第六話 その腰の剣は飾りか
僕は、
村の奥から聞こえたゴブリンの声で
咄嗟に茂みに隠れた。
しばらくすると
血だらけの麻袋を、
二人一組で運び出すゴブリンが現れた。
「人を運び出してる。
生きている人なのか。。。?」
血だらけの、
ちょうど人間が入るくらいの麻袋だ。
中は生きてる人、じゃないよな。。。
死体だったとして、
なぜ持ち帰る必要があるんだ。
ゴブリンは人を食べるのか?
仮に生きている人だったとしたら
持ち帰る理由がわからない。
食料として生かしておくのだろうか。
どちらにしても胸糞が悪すぎて
考えるだけで気がおかしくなりそうだ。
そして、さらに別のゴブリンが
またも二人一組で麻袋を担いで
出てきた。
「一体何人のゴブリンが
入り込んでるんだ。」
その後、10匹以上はいるであろう
ゴブリンが麻袋と共に出てきた。
このゴブリン達は
麻袋を引きずりながら歩いてきた。
ザーザーザーと砂利を引き摺る音が
耳から離れなくなりそうに痛々しい。
「俺は、どうすればいいんだ。
どうすれば。」
ゴブリン達が過ぎていく。
麻袋を引き摺る音は少しずつ
遠くなっていった。
「はぁ。はぁ。はぁ。」
無力感と怒りと恐怖で
脂汗が顔を覆っていた。
「何も出来ない。俺にはどうする事も。」
茂みから出て、
ゴブリンの歩いて行った方角を見ながら
立ち尽くしていた。
ザザ
ザザ
ザザ
ゴブリンが残っていたのか!?
僕は咄嗟に村を振り返る。
そこには剣を右手に握りしめながら
その手で地面を這ってくる男がいた。
「大丈夫ですか!?」
怪我をしている男
「お前はリリアが
部屋を貸してるって噂になってた、
確か。。。」
「ヘクトールです。
動かないでください!
ひどい怪我です!」
男の左手は肘の少し上くらいから
骨が見えるほど深く抉れていた。
出血も多く、這ってきた道には
血の跡が続いている。
怪我をしている男
「ちょうどいい、お前、力を貸せ!
今から奴らを追いかける!」
「こんな傷じゃ、行っても死ぬだけです!」
怪我をしている男
「このまま嫁が奴らに喰われるのを
見過ごせっていうのか!?」
「でも、奴らは強いし、数もいる!
二人だけで何ができるって言うんです!?」
怪我をしている男
「お前はまだ村に来て数日だもんな。
他人の為に死ぬなんて
そりゃ出来ねえよな。」
「いや、そう言う意味じゃ。」
怪我をしている男
「あの袋を見なかったのか!?
あの中にリリアもいるんだぞ!」
「え?」
怪我をしている男
「あの中にリリアが
いるっつってんだよ!」
「そんな。」
僕は体から
血の気が引いていくのがわかった。
膝から崩れ落ちそうな程、
頭が真っ白になった。
怪我をしている男
「なぜリリアを守らなかった!
なぜだ!お前がいたのに、
なぜこんな事になってる!
お前の腰の剣は飾りか!」
「僕は、目が覚めた時には、もう、」
怪我をしている男
「だったら決めろ!今守れ!
リリアはこのままなら
死ぬより酷い目に合うぞ!
助けるなら、今しかない!」
「死ぬよりって。そんな…
…わかったよ。」
「行こう。」
怪我をしている男
「それでいい。
殺すんだ、奴ら全員、残らず、殺す!」
僕は男の肩を担ぎ、立たせる。
男の両足には刃物で刺された傷が
何箇所もあるようだった。
立っている事もままならい位、
筋肉が損傷しているのだろう。
歩く事は更に困難なはずだ。
腕も血が止まる様子はない。
洞窟がどれくらい遠いかはわからないが、
それまでこの傷でどこまで持つのか。
いつ倒れてもおかしくはない。
気力だけで意識を保っているような状態だ。
こんな姿になっても
男は守るべき物の為に
歩みを進めようと言うのだ。
諦めろよ、なんて軽々しく
言える訳がない。
「行こう。心を決めた。」
怪我をしている男
「ありがてぇ。
俺はマルスタンだ。
よろしくな、ヘクトール」
「ああ。奴らを残らず殺そう。必ずだ。」
肩越しにも彼の鼓動が脈打つのがわかる。
急がなくては。
半ば彼を引きずりながら僕らは
歩き続けた。
片輪の轍のような麻袋の跡と
リリアの流した血を追いかけて。
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