第7話
結局妹は、どれだけ相手をしていなくても。
いくら顔を合わせていなくても。
会話が無かったとしても。
妹にとって、俺はどこまで行ってもお兄ちゃんだった。
正直最初は「ねぇ」と呼称と言って良いのか頭を悩ませるじたいになるのかと思っていたが、それでも最後の最後まで妹は、俺のことを「お兄ちゃん」と呼び続けた。
「……そっすか」
結局その寿司屋を後にして、我侭を言い続ける妹を宥めて出て来たのである。
嘘 で あ る 。
この兄、思ってもみなかった言葉に若干舞い上がり、「俺の胃袋は宇宙だ」と言わんばかりに再び皿を五枚ドロー。もはや食欲をリミットブレイクし、俺の胃が死ぬか勝つかのデスティニードローを決めるかの二者択一であった。
く○寿司が勝つか、俺の固有結界(胃袋)が勝つかの瀬戸際。
まぁ、しかし、流石に限界を迎えたので俺は残り一皿を妹に手伝ってもらい、どうにか五枚の皿を召還する事に成功し、正真正銘最後のガチャが幕を開けた。
「もう、当たっても外れても文句言うなよ……」
「うん」
ほぼ屍と化した俺は、さぞか細い声を出したように思う。
それでも妹はガチャを回して、最後の試練に突入を果たす。
そして、ディスプレイはついぞ空気を読み始めた。
「あっ! 当たった! お兄ちゃん、当たったよ!」
「おいマジかよ、やっとかくら○司……」
いぇーいと手を合わせて当たりを喜ぶ兄と妹。ここだけ切り取ると仲の良い兄妹のように映るのだが、残念なことに俺たちはつい最近まで赤の他人だったのだ。
この子の距離の詰め方が積極的なだけで、周りに映っている兄妹では無い。
それは、ありうべからぬ真実。
これが、抗いようの無い事実。
そうだ、これで良いんだよな。
明日から俺たちは変わらない関係となる。
同じ屋根の下に居る、他人で良いんだ。
「………」
「おい、景品がしょぼいからって俺の方に寄越すな。分かってたろ、こう言うものなんだっつの」
もう、良いんだよ──妹よ。
こんな兄の皮を被った人間に、気を遣わなくても。
明日からまた、いつも通りに戻ろう。
夢を見ているようなこの時間は、もう終わりだ。
これで、もうおしまいだから。