第九話 淀んだ意識の中で
「クソ!死にたくない。死にたくない。」
少年は痺れる腕で立つ事も出来ないまま
絶望の中、ゴブリンに殺されようとしていた。
もはや腕が動かず、剣を握ることはおろか、
立ち上がることすらできないでいた。
そんななか、突然音もなく
背後から一人の男が現れた。
謎の男の声
「なかなかいい動きをしていたな、少年!」
状況とは不釣り合いな飄々とした雰囲気で
音もなく現れスッと、ヘクトールのそばまで近づいた。
まるで滑っているかのような
なめらかな足使いだった。
綺麗な甲冑に身を包んだ
細身の髭面の男は
ダンスのステップを踏むかの様な華麗さで
クルクルと回りながら、
右手にレイピア、左手にギザギザの短剣を振り回し
回るごとにゴブリンがさながらミンチの様に
細切れになって行く。
その動きはヘクトールの目には
スローモーションのように流れたが、
実際には一瞬の事だった。
ゴブリン達がなにも動くことができない間に
ゴブリンの鼻先が飛び、
頭が飛び、手が飛び、
顎が弾け、胴体は切断され、
残った足は立ったまま
更に三等分された。
あっという間に4匹のゴブリンが
肉塊へと変わった。
回転でめくれ上がっていたマントはすべてが終わってから
間をおいて、ひらりと翻り、ゆっくりと降りていく
息一つ切らすことなく
まるで何事もなかったかの様に
あっけらかんと彼はヘクトールに言う。
騎士のような男
「少年、これを飲んでおけ。
奴らは痺れ毒を刃に仕込んでいる。
これは麻痺薬だ。飲めば少しずつ良くなる。」
ヘクトール
「あ、あなたは。。。」
騎士のような男
「私はフィオーレ・フルラーノ・デ・シヴィデール・デ・ガンドリオ・デッリ・リベリ・ダ・プレマリアッコだ!」
ヘクトール
「えと、すいません、名前が」
騎士のような男
「人は私をこう呼ぶ。
フィオレ・ディ・リベリと。」
ヘクトール
「…あ、はい、ありがとうございます。
フィオレさん」
フィオレ
「ときに少年、君はどこで剣術を習った?」
ヘクトール
「僕は剣術は習っていません。多分」
フィオレ
「多分とは?」
ヘクトール
「記憶喪失で、過去のことがわからないんです」
フィオレ
「そういうことか。
おそらくお前は過去に、変わった剣術を学んでいるようだ。
だがお前はそれを忘れている。
剣筋がいびつなのはそれだな。」
ヘクトール
「少し見るだけでそこまでわかるんですか?」
フィオレ
「そうとも。私はマエストロ。剣の道には少々詳しい。」
ヘクトール
「それは心強い!この先には
連れて行かれた女が最低二人いるんです!
ぜひ力をお貸しください」
フィオレ
「もとよりそのつもりだ。少年、歩けるか」
ヘクトール
「薬のおかげでなんとかゆっくりなら。」
フィオレ
「いいだろう。後ろからゆっくりついてこい。
私が奴らを討ち漏らすことはない。」
ヘクトール
「わかりました。」
フィオレ
「だが心するがいい。
神の使いから闇に落ちた魔獣たちに
慈悲の心などない。
人を弄び、犯し、喰らう。それが奴らの全てだ。」
ヘクトール
「…はい。」
ヘクトールはよろよろと立ち上がり
しびれた手で剣を拾う。
マントを翻し颯爽とあるき出すフィオレは
ゆっくり歩いているようで妙に歩くのが早く、
あっという間に洞窟の奥の方へと進んでいく。
ヘクトールもおいていかれないようにと
おぼつかない足取りであるき出した。
ヘクトール
「無事でいてくれ…ふたりとも…」
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