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第八話 ゴブリンの巣

腐臭漂う凄惨な場所を後にして、

僕はマルスタンと共に

分かれ道のもう片方の道を進む。


所々にかけてある

松明の灯りが当たらないところは

本当に真っ暗だ。


暗闇に紛れているゴブリンがいても、

これでは気付けないかもしれない。


マルスタンの肩を支えながら

ゆっくりと進んでいく。


やがて洞窟が徐々に広くなり灯りが

沢山灯されている空間が見えて来た。


そしてその空間の奥には更に

洞窟が続いているように見える。

ここからがゴブリンの住処と

なるのだろうか。


あかりの灯された空間には

門番の役割だろうか。

ゴブリンが一人だけいて

奥の洞窟の方を覗いているようだ。


マルスタン

「どうやら一人のようだな。

しかも後ろを向いてやがる」


「気付かれないように殺そう。」


マルスタン

「いや、ここからは俺一人で行く。

挑発するみたいにして

無理やり付き合わせちまって悪かったな。

お前はここで戻れ。」


「俺はお前と死にに来たわけじゃない。

俺たちはお前の嫁とリリアを助け出して、

生きてここから逃げる。そうだろ?」


マルスタン

「ああ。そうだが…」


「だったら二人で行くしか無いだろ。

必ず二人を助け出そう。きっと二人は

まだ無事でいてくれてる。信じよう。」


マルスタン

「お前…

ああ、そうだな。頼む。」


「急ごう。やつが後ろを向いている間に」


二人は顔を見合わせうなずく。


僕はそっと静かにレイピアを抜いて構えた。

マルスタンも自分の足で立ち、

抜き身のショートソードを両手に構える。


明かりの灯された空間に

音を出さないように二人で忍び寄っていく。



マルスタン

「あいつは何をやっているんだ?」


見張り役のようなゴブリンは

こちらへと背を向け、

奥へと続く洞窟を覗き込みながら

お腹を擦るように小刻みに右手を

上下させている。



「どちらにしてもチャンスだ。

一気に行こう!」


その時だった

洞窟の奥の方から叫び声が聞こえてきた。


女の声

「いぎぃぃぃぃぃ!」


別の女の声

「イダイイダイイダイイダイ!」


女の声

「ゔわぁぁぁぁぁ」



マルスタンは確信したみたいだ。

その声が愛する妻の声だということを。



二人で一気に駆け出し、

見張り役のゴブリンの背後から

二本の剣を突き立てる。


僕は剣を刺すと同時に左手で

ゴブリンの口と鼻を押さえる。


ゴブリン

「ムググググググ」


モゴモゴとこもった声を上げ

ゴブリンはバタバタと抵抗したが

体からすっと力が抜ける。


抑えていた手を外し

左にゴブリンは崩れた。


マルスタン

「こいつ、許さん!」


ゴブリンの下腹部には

麻の腰布に

股間には肘から握りこぶしほどの

膨らみができている。


マルスタン

「悲鳴で興奮するゲスが。」


小さな声で、だが憎しみのこもった声で

罵倒するマルスタン。



マルスタンは

ゴルフを打つときのような格好で

ショートソードを両手に構え

ゴブリンの股間へと剣を振り下ろす。



ゴっ!


…クチャ



ゴっ!


…クチュ


ゴっ!


…ピチャ


鬼の様な形相で

何度も何度も股間へと

剣を振り下ろしては

振り上げまた剣を振り下ろす。



「やめろ!音で気づかれる!」


マルスタン

「こいつぁ奥の

二人の音を聞いて欲情してやがったんだ!」



「気持ちはわかる!だけど…」


マルスタン

「皆殺しにしてやる!

こいつら全員ころ…」


突然マルスタンは

声を遮られた。


マルスタン

「こっ、コフ」


喉が詰まったような

声にならない声をあげるマルスタンの

喉元には

喉仏を横から貫くように

深々と木の矢が貫通していた。


マルスタン

「コッ、コフ」


目が飛び出そうなほど

目を見開きもと来た道の方を

にらみつけるマルスタン


その視線の先には

ゴブリンが二匹立っていた。


マルスタンは持っていたショートソードを

ゴブリンへと投げつけながら

顔から地面へと倒れた。


ショートソードは無情にも

左にそれ壁に当たり落ちる。


ガシャン!

ガラン



「くそ、なんで後ろに!」


手槍を持ったゴブリンが二匹見えるが

弓を持ったゴブリンは見当たらない。


その時、脇の暗闇に

キラリと何かが光る。


「脇に洞穴があるのか!」



僕は駆け出し手前の手槍を持ったゴブリンの

胸へと剣を突き刺す。


手前のゴブリン

「ギギギギ」


手前のゴブリンは悲鳴をあげながらも

手槍を振り下ろしてくる。


僕は弓がいるであろう

洞穴から射線が遮られるように

ゴブリンの手を抑えながらしゃがむ。




シュ!



手前のゴブリン

「ギギ…」


ゴブリンの背中に弓が命中したようだった。

刺さった剣を持ったままゴブリンを

左に押し返しその勢いで

次のゴブリンの首へとレイピアを突き刺す。



シュ!


静かな音と同時に左足に激痛が走る。


「つっ!」


左足の太ももには矢が刺さっていた。


「クソ…がぁああああ!」


痛みを堪え、

両手で胸と顔を隠すように覆いながら

弓を持ったゴブリンへと走る。



シュ!



左肩を矢がかすめたが

円形のレザーアーマーの肩が

矢を弾いた。



「ぜぇぇぇぇい!」


薄っすらと闇に見える

ゴブリンのシルエットの頭に

レイピアを突き立てる。


ゴっ!


骨に当たり割れるような感触が

剣越しに伝わってくる。


レイピアを引くと

刺さった剣とともに

明かりに照らされるゴブリンの頭


レイピアはゴブリンの右目に直撃し

そのまま脳を貫いていた。


弓を持ったゴブリン

「っ、ヒッ、ヒッ」


ゴブリンは白目を剥き

ピクピクと肩や指先が痙攣している

だらりと開いた口から

紫の歯茎と黄色く汚れ尖った牙がみえる。

口からは泡を吹いている




「痛い…」


左足が痛い。

弓が刺さるというのは

これほどの激痛なのか。


痛みで気絶してしまいそうなほど

意識が薄れるのがわかる。


痛む左足を上げゴブリンの顔を踏みつけ

脳を貫いているレイピアを抜く。


ズズっ


クチャ



ゴブリンはおでこを打ち付けるように

倒れた。



「うう…足が…」


マルスタンが耐えていたのは

これ以上の激痛だったのだろうか。


興奮していた頭が少しづつ

冷静になるにつれ

痛みは増していく。



マルスタンは目をひん剥いたまま

地面に倒れ絶命している。


「クソ、クソ、クソ!」


不思議と頭に色々な

考えが流れ込んで来る。


マルスタンはこんな痛みに耐えていたのか、

こんな事考えている場合じゃない、先へ進もう。

この傷って治るのかな

混乱する頭に様々な考えが短時間で駆け回る。


「は…!」


ふと後ろを振り向くと

洞窟の奥の方にはゴブリンが立っていた。


下品にニヤリと口を歪ませる

ゴブリンとその後ろには

三匹ほどのゴブリンが見える。


「うお!まじかよ!」




終わった。


こんなの無理ゲーだ…

勝てるわけない。


「はぁ…はぁ…はあ…」


どうする、逃げるか?

この怪我で逃げ切れるのか?

弓ゴブリンはいるのか?

いや、逃げてどうする、

リリアを助けに来たんじゃなかったのか?

でも死ぬだけじゃないのか?


頭をさらに色々な考えが短時間にめぐる



この瞬間何故か

マルスタンに言われた事が

頭に流れた気がする。


「お前の腰の剣は飾りか!」

満身創痍でも夜を歩き通し

それでも鬼のような目の光をした

マルスタンの目がこちらを睨んだ。

優しさをたたえた顔立ちに

激情のこもったマルスタンの目だった。



「マルスタン。お前かっこいいよ。

赤穂浪士とかみてるみたいだった。

俺もあがかなきゃ。」



僕はレイピアを握り直し構える


「来いよ!ゲス野郎!うおぉぉぉぉぉぉ!」



シュ!


走り出そうとした瞬間に左の腹に

矢が刺さった。


僕はバランスを崩し

走った勢いのまま右の頬から

地面に倒れる


ゴスっ!


土と硬い石の感触が

右の頬を打つ。



「あぁぁぁ!クソ、クソクソ!」


立ち上がろうとすると

腕がプルプルと震えている。


痛みからだろうか、力が入らない。

手が滑りまた地面に顔をつけてしまう。


「嫌だ、死にたくない。こんなとこで

死にたくない、死にたくない、死にたくない」


垂直に見える地面に

一斉にゴブリンが動き出し

こちらに走り出すのが

スローモーションで見える。


くさそうな口から

ネバネバとしたよだれを垂らして

こちらへ走る姿。


「いやだ、やめろ、やめろ」


意識はあるのに手が動かない。

地面を握るがその感覚もない。

腕が鉛みたいに重い。



「死にたくない。死にたくない。」


帰りたい。

幸せだった日本の家族のところに…

全部夢なのかな。

そうだ悪い夢なんだ。


こんなところで

気持ち悪い怪物に襲われて死ぬなんて

夢に決まってる…


動けないのに

涙だけは出てくるのか。


にじむ景色の中で

僕は血が出るほど

唇をかみしめていた。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


いかがだったでしょうか?


もし面白そうだなと感じていただけたら


ぜひブックマーク、評価ボタン、

感想などいただけましたら嬉しいです。


ぜひよろしくお願いいたします。

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