アレクサちゃん万能説
「くっだらない」
私はスマホに届いたSMSを削除しながらそうつぶやきます。
削除したのは「不在通知」です。
もちろん本物ではなく、おそらく踏むとマルウェアを入れろとでもいうのでしょう。
「ドメインの偽装をする知能もないんですね、いえ、だからこんなしょーもない犯罪に手を出しているんでしょうか?」
それにしても日本語が上手くなったものですね……
黎明期の詐欺は思いっきり日本語がおかしかったり、どことは言わないですけど日本で使われてない漢字が使われてたりしましたから、まあ詐欺師も少しは知恵を付けたようです。
とはいえ……お兄ちゃんを名乗られたら引っかかるかもしれませんね。
そんなピンポイントで狙ってくる詐欺があるかは知りませんがね。
君子危うきに近寄らずとは言いますし、放置しておきますか。
ただ……私の電話番号を引き当てたのはムカつきますね、どうせランダムに送ってるんでしょうけど、ちょっと痛い目を見させてやりますか。
PCをTailsLinuxで立ち上げTor経由でSyn floodを仕掛けてやりましょう。私を敵に回したことを後悔させてあげましょう。
使用するのはシェルスクリプト、Pythonでもいけますけど、あの言語は少々コストのかかる関数をO(1)であるかのように振る舞いますからね、動作がはっきり見えた方がいいです。
多少打ち込むとサーバが沈黙しました、満足満足。
「くだらない、本当にくだらない」
つまんないですねぇ……もう少しクラッキングに対する気概くらい持ってほしいものです、こうも簡単だと逆に面白みに欠けますね。
サーバを落としても楽しくないので、お兄ちゃんのところに行きましょう、お兄ちゃんとのことならなんでもエキサイティングですからね。
「お・に・い・ちゃ・ん!」
私はお兄ちゃんの部屋に乱入しました、お兄ちゃんはいつものことと思っているようです。
「反応うっすいですねー? 可愛い妹ですよ?」
「はいはいかわいいかわいい」
「気持ちがこもってないですね……」
こんな事はいつもやりとりなので気にしませんがね……
「まーたなんかやったのか?」
お兄ちゃんは無粋なことを聞きますねえ……
「理由が無くたってお兄ちゃんのところには来るに決まってます!」
人は理由の無いことが怖いらしいですが、妹だからというのは立派な理由だと思うのですよね。
「実はメンタルきつめの扱いを受けまして……非常にストレスフルなので癒やしてもらおうかと」
お兄ちゃんが頭を抱えます……
「やめろよそういう案件受けるのはさあ! 上はお金が貰えても下は地獄なんだぞ!」
「まるで経験者みたいですねえ……?」
お兄ちゃんに労働経験は無いはずですが……
「やめてくれ……クラスでサイト運営とかいう狂気の沙汰は思い出したくない……」
なるほど、クラス問題でしたか、コレで案外お兄ちゃんって揉めそうなことに首を突っ込みますね、人のことはいえませんが……
「アレクサ、ホワイトノイズを流して」
私はスマートスピーカーにホワイトノイズを要求しました。
ザー……ザザ……
「大丈夫です、今は私がついてますからね? もっと安心してください」
「あ、ああ……」
ん? ちょっと今いい雰囲気じゃないですか?
「ぷっ」
お兄ちゃんが吹き出しました、なんでしょう。
「なんですか!? 何がおかしいんですか!?」
お兄ちゃんは少し驚いたようにいいます。
「いや、お前って意外と顔に出るなってさ……どうせ今『いい雰囲気』とか思ってたろ?」
うう……お兄ちゃんに見透かされるとは……悔しいですね。
「ふん! お兄ちゃんに豪華な夕食を用意しようと考えていたのですが、態度がアレなので今日の夕食はサラダです!」
「メインがサラダ!?」
「そうです! 妹をおちょくるお兄ちゃんにはコレで十分ですよ!」
私はそっぽを向いて部屋を出て行きました。
その日の夕食はお肉代が丸々野菜に使われたので少しだけお高い野菜のサラダになったのでした。




