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13. 罠

 近衛騎士に案内されたのは、ホールからだいぶ離れた場所だった。廊下の明かりも薄暗く、たしかに秘密の話をするのに丁度よさそうだが、あまりにもひと気がなくて少し不安になる。


「……ねえ、本当にこの部屋で合っている?」

「──もちろん、合っていますよ」


 近衛騎士はそう言うと、勢いよく扉を開け、ルイーゼを部屋の中へと乱暴に突き飛ばした。


「……っ! 私を騙したのね……!」


 罠に嵌められたことに気づき、キッと睨みつけるルイーゼを、近衛騎士を装った男は口の端を歪めながら愉快そうに眺めて言った。


「偉い方からのご命令でな、アンタにはここで死んでもらう」

「偉い方……?」


 どうやらこの男の裏には地位の高い人物が存在しているらしい。騎士団長が睨んでいたとおり、この国の貴族派の重鎮なのだろうか。


 ルイーゼが眉を顰めると、目の前の男がにやりと笑った。特徴が無いのが特徴と言えるくらいに何の印象も湧かない顔だが、この気味の悪い笑い方だけはしばらく忘れられなそうだ。


「でも、こんなに美人となると、ただ殺すのは勿体無いな。少しくらい楽しんでもバチは当たらないだろう」


 男が近づき、ルイーゼをソファに押し倒して両腕を捻りあげる。見た目が細い割に意外と力が強くて、ルイーゼの腕力では振りほどけない。


「最期に楽しませてやるよ、王妃サマ」


 男の歪んだ唇が迫ってくる。ルイーゼは覚悟を決めて、きつく目を瞑った。そして──。



 ゴチンッ!!


 

 何か硬いもの同士がぶつかる音がしたかと思うと、男が額を押さえて唸っていた。


「クソッ、何しやがるんだこの女……」

「うるさい! それはこっちの台詞よ! あんたにくれてやる唇なんてないんだから!」


 男が怯んだ隙にルイーゼが逃げ出そうとしたが、あと一歩のところで男に捕まってしまった。


「離してっ!」

「離すかよ。これからじっくりお前の立場を分からせて──」

「……離してって言ってるでしょ!」


 ルイーゼの体が大きく沈んだかと思うと、次の瞬間、ドシン! という音とともに、男の体が地面に叩きつけられていた。ルイーゼの頭の中で「一本!」と謎の審判の声がこだまする。


「……な、なんなんだこの女……」


 男が床に打ちつけた腰を押さえながら、よろよろと立ち上がると、廊下から騒がしい声が聞こえてきて扉が勢いよく開け放たれた。


「ルイーゼ!!」

「陛下……!」


 血相を変えて助けに駆けつけたクラウスに、ルイーゼが走り寄った。

 髪は乱れ、額を痛々しく腫らしたルイーゼを見て、クラウスの顔がさらに険しくなる。


 クラウスはルイーゼをオスカーに預けると、まだふらついていた男を殴り倒し、剣を突きつけた。


「貴様……ルイーゼに何をした」

「……むしろ俺が色々されたんだけど」

「黙れ。騎士団長、この男を地下牢へ。すべて吐かせろ。手段は問わない」


 騎士団長と数名の騎士たちが、男を縛り上げて連行していく。


 騎士や側近へ後始末の指示を終えると、クラウスはルイーゼの髪を撫で、青白くなった頬に手を添えた。


「大丈夫か……?」

「……はい、大丈夫です。返り討ちにしてやりました!」


 ルイーゼがぎこちない笑顔でそう返事をすると、クラウスがルイーゼの頬を両手で覆った。


「無理に笑わなくていい。怖かっただろう」


 ルイーゼをそっと包み込むようなクラウスの声音に、我慢していた涙がぽろりとこぼれた。

 人前で泣くだなんてこと、前世も今世も物心がついてから一度だってなかったのに。クラウスの声があまりにも優しく胸の中に沁み込んでくるから、涙を堪えようとする強気な自分が溶けて消えてしまった。


「……はい、怖かったです」

「遅くなって悪かった」


 クラウスがルイーゼを力強く抱き寄せる。

 

「……いいえ、助けに来てくれて嬉しかったです。やっぱり陛下はヒーローですね」

「ヒーロー?」

「はい、物語の主人公みたいに格好いいってことですよ」


 クラウスの体温と鼓動を感じながら、ルイーゼはいつの間にかここが自分の望む居場所になってしまったことに気がついた。


(モフモフとのスローライフよりも、クラウスの腕の中のほうがずっと心が満たされるみたい)


 ルイーゼは湧き上がる温かな感情のままに、クラウスをぎゅっと抱きしめた。

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