第6話
仕方ないので残りの皿もくれてやる。
そろそろ当たってやってくれ、俺のためにも、こいつのためにも。主に俺の腹の心配してくれ。
「ウッス」
それもうありがとうの原型留めてねぇよ?
まぁ良いけど。
最後の一皿となったいくらも食べ切り、手持ち無沙汰になった俺もディスプレイを見遣る。意外と演出凝ってんな、未来の俺がガチャの演出に一喜一憂するとは思わなかっただろうけど。
しかし。
「え」
「え」
おいくら○司……これ当たり判定厳し過ぎやしねぇか……?
サ○ゼリアの間違い探しでももっと……いや、同じだったわ。
「当たらねぇな」
「………」
あっ、露骨にムッとしてる。消しゴム貸したら返って来なかった時みたいな表情だわ。ちなみに俺はそんな経験あります。四度程。
「………」
「いやこっち見んな」
もう食えねぇよ。今食ったいくらで正直そこそこ限界迎えてんだよ、ヒトデパンを拒絶するアッキーみたいな感じよ、マジ勘弁。
と言うか妹六枚に俺九枚って意外と競ってるのなんだよ。本当は七枚で終えようとしてただけにどう言うことだよ、その気になれば妹成人男性の俺より食ってたのかよ。
何なんだよ!
「俺もう食えねぇよ……」
「そこを何とか」
「何とかなれば苦労しないのよ。俺の小食舐めんな」
「頑張って」
「いや、あのね……」
「お兄ちゃん」
甘えてんじゃねぇ!
ほぼ接点の無かった、俺たちの間にある訳が無い対応を取るな!
「あのな、お兄ちゃんお腹一杯なわけだ。当たらなかったのは残念だけど、また今度があるだろ……」
──言っていて、何て酷い事を口にしているのかと思った。
多分、なんて枕詞を使うまでも無い。二度とこんな機会は訪れない。
もうこの状況は有り得ない、俺と妹が二人だけになる時は……もう、無い。
「今が良い」
だからその言葉は。
「今じゃなきゃやだ」
俺の耳に、残響を付けて鳴った。
多分欲しかったおもちゃが手に入らないとか、手を伸ばせば届く距離にあるのに当てられない事から来る言葉だったのかも知れない。
真実は妹の心の中にのみ残された。残されたのだけれど……。
妹にとって、今この瞬間はその時にしか訪れないんだ。
たとえ他人に等しい人間と一緒に居たとしても、今日と言うこの日にあった出来事は、妹にとって──
「お願い、お兄ちゃん」
兄と妹との、時間なんだ。