第一話 不死の冒険者誕生。
魔法が存在する
おとぎ話の様な大陸がある。
かつては神々が治める
平和な大陸だった。
人々は神の庇護の元、
終わらぬ春を楽しんでいた。
神が楽園をつくる為、
天使に渡した聖石にちなんで
この大陸はこう呼ばれた。
「ヘブニウム」と。
ヘブニウム大陸のこの平和な時代は
後に黄金時代と呼ばれる事になる。
だが水の流れが止まらぬのと同様に
時代は白銀時代へと変わっていく。
ある時自らを王と称する
ルキウス・スペルブスという男が現れた。
男は民衆を導き神へと反旗を翻した。
こうして始まった神と人の
激しい戦いは100年続き、
野は焼け、文明は崩れた。
神の軍勢は強く人々は
劣勢に立たされていった。
戦いが100年を過ぎた時
全ての神は忽然と姿を消した。
一説では人を見捨て
天へと飛び立っていったと言われている。
この星から神が消えた時、
厳しい夏と冬を持った四季が
生まれた。
作物の育たない冬を越えられず
人々はうえて死んだ。
やがて人は冬を越えるため、作物を作り
保存する事を覚えた。
だがいつしかそれは貧富の差を生み、
生きる為に作物を奪い合い
また人は戦いを始めた。
生きる為に広がり続ける戦火の中で
力なき者は飢え、あるいは
戦いに死んでいく。
それがこの世界の日常となったのだ。
人々は既に900年以上の時を
争い続けてきた。
神が去った日を始めとした
ルキウス歴987年
死の匂いが絶えぬこの世界へ
迷い込む一人の男がいた。
果たしてこの男は
この世界で何を見るのか。
これは力なき者の戦いの歴史である。
ルキウス歴990年 背徳の魔女の森
真っ暗な森の中を馬を駆り
駆け抜けていく五人の男達。
彼らはこの広い森を
一週間も走り続けてきた。
長く木々だけの景色が続いてきたが
不意に森の先に海が見えてきた。
乱暴そうな男
「あそこか、魔女がいるってのは。」
先頭を走る男が合図を出して止まると
五人は馬から降りた。
その男は手に持っていた何かを
海の手前の木々に投げると
たちまち木々が歪み、
古びた一軒の小屋が現れた。
その小屋の前には
彼らがくることを予期していた様に
黒いローブをまとった女が
足を組んで座っている。
乱暴そうな男
「お前が背徳の魔女だな?」
背徳の魔女と呼ばれた女
「だったら何だと言うのだ?」
乱暴そうな男
「お前の作っている魔石を
貰いに来た。
しらねぇとは言わせねぇぜ?」
背徳の魔女
「お前ごときにそれは渡せんな。
死ぬ前に帰るがいい。」
乱暴そうな男
「おいおい姉ちゃん。
こっちには男が五人もいるんだ。
力づくでやってもいいんだぜ?」
背徳の魔女
「たかだか五人で脅しているつもりか?」
乱暴そうな男
「へ!どうやら荒っぽいのが
お好みのようだ。
おいお前ら!やっちまえ!
できれば生け捕りにしろよ!
こいつぁ上物だ!」
男がくいとアゴをあげると
脇に控えていた四人が剣を抜き
ジリジリと魔女との距離を詰めていく。
だが魔女は抵抗する様子もなく
椅子に腰掛けたままその様子を見ている。
剣を構えた一人が斬りかかろうとした時、
魔女はそっと左手を男達の方へ向けた。
その瞬間、それまで騒めいていた森は
一瞬にして静まり返った。
宙を舞う枯葉はピタリと止まり
川の水はまるで凍った様だった。
そしてそれは五人の男達も
同じであった。
背徳の魔女は立ち上がり
値踏みをする様に
剣を構えたまま静止している男をみた。
そしておもむろに
男の胸に長く伸びた爪を突き立てる。
魔女の手は鉄の鎧を
いとも簡単に突き抜け、
ゆっくりと胸を貫いていく。
やがてその爪は心臓に達し、
男は表情すら変えられぬまま
絶命する。
そして二人目、三人目と
優雅とも見える動きで
心臓を貫いていく。
四人目の男を手にかけようとした時、
ふと魔女の手が止まる。
背徳の魔女
「おや、こんなところに迷い人かい。
全く神というのは
何を考えてるのかわからんな。」
魔女は胸元から
人差し指ほどの杭を取り出し
男の胸へと突き立てる。
背徳の魔女
「お前にはこれをくれてやろう。」
鈍く銀色に光る杭を
男の心臓に突き刺した。
背徳の魔女
「これは面白い男を見つけた」
魔女は不敵な笑みを浮かべていた。
残る乱暴そうな男には
興味がないとばかりに
その場から男の首に向けて
指をなぞると
男の首は体から切断された。
背徳の魔女
「やれやれ。この場所がばれるとはな。」
ゆっくりと歩きながら
元いた椅子に腰掛けると
再生ボタンを押した様に
森の騒めきが戻った。
五人の男達は血を吹かせながら
ゆっくりとその場に崩れた。
椅子に腰掛け頬杖をつく魔女は
空を見上げていた。
空一面を雲が多い尽くしている。
今にも雷が鳴り始めそうな
真っ黒な雲だった。
魔女が男の心臓へと突きたてたのは
魂縛の杭。
その杭は
魂を体に打ち付け、
死ねなくなる、という魔具だった。
男は心臓を貫かれ崩れる時
崖から落ち、川に飲み込まれた。
背徳の魔女
「お前は死なない。
流されていくがいい。
運命の激流に。
そして探し求めろ。
お前の生きる道を。」
こうして不死の迷い人は激流に飲まれた。
そしてやがて彼は漕ぎ出すのだ。
壮大な運命の大海原へと。
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