送り盆
今日は送り盆。
全国的なお盆休みも今日で終わり。
のところが多いはず。
私の周りの人々も、皆今日で帰る。
私も今日で戻る。
帰りは橋のところで大渋滞なのだろうな。
でも帰るには、あの橋しかないから、避けようがないし。
「私はまだしばらく帰らないんです。彼岸過ぎに帰ろうかと思います」
と隣の糸川さんが言った。
「いいですねえ、羨ましいですよ。妻が五月蝿いので一緒に帰るしかありません」
「ハハハ、私はむしろ妻に疎まれてますから、先に帰らせます」
「ほォ」
糸川さんは苦笑いをして、
「実は娘が心配なんです。どうも夫婦仲がうまくいってないみたいで」
「なるほど。旦那さんが冷たいのですか?」
「いえ。遺産相続で、向こうの親族と揉めているんですよ。で、間に立たされた娘が辛い思いをしているみたいなんです」
私は立ち入った事を聞いてしまったと思い、話を切り上げた。
「それでは失礼します」
「はい」
私はこちらを遠くから睨んでいる妻のところに行った。
「話し込むと長いのは相変わらずなんだから」
「仕方ないだろ、しばらく帰らない人なんだから。それに遺産相続で揉めてるみたいだよ」
「まァ」
妻はビックリして糸川さんの方をチラッと見た。
「そんなにお金持ちだったの、糸川さんて?」
「ああ、そうみたいだな」
私は歩き出しながら、
「死んだら楽になるかと思ったが、気苦労は絶えないな」
「そうね」
私達は送り火の中、天国への道を登った。
「早くしないと、また三途の川の橋が渋滞するわよ、貴方」
「ああ、そうだな」
私はもう一度我が家を見た。
「今度は彼岸に会おうな」
庭ではしゃぐ孫達を見て、そう呟いた。