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後悔の人生

人生の選択に迷ったことはあるか。

本当にこれを選んでよかったのか、この選択であっていたのか。

転職から人生の選択が見えてきた男の話。


豪雨が降るとある日、私は薄暗い部屋の中でただただ携帯の画面を見ていた。


「あー、今日も暇だな」


自分に問いかけるような大きな独り言。心の中では何かやること見つけて動き出せよと言っているのだろう。それとは反して身体は動かないまま。


仕事もないのに目だけはしっかり覚める。7時に起き、ベットにうずくまり携帯の画面を見ている。ささっとゲームアプリのクエストを終わらせYouTubeを見る。特に何が好きって訳でもない。


これでもう13時。

朝ごはんもお昼ご飯も食べてない休日のモーニングルーティンである。



そんな私の名前は 五十嵐(イガラシ) 健二(ケンジ)。32歳の独身だ。この春に会社を退職し、転職したが仕事内容が合わずやる気も出ないでいるおっさん予備軍だ。


もちろん彼女もいないし出会いも無ければ友達もいない。毎日毎日家と仕事場の往復をしているだけの生活。


今の仕事も馴染めず何をやっても熱くなれない。

プライベートもどこか冷静になってしまい、心から楽しめない。


そう。私は無趣味な男なんです。



「はぁ、人生詰んでるなぁ」


無気力な溜め息に混じり独り言が増えていく。

何をするわけでも無くただただ一人で考え込んでいる。


「転職しなきゃよかった」


涙と共に出たその一言は、彼の心が相当病んでいる証拠なのだろう。



五十嵐は元々、東証一部上場企業に勤めていた。

新卒から入社し10年間、一般スタッフから店長、総店長、エリアマネージャーと成り上がり、エンターテイメント事業部を立ち上げ、新しいプロジェクトを発足し日々仕事に明け暮れていたのだ。事業は成功し、グループ内では大きく利益が出せる部署に成長していた。


そんな順風満帆に見えた五十嵐が先輩の山田(ヤマダ) 雅史(マサシ)に仕事を辞めると言い出したのだ。



五十嵐「私、仕事辞めまたいと思ってます」


山田「いきなりどうした?ちょっとご飯でも行くか」



そう言っていつもの居酒屋に連れて行かれた。


山田「とりあえず生2つで!」


店員「かしこまりました」


いつもの流れでお通しと生ビールが2つ運ばれてきた。

ビールを一口、二口のんだ後、先輩の山田が至福の一杯を楽しんでいる様子で話しかけてきた。


山田「んー!仕事の後のこれがいいよね!で、どういう成り行きでそんな事言い始めたの?」


五十嵐「実は…」


内容はこうだ。

プロジェクト内で意見が割れ、小西派と五十嵐派に内部分裂しかけていたという。結果的に五十嵐が折れて歩み寄った形だが、五十嵐がそこにいない間にあれそれと話を作られ、悪い噂が他部署にも蔓延。結果的に孤立させられているとの事。


山田「そんなことか!俺が話してやるよ!とりあえず辞めるのはよして俺に任せてみないか?」


五十嵐「そんな簡単な話じゃないですよ!私今完全に悪ですからね」


山田「まあまあ、お前が優秀なのはみんな知ってる事だから!大丈夫だって」


五十嵐「いやいや!こんなに色々やってきたのに悪評流されるなんてほんとに許せないですよ。精神的にも今辛いんですから!」


山田「まあ飲め」


そう言って一杯勧めてくる。

グビッと一口飲んだ瞬間、崩壊したダムのように愚痴が溢れる。そんな私の愚痴を山田は「うんうん」と頷きただただ聞いてくれた。



翌日


山田さんからLINEが来た。


「昨日の話、本社で話して解決しといたから大丈夫よ。」


あの大量の愚痴を聞いてくれた挙句、小西やその他部署にまで連絡し誤解を解いてくれたのだった。


すごい優しい先輩だ。本当に嬉しかった。



ただその反面一つの大きな疑問が浮かんだのだ。



解決したって事は悪い噂を流されていたのは事実で、私を陥れようとした人がいるのだと。


もう解決したはずなのに私の中で一つの引っ掛かりが出来てしまったのだ。


こんな事する人が同じ会社、同じプロジェクト内にいるなんて…


日に日になんとも言えない感情が立ち込めてくる。

信頼していた仲間に裏切られた感が押し寄せてくる。


結果


その事件をきっかけに私は会社を辞めたのである。



今思えば、いい先輩にいい上司に恵まれて今までやってきた。たった一度の事件で10年もやってきた仕事を辞めたのだ。


しかも感情的に。


人間10年もやっていればなかなかのスペシャリストになる。それを捨てて一からやり直すのだからそりゃ辛いわけだ。


「転職しなきゃよかった」


よってベットの中から起き上がれない私はこの一言を発する事で今の自分の状況を悲観的に捉えることしかできないのであろう。



「そろそろ飯でも食べるか」


もう14時だ。身体もそろそろ何か食べろと警笛を鳴らす。


重い腰を上げて黒縁メガネを掛ける。

台所に向かい冷蔵庫を開ける。

賞味期限ギリギリのうどんと卵があるだけだった。


「これでいいか」


うどんと卵を手に取りお湯を沸かす。

沸騰したお湯にうどんと卵を入れて3分。

みりんとしょうゆ、刻んだネギを適量。

お店の味には程遠いが、月見うどんの完成だ。

味は普通だが、腹は満たせる。


3分で作ったものを3分で平らげ再度ベットに戻る。


「何やってんだろ俺」


折角の休日に何もすることなく、ただただ寝て食ってぼやいているだけ。人生を無駄に浪費している感じだ。

こうやって後何年も孤独を感じ過ごして行かないといけないのかと思うと鬱になりそうである。


いや、もう鬱なのかもしれない。


そんな事を思っていた時、唐突にインターフォンが鳴る。


ピンポーン

「宅配です!」


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