兵と護衛兵が展開している。盗賊は散発的に攻撃を仕掛けるが大抵は槍で突かれて倒れていく。東西の逃げ道を塞がれ、南北から脱出しようとするも家の屋根や壁の隙間から矢が飛んでくる。東西南北全てを塞がれている。


 奇襲から生き残った盗賊達が即座に行動するが、彼らは盾を構えて亀のように防御するしかない。そして、ほとんどの盗賊が防具も着ていないため、盾の隙間から入ってくる石や矢に悲鳴をあげる。その一瞬が防御体型に隙をつくり、負傷者が増える。一方的な攻撃に盗賊達の数は少しずつ減っていく。


 矢や石には限りがあるため次第に飛び道具による攻撃は小さくなっていった。それを見計らって、盗賊の一部が家に籠る射手に突撃した。だが、扉を開くと待っているのは最初の罠だ。刺付きの丸太が盗賊をなぎ倒す。丸太に刺さったまま動かなくなった盗賊もいるようだ。







 私は隊長を殺した後、カラシャに連れられて家に入った。結局、家に入る事になってしまい、鼻の曲がるような思いをする。


「ハイエナ、奇襲は成功だ。敵は半分ぐらい削れただろう。このまま矢が尽きるまで敵の防御体型に射続ける。」


 息の詰まりそうな空間の中、カラシャは広場の盗賊達を隙間から見ながら説明してくれた。彼はどこか嬉しそうにしながら敵を眺めている。私も彼と同じように隙間から外を見る。


 東側では防御体型の傭兵達が逃げ道を塞ぎ、西側ではラミン指揮の下、村人達が石を投げている。盗賊達は家々の間を通って逃げようとしているが、村人に扮していた護衛兵達に阻まれて突破できそうにないようだ。作戦は面白いぐらいに成功した。盗賊達は何も出来ず死んでいく。一番警戒していた軽騎兵隊も騎乗すら出来ずに弓兵の餌食になっている。


 一部、家の間を突破して南北に逃げている盗賊もいる。その先に待つのは杭のある落とし穴とも知らずに必死に走っている彼らを見ると同情してしまう。


「可哀想だ。」


 私はいつの間にか、そう呟いていた。敵であるはずの盗賊達の死に様を見ていると何故か心が痛む。


「おいおい、ハイエナ。あれは敵だ。ただの動く肉塊だ。それに罠や作戦考えたのお前だろう?」


 カラシャは私の呟きが聞こえたようで、確認するように軽く話してきた。まったくその通りだ。敵に容赦すべきではない。だが、人が死ぬのを見て心は痛む。そして、痛むだけだ。たぶん明日には忘れているだろう。他人に腹が立って復讐してやろうと考えても時間が経てば復讐心が消えるのと同じだ。人が死ぬのも、ただの悲劇でしかない。時間が経てば忘れる。


「そうですね。矢が尽きかけても撃破できないなら、射撃を止めて降伏勧告してください。」


「わかった。ハイエナはどうするんだ?」


「上に行って弓兵の手伝いしてきます。」


 私は壁から離れて、崩れた天井から家の屋根に登った。屋根には弓兵達が忙しそうに矢を射ている。その中にはマカの姿もあった。彼は弩を構え、敵を見据えている。手の震えが小さくなっていき、それが最小になると引き金を引いた。矢は見事盾の隙間に吸い込まれていき、敵の頭部に命中する。


「お見事。」


 私は思わず称賛した。その声に反応してマカがこちらに振り向く。彼は無言のままこちらを見つめた。いつもの端正な顔からは想像できないほど、酷い顔をしていた。一見すればただの真顔だ。だが、よく見れば自殺志願者のようにどこか疲れた顔をしている。互いに見つめ合っていたが、数秒経ってマカは射撃に戻った。


 私は鞄から矢を取り出して弩に装填する。力を込めるが、中々上手く装填できない。マカの表情が頭から離れない。なぜこちらを見つめたのだろうか。マカとは親しいが、あんな表情は一度も見た事はなかった。戦闘で精神を病む人間も多いと聞く。おそらく彼はその状態なのだろう。


 矢を装填し、弩を構えると盗賊に向けて構える。いつも以上に手振れが酷い。中々狙いが定まらず苛立ちが溜まる。もしかすると、戦闘で病んでしまったのは私なのではないだろうか。


 私は考え事をしながら、盾の隙間から見える盗賊の顔目掛けて、重い引き金を引いた。


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