花橘ノスタルジア3
まだ序章です
ちりん、と甲高い音が響いた。
寿々の左耳に飾られた小さな二つの鈴。
祖母から渡された小さな耳飾りはお守り、と彼女は言った。
「寿々を守ってくれるから」
小さな鈴はまた音を鳴らす。
しかしこの鈴は芯がない。
だから音が出るわけがなかった。
それが鳴る時がある。
「またか」
寿々は溜息を吐き言葉を吐く。
赤いフレームの眼鏡の下、一度目を瞑った。
決意を込めたように眼を開ける。
右目だけ紫色に浮かび上がる。
「負けない」
お守りと渡された鈴を身につけて数十年、今は20歳を越えた。
ここまで生きてこられたのはこの耳飾りのおかげもあった。
紫色の眼に映るのは黒い霧の集合体のようなものだった、そして悪意をひしひしと感じた。
まとわりつき始めた黒い霧に鳥肌が生じた。
(眼を、)
寄越せ、と言われた気がした。
ちりん、と耳飾りは鳴る。
それは目の前の悪意を威嚇し、警告のように音を発した。
「いい加減にしてよ」
寿々は手をぎゅっと握った。
ぱあん、と、破裂音が響いた。
「何?今の音」
その空間に響く破裂音にドアの空いた音やら人の近づく足音が聞こえた。
「…すみません」
寿々は苦笑いして振り返る。
その手にはあんぱんの袋を持って。
此処は大学の校舎の廊下。
しかも薬学部の校舎へと向かう廊下だった。
授業の時間ではなかったが、まだ学生やら講師やらが在籍していた。
「御坂さん…」
白衣を着た女性が怪訝そうに寿々を見た。
紫色の髪留めを外し長い髪を下ろした整った顔は少し怒っているように見えた。
「揚羽先輩、すみません」
寿々は苦笑いして答える。
この表れた女性とは先輩後輩の関係だった。
「小腹が空いたからあんぱんを食べようとして、かしら」
「…そんなとこです、すみません、うまく開かなくて」
「驚かさないでよね、人騒がせな」
「デスヨネ」
「早く行きなさい」
数名揚羽と呼ばれた女性の後ろからやってきた学生を遮るように寿々に言った。
「失礼します」
苦笑いしながら慌てて寿々は歩き出す。
この場所は薬学部、色々な薬品がある。取り扱いはかなり慎重にならざるを得ない。
破裂音はかなり緊張が走っただろう。
寿々はあんぱんを握りしめて歩く、その表情は暗い。
先程の破裂音。
それは先程の悪意に叩き込んだ音。
つまり祓ったのだ。
平手打ちで。
少しずつ書き足します
ありがとうございました!