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闇の中へ

 目は口ほどにものを言うということわざがあります、もし本当ならその時の私の目は大層泳いでいたことでしょう。

「なあ、この前この部屋にフェムトセル置こうか考えるっていったじゃん?」

「は? 言いましたっけ?」

 私はすっかり忘れていた話を持ち出されたのでもろに狼狽えました。

 お兄ちゃんに外部との接触を許すのは、地球で生きているのに突然宇宙に放り出すに等しい危険行為です、見逃してはいけません。

「いえいえ、きっとお兄ちゃんの気のせいですよ? もし言っていたとして私が守ると思いますか?」

「それもそうだな……」

 ……なんでしょう……いえ、納得してくれたなら良いのですがどこか釈然としませんね……ちょっとイラッときました。

「お兄ちゃん、お疲れのようですし今日はお休みになられた方が良いですよ?」

「え……別にいつもど……」

「い・い・で・す・よ?」

「あっはい……」

 私の圧に押されて無事ごまかすことに成功しました! 私はお兄ちゃんを養う義務があるのです。誰が精魂込めて育てた人を安易に人に渡すと思っているのでしょうか?

 私は絶対に渡さないですよ?

 パタンとお兄ちゃんの部屋のドアを閉めて考えます。

「外の世界……ねぇ……」

 別に家の外にゾンビが溢れているわけでもなければ人類が滅んでいるわけでもないですし、思想統制が行われているわけでもありません、ただそこには漠然とした不安があるのです。お兄ちゃんが手の届かないところへ行ってしまうような不安感がただあるんです。

 私は玄関を出て町並みを眺めます、これといって特別なことはありません。ただそこがお兄ちゃんを連れて行くにふさわしい場所か考えたくなっただけです。

 もう日が落ちてそれなりに経っているので住宅街を歩く人もいません、そこにはだだっ広い闇が広がり、ところどころに街灯が光を落としています。

 ここにお兄ちゃんを連れてくると、闇の中へ歩いていって二度と会えないんじゃないか……? そんな不安が脳裏をよぎるのです二回を見上げると部屋のカーテンからかすかにゲーミングPCのLEDの光がわずかに漏れていました。ゲームをしなくてもハイスペックを求めると光るの、なんとかなりませんかね?

 そんなことは台湾辺りのペカペカ光るパーツ業者が考えることであって私がいくら思いをめぐらそうと無駄なことではあります。

「寒い……」

 私は玄関の中に入りました。そこには柔らかな光が広がっていて、きっとお兄ちゃんはこの温かな世界だけを知っていれば良いのだと思えました。

 空調も効き、栄養も私がしっかり管理して、雨にも雪にも降られない、そんな場所からわざわざ厳しい現実にお兄ちゃんを引っ張り出す正当な理由があるのでしょうか?

 きっとお兄ちゃんは私の下にいればいいのです、他の誰も、何も、全部気にすることはないのです。

 私はお兄ちゃんが温かな世界にいることに満足して自分の部屋へ戻りました。

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