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残党狩りのハイエナ  作者: マトイ
生存編 利益のために
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19 人と武器

 

 暖かい風が吹く昼下がり、昼食を終えた私とカラシャは護衛兵と村人の合同訓練の様子を見ていた。護衛兵は正規兵や傭兵として活動していた者も多いため訓練の内容には事欠かない。狩りの経験がある者は弓の訓練を、足を負傷している者には投てきを、それ以外には槍の突き方を教えている。集団行動や行軍の仕方は教えなかった。時間もないし、私も民兵を育てたいわけではなかった。


 ここにいるのは男ばかり、非戦闘員は護衛をつけてエートルの街へ避難させた。護衛兵と村人合わせて百人前後だ。対して予想される盗賊の数は二百人前後、他の村々に駐留している数を合わせると三百人に届くだろう。質も数も圧倒的な差がある。まともに戦えば勝利はない。


「カラシャ、この戦力でいけると思いますか?」


「無理だな、確実に死ぬ。この詰みに近いかもしれない。」


「でしょうね、貴方は逃げますか? 旗色が悪くなると逃げるのは傭兵の基本でしょう。」


「逃げんよ。まだ金を貰っていないし、安定した収入がなくなるのは困る。それに姉さんの事もある。これ以上旅を続けたらいよいよ衰弱死する。だからハイエナには従うしかない。」


「そうですか。なら1つ頼まれて欲しい。ここにいる全ての人員と物資をもって、砦以外の散在する敵拠点を制圧してください。」


「それはまた無茶な命令を下しているな。」


 彼はひきつった笑みでこちらに顔を向ける。彼の困っている顔は少し新鮮で面白い。だがすぐに無表情になり、部下達の方へ向き直した。


「他の村を制圧するのはできない事もない。今は土の中にいる捕虜からの情報では、ここらに散在している村の敵戦力はここより少ない。だが、偵察もしていない土地に攻撃をしかけても上手くいくとは限らないし、危険も多い。何より人手も足りない。必ず討ち漏らしが出て敵の増援を招くだけだ。しかも、あと10日もないのだろう?」


「ええ、人も足りない。使える物資も少ない。時間もない。圧倒的に不利な状況です。」


 彼の表情は私との会話でどんどん暗くなっていく。一応ではあるが、私はこの密売組織の頭だ。その頭から不利な言葉が出れば気分も悪くなるだろう。


「確かに無いものが多いですが、金はあります。今まで武器密売で溜め込んできた金貨数十枚をつぎ込む予定です。人がいないなら雇えばいい、武器がないなら買えばいい、もしくは強奪する。時間がないなら無理やり作ります。」


「まずは貴方達にはエートルの狩人集団と合流してもらいます。彼らがここに来るはずだ。合流後、村々を急襲してここに村人を集めるようにお願いします。」


「お前はどうするんだ?」


「ラコテーに向かいます。人員と物資を集める。それと新しい防具の回収も行います。」


「新しい防具?」


「ええ、楽しみにしておいてください。では頼みます。」


 私はカラシャに後を任して、マカと数人の召し仕いと共に村から出た。目的地はラコテーのスラム街と芸術家の家だ。そこに勝つための条件が揃っている。我ながら酷い組織運用だと思う。交易の障害になるとはいえ、ラリカの軍を待たずに盗賊を攻撃して殲滅し、敵の怒りを買うような事をした。そして、部下を死地へ送り、自分は後方で安全な作業をする。敵と戦っている時点で商人としても組織の頭としても失格だろう。反省と言い訳を考えながら、馬車に揺られて薄暗い森を進む。







 いつも通りの汚い道、目の死んだ人間、ゴミを漁る家畜を横目に、見慣れた建物に入っていく。筋肉隆々の門番2人に気さくに挨拶をかわし、彼らに睨まれて萎縮するのも数十回は繰り返した。建物に入った私は部屋の前にマカを待たせた。たぶん外よりかは安全だろう。


 私があまり気を使わなくていい人物は少ない。目の前の男は、気を使われるのが嫌いという事もある。つまり、良い商売相手という事だ。


「ハイエナ、遅かったな心配してたぞ。てっきり盗賊を殺し損ねたのかとな。」


「ハシャ、会いたかったよ。」


「ああ、俺じゃなくて奴隷達にだろ? まあいい、座ってくれ。」


 一応商談ではあるというのに目の前の友人は寝間着で豪華な椅子に座っている。よく見ると部屋の調度品や装飾品がより豪華なものに変わっている。


「ん? ああ、ここのところ順調に商売が続いていてね。我々は大儲けしている。これもお前がスラムに武器をもたらした結果だ。」


「そうだろうな。それにハシャ、お前俺が渡した武器を売ってるそうじゃないか。」


「ああ、そうだ。やってる奴が少なくて儲けの大きい商売を見過ごすはずがない。まあ安心してくれ。単なる小遣い稼ぎだからお前と対立しないように調整するさ。」


 ハシャは私の真似事をしているようだ。それもより上手く商売している。これが運送力に違いだ。陸と海とでは儲けの差が大きいのは当たり前だ。友人は海運で成功しているのに私ときたら盗賊と戦って貯蓄を放出するなどと端から見れば愚か者だろう。


「それで、お前がここに来た理由は知っている。俺もお前が武器を売りさばいてくれないと儲けられないんだ。だから最大限の協力を約束する。」


「話が早くて助かる。傭兵を1ヵ月雇用したい。仲介してくれ。」


「はあ、俺は一応奴隷商人なんだが、まるで傭兵隊長みたいだな。それで人数は?」


「100人だ。」


「100人、そうだな、紹介できない事もない。この時代、傭兵はいくらでもいるからな。仲介料込みで・・・金貨30枚だ。」


「は?」


「冗談だよ。金貨5枚だ。」


「急に安くなったな。」


「落ち着けハイエナ。時間がないのはわかる。はだが落ち着いた方がいい。冷静でないと負けるかもしれんぞ。まあ、いい。今北スラーフは南以上に荒れている。豚のような怪物が増え、領主同士の争いも頻発している。そんな情勢だから傭兵になる奴も多い。安い馬と30人の傭兵の値段が同じ地域もある。」


「そうか。」


 興味のない声で彼に返事をした後、羊皮紙の契約書に名前を書いた。この大陸では口頭契約が基本となるが、私達は必ず紙に記録を残すようにしている。私が裏切った時、ハシャはラリカへ契約書を送る。ハシャが裏切った時、私はラコテーの商人ギルドへ契約書を送る。商人ギルドは暇さえあればハシャを殺そうとしているが、なにかしらの資料のない状態では逮捕しようとしない。互いに抑止力を持つ事が裏切りを防ぐ。


「傭兵の指揮官は酒場にいる。この書類と金が引き換えだ。」


 私はハシャに金貨5枚を渡して傭兵の書類を受け取った。傭兵への代金はハシャが仲介して後から支払うため、後は傭兵に会うだけだ。


「今回も良い取引ができた。幸運を祈ってるぜハイエナ。」


「それはどうもありがとう。」


 大げさに一礼して豪華絢爛な部屋から出た。ハシャと会うのは楽しいが、疲れるため一日一回以上は会いたくない。私は傭兵のいる酒場と芸術家の家へ急ぎ足で向かった。







 スラム街の方の酒場に着くと、ちょうど殺人事件が起きていた。犯人は私が雇う予定の傭兵隊長だ。酒を飲んで酔って他人の女に絡んだあげく、その女の男を殺したらしい。止めようとした人間も切り殺した。私の到着とともに衛兵が乗り込んできたが、丁重にお帰りいただいた。おかげで金貨数枚残っていた財布は空になった。最近は多くの金が飛んでいき、私の気持ちは下がるばかりだ。


 衛兵をどうにかした後、酒場の店主が死体を片付けるのを横目に傭兵隊長に話かけた。始めは私を殺そうとしていたが、ハシャの名前を出して書類を渡すと態度が一転し、媚びてきた。逞しい男だ。


「エートルの商人ハイエナです。よろしくお願いします。」


「ああ、こちらこそよろしくお願いします。いやまさかあのハイエナ様とは思いませんでした。噂以上に凄いお方だ。」


「ははっ、そうですか。そうだここに名前か印を書いてくれませんか?」


 私は鞄から羊皮紙の束を取り出し、彼の前に広げた。彼は怪訝な顔になる。


「書類はもうあるはずですが...これ一体なんですか? 色々と名前が書いてありますね。」


「いえ、これは重要な人物になるであろう人に名前を書いて貰っているんですよ。貴方の事はハシャから色々と教えられました。」


「そうですかい。ありがとうございます。」


 彼はへこへこと頭を下げながら自分の名前を書いた。文字を書けるあたり元は教育を受けた騎士か聖職者、もしかすると没落貴族かもしれない。いずれにせよ、私は彼と彼の傭兵団を使い潰そうと考えた。







 芸術家というのは何とも不思議な人間だ。独特の個性から作られる素晴らしい作品は他者の感覚を刺激して、また新たなものを作り出す。だが、目の前の男はいささか個性的過ぎると思う。


 私はフォルンツの家へ来ている。彼は家の中で麻袋を頭に被りながら演劇のように剣を振り回している。端から見れば狂った処刑人が暴走しているようにしか見えない。まさしく狂人だ。一緒に来たマカもいい反応をしている。得体の知れない気味の悪いものを見る目だ。


「ああ、ハイエナ殿。いらしていたんですね。」


「フォルンツ殿、奇行が過ぎませんか?」


「いえ、これは精神を新たな段階へと導くために必要な事なのです。麻袋を被れば革新的な視点を持てると信じております。」


「ねえ、ハイエナ。この人大丈夫?」


 マカは怯えた様子だ。私はもう慣れてしまったため何も思わないが、マカには厳しい相手だろう。


「おや、こちらのお嬢さんは?」


「僕はマカと言います。ハイエナの友人です。よろしくお願いします。あと僕は男です。」


「なんと! 男性でしたか、この容姿で男性とは、いや凄い。是非ともじっくりお話したいものだ。」


「フォルンツ殿...。」


 私は呆れた声でフォルンツの暴走を止めた。一瞬マカの貞操の危機かと感じたが、たぶん思い違いだろう。フォルンツは一応紳士な男だ。


「あまり、暴走しないでください。それと、下着素材を頭に着用するのは不審者ですよ。例の物は完成しましたか?」


「ええ、完成しましたとも。歴史遺物の再現は楽しいものでした。資金を気にせず好きな事をできるのは良いものですね。」


「それでブツはどこに?」


「ここです!」


 彼は紐で止めていたポンチョを開き、自分の胴体を私に見せつけるように前へ出てきた。そこには、布でできた鎧があった。多少の染みはあるが、白色の軽そうな鎧だ。


「おお、完成したのか。」


「ええ、試作品ですが、完成しました。合計40着です。それと貴方から渡されたサヴァラの樹脂で油も作っておきました。大変だったんですよ、私の友人にも声をかけて夜通し製作しました。物資は小屋の後ろに置いてあります。後で回収してくださいね。」


「さあ、実験です!」


 嬉しそうな声で彼は私に弓を渡してきた。麻袋で顔は見えないが、きっと満面の笑みでこちらを見ている。


「マカ...頼む。」


「え? どういうこと。」


「これでフォルンツ殿を射ってくれ。鎧の部分を狙ってくれよ。」


「大丈夫なの?」


「問題ない。」


 マカは嫌そうに弓を受け取り、矢を取り出して、つるに矢をあてがい構える。フォルンツは後ろで手を組み、直立不動で待機している。フォルンツとマカの間は、およそ三メートルほどでかなりの至近距離実験だ。


 マカの動きが次第に小さくなり震えが止まったかと思うと、持っていた羽から手を離し矢は放たれた。矢は勢いよく鎧に刺さった。フォルンツは一瞬後退りしたが、平気そうにマカと私を交互に見た。鎧は矢を防御したのだ。


「見てください、実験は成功です! この距離の矢を止めた。」


「ああ、素晴らしい。というか耐久試験をしてなかったのか?」


「いえ、39着は乞食を使って試験しました。これは41着目です。最後は自分を使って試験したかった。それが製作者の責任です。」


 私の不安は一気に解消した。待ちわびた布鎧が手に入ったのだ。フォルンツから多少の不穏な実験内容を聞いたが、それも気にならないぐらいだ。集団で運用するから一つぐらいは問題ない。


「ありがとうございますフォルンツ殿、私は部下のところへ戻ります。」


「ああ、ハイエナ殿帰ろうとしないで、簡単な説明だけさせてください。」


「この鎧は、亜麻と動物の脂から作られた接着剤を組み合わせいます。防御力は見ての通りです。動物の脂が凝固するためこの防御力となるのでしょうね。麻は通気性がよく入手しやすい素材ですから、この鎧の整備性と軽さ、生産性は他と比べ物になりません。」


「ご命令とあらばいくらでも作りますよ。材料と資金は持参してもらいますがね。」


「また頼むかもしれません。」


 私はフォルンツに一礼して金の入った袋を渡した。マカに金を渡しておいて正解だった。私が持っていたら酒場で衛兵に取られていただろう。召し仕い達に物資を馬車に積み込ませ、契約していた傭兵隊長に会うため門の外に向かった。


 門の外には百人の傭兵が気だるそうに待機している。傭兵隊長に目的地を説明してすぐに出発する。金を使って人と物資を集めた。あとは時間との勝負となる。援軍を待つカラシャと部下達のため私は出来る限り急いだ。


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