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残党狩りのハイエナ  作者: マトイ
生存編 利益のために
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14 魔法の道具と戦争奴隷

 

 スラーフ王国の南側は温暖な気候と海に面した点が特徴であり、それを生かして南スラーフでは果樹や薬草の栽培が盛んである。また、港街等は大型船を用いた貿易によって莫大な利益を上げている。それらの豊かな土地を巡って、南スラーフでは二つの勢力がしのぎを削る。


 ラリカとサヴァラの戦いは数年に渡り続いていたが、一進一退の攻防で統一にはほど遠い状況だった。だが、ここ数ヶ月に渡ってラリカはその勢力をより巨大なものへと変えた。山の民との交流で質の良い大量の武器・防具と出所不明の大金がラリカを潤した。資金に余裕のできたラリカは、サヴァラの傭兵団に引き抜き工作を行ったり、軽装歩兵と騎兵の混成部隊が後方の村々を襲撃して、軍事的にも経済的にもサヴァラを苦しめた。余裕のなくなったサヴァラはほぼ負けに近い状態であり、経費削減によって賃金が払われない状態から傭兵の脱走が後を立たない。


 私としては、この状況を見過ごすはずがない。儲ける良い機会だ。現在はラリカからサヴァラへの攻撃は行われないため、それなりの準備期間がある。私はサヴァラを救うため、スラムのお頭ハシャの所へ足を運んでいた。


「弓騎兵を50人用意するなんて無理だ。別のにしてくれないか? 頼むよハイエナ。」


「何でだ。金に糸目はつけんぞ。」


「あのな、うちはそれなりの規模で奴隷を扱っているが、戦闘奴隷はそうそう手に入るもんじゃない。弓騎兵とくればなおさらだ。お前弓騎兵の値段を知ってるか? 歩兵に払う金を週銀貨1枚とした時、弓騎兵は週金貨1枚、精鋭だと金貨3枚だ。維持費だけじゃない。仲介費用やその他も加算すると、1人につき金貨10枚だぞ。そんな貴重な人材はそうそう市場に流れてないんだ。」


「じゃあ、歩兵の戦闘奴隷を頼む。あと、そいつらを輸送するための人員も雇いたい。」


「分かった。歩兵だと......ムステの戦闘奴隷50人と元人狩りの傭兵達を用意できる。お代は金貨2枚と銀貨15枚だ。」


「ほら。」


 私は金貨を数枚取り出してから金の入った小袋を渡した。予想していたより安くすんだ。人の命が軽すぎるとも思ったが、この戦乱と死人溢れる時代に人権などないだろう。


「確かに受けとった。他にも戦闘用の動物があるぞ。肉食の動物は金貨5枚、草食の大型は金貨7枚だ。」


「俺を散財させる気か? 多少儲けたが、そんなに金貨を使ってたら無くなるわ。それにしても人間が金貨2枚で、動物がその数倍とはな......」


「なら女はどうだ? 戦争のせいで女奴隷が余りまくってるから代金は男の4分の1だ。」


「無理。」


 何とも商魂逞しい男だろうか。こちらが問題点を言えば、すぐに切り替えて次の手を考えてくる。だが、労働者としても戦士としても劣っている二級品を買うのはただ金を捨てているだけに等しい。性処理用に買う事もできるが、なるべくそんな事はしたくない。女の取り合いでうちの隊商が崩壊するかもしれないし、士気や評判にも関わる。女奴隷は組織を持つと多少厄介な商品となる。あまり関わらない事が重要だ。







「契約成立と。あ、忘れてた。お前に渡したい物があるんだった。」


 ハシャは棚から宝石で装飾された小箱を取り出してきた。箱は鎖と錠前でしっかりと保護されている。箱を机の上に置き、開く側を私の方へ向けてゆっくりと開錠した。


「古代の品々、4つの魔法の道具だ。」


「魔法の道具......」


 私の目の前の箱には、四つの品物が置かれている。指輪、腕輪、頭飾り、上等な靴だ。どれも見事な細工が散りばめられた一級品に見える。だが、魔法が込められた品物には見えない。ただの上等な品々だ。


「本当に魔法の道具なのか? 帝国末期に魔法は使えなくなったと言い伝えられているぞ。現に私が手をかざしても、火の球や水は出てこないぞ。」


「ああ、勿論だ。実際に試して見せようか? おい、そいつを入れろ。」


 ハシャが命令すると、部屋に三人の男が入ってくる。二人はハシャの部下、もう一人は拘束された浮浪者に見える。右手の人差し指を残して全ての指が切り落とされており、口には猿ぐつわがある。


「今からこの指輪をこいつにつける。心配するな、こいつは子供に薬売ってた悪人だからな。」


 そう言ってハシャは指輪をその男の唯一の指にはめた。次の瞬間、男は金切り声のような異常な声をあげながら、もがき苦しみだした。白目を向いており、口からは血と涎を出している。


 しばらくして男の皮膚に変化が訪れた。血管が浮き出し、筋肉が膨張している。男の筋肉はみるみるうちに大きくなり、肩はドッチボールほどの大きさになった。上半身の筋肉が限界まで肥大化学しており、まるでゴリラのように不均等の身体が作られている。


「なあ、こいつ暴れだしたりは......」


「大丈夫だ。今こいつの意識はない。」


 その後、数分男を眺めてからハシャに実証を止めさせた。どうやら本物の魔法の道具らしい。だが、明らかに欠陥品ではないだろうか。指輪を外された男は牽かれたカエルのように痙攣しながら吐血して引きずられていった。実用性のある物とは到底思えない。


「とても信じられない。本当に魔法の道具だとは...詳しく説明してくれないか?」 


「ああ、いいぜ。この箱にある品々は、帝国末期に戦争で東方大陸へ渡った物で、逆輸入の形で手に入れた。魔法技術が失われる前、怪物や異民族との戦争に苦戦して、急所試作されたものだ。」


「さっき男につけたこれは、力の指輪と呼ばれている。東方の学者達が言うには、破壊と超回復を人為的に起こし、使用者の筋力を一時的に高めるが、激しい痛みをともなう指輪らしい。」


「次に守りの腕輪だ。これは力の指輪から派生した装飾品で指輪と同じ効果を持つが、指輪と違い使用者の脂肪を増大させる効果もある。蓄えられた脂肪と筋肉によって刃物で切られても致命傷になりにくい。」


「そして、知の頭飾りだ。使用者の思考力の強化を促す効果を持っている。無性に本を読みたくなり、睡眠や食事を削るようになる。また、後期に生産された品物の中には右脳を強化するものもあったそうだ。東方の学者達は死亡した使用者の頭部を解剖した。すると、右脳を筆頭に脳が肥大化していた。」


「最後に素早さの靴だ。これも力の指輪から派生した装飾品で、力の指輪が腕の筋力を重点的に強化する装飾品なら、靴は脚の筋力を強化する装飾品となる。これらの装飾品は絶大な効果と引き換えに使用者に大きな負担をもたらすものであり、非常に珍しく、危険なものだ。そして、量産された装飾品は現在の市場には存在しないが、帝国の遺跡に大量に眠っているらしい。」


 彼は一通りの説明を終えると、ワインを飲んで喉を潤し始めた。私も一口飲み、水分補給を行う。


「なんで......私にこれを見せた。」


「そう、それが問題なんだ。ハイエナ、これ全部引き取ってくれないか?」


「断る。」


 私は即座に断った。こんな役に立たなそうな、ただ珍しいだけの物を押し付けられても得にはならない。もしかすると、物好きの貴族が高値で買ってくれるかもしれないが、私としてはその変人を探す方が手間だ。そんな時間があれば1本でも多く剣を売ろうとする。


「頼むぜハイエナ。この品々は魔法技術を失った人間からすれば価値のあるものだぞ。高値で売れるはずだ。」


「じゃあ自分で売れよ。」


「無理だ。俺は悪人専門の商人で、貴族や王様に売るのは慣れてない。頼む、無料で槍騎兵10騎くれてやるから引き取ってくれ。これをここに置いておくと色々と問題があるんだ。主に東方諸国絡みでな。」


 結局私はハシャの言葉と槍騎兵に押しきられてしまい、仕方なくその欠陥品を引き取った。自分で使おうとは思わない。買い手が見つかるまで大事に保存しておく事にした。







 ハシャとの商談を終えてから十数日経った。現在、私は荷馬車に大量の矢と長槍を詰め込んで、召し仕いと護衛兵、奴隷調教師兼傭兵二十人と五十人の戦闘奴隷を連れてサヴァラに来ている。それと、十騎の槍騎兵隊も同行している。百人近い行列にサヴァラの衛兵は戸惑っていた。少し可哀想に思えたが、こちらも商売だ。商品をよく見せるための工夫は大事な事だ。


 しばらくすると、サヴァラの領主からお呼びがかかり、私は城の中へ通された。ラリカにサヴァラと内通していると思われたくないため顔は鉄仮面で隠している。


「それで、君は商人なのか? その風貌で?」


「ええ、勿論です。私はしがない行商人です。こうして貴方様とお会いできる事を光栄に存じます。」


「まあいい、それで今日はどのようなご用件で? まさか、外の兵隊どもを使ってこの城を落としにきたわけではあるまい。」


「ええ、私の望みは貴方と取引をする事だ。私は戦争のための武器と人員を貴方に提供します。私が貴方にお渡しできるのは、弓矢500本、長槍100本に槍騎兵を10騎と歩兵の戦闘奴隷を50人です。来るべきラリカとの決戦に、戦力は必要でしょう?」


「大量の武器と人員、確かに我々はラリカとの早期決着を望んでいる。これ以上戦争が長引けば、あらゆる面で不利益となる。だから、君の提示する戦力は是非とも欲しい。だが、我々にはすぐに出せる金がないぞ。君は我々に何を望む。」


「私が望むのは大量の樹脂と麻、それから貴方の金鉱から採れる金の2割をいただきたい。」


「樹脂と麻はともかく、金はだめだ。我が領土の安定した収入源だぞ。」


「金を貰えないなら、この話はなしという事でお願いします。」


 私が交渉を打ち切ろうとする素振りを見せると、サヴァラ伯爵は分かりやすいほどに怒りを露にした。


「先ほどから何様のつもりだ。領主に向かって無礼だと思わないのか? お前をこの場で叩き斬る事もできるのだぞ。」


「そのようなご無体を成された場合、今後2度と武器を買えなくなりますよ。それに私はラリカとも親しい、見てくださいこの剣を......」


 私はラリカの紋章がついた長剣を伯爵に見せる。伯爵は驚き、固まってしまった。勿論、私が持っている剣はアモの横流しで手に入れた者であり、ラリカと親しいわけではない。ラーテとは親しいかもしれないが、一人の商人が死んだぐらいではラリカは動かない。ここでは、私がラリカと親しい物的証拠をサヴァラ伯爵に見せる事が重要である。ラリカとサヴァラは戦争状態にあるため、確認しようにもできない。現在サヴァラはラリカの油断により一命を取り止めている状況だ。ラリカが攻め込んでくる口実は避けたいだろう。


「サヴァラ伯爵、分かりますよね。」


「くそっ...金鉱から出せるのは1割だけだ。これ以上は無理だ。」


「ありがとうございます。取引成立という事で、今後ともご贔屓にお願いいたします。」


 私はサヴァラ伯爵と握手をかわしたあと、一礼して部屋を出た。外に出た私は鉄仮面を脱ぎ、大量の汗を拭いた。サヴァラ伯爵の気迫は鬼のようであり、話し合いの最中や伯爵が怒り心頭の時は心臓が止まるかと思った。慣れない事はするものではない。だがこれで、少々の金と大量の麻と樹液を手に入れる事ができた。万々歳の結果だ。


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