検閲回避機能
私はsignalでお兄ちゃんと学校でもやりとりができるようになりました、連絡先の追加には電話番号が必要なので大丈夫でしょう、なおSMSとデータ通信のみのSIMなので通話はsignalの音声通話機能を使うことになっています。コレなら緊急通報もできませんね!
私は懐から手帳を取りだし、万年筆でお兄ちゃんとの会話のネタを書き留める、ボールペンでもいいのですが、まあ、日曜朝の影響です。
周囲の話題はソーシャルゲームが多いようですが、あいにくと私はプレイしていません。
クラスの中で万年筆を使うと良くも悪くも注目を集めるので人の目が多い場所ではOneNoteのスマホ版を使用してメモを取ります、PCとも同期できますし便利です。
おっと、MSの太鼓持ちみたいになってしまいましたね、失礼しました。
お兄ちゃんと通話を我慢するのは苦痛でしたが、放課後まではテキストメッセージのやりとりだけで我慢しました、そうしてようやく放課後、お兄ちゃんと思う存分語らうチャンスです!
私は家路をたどりながらお兄ちゃんとの話の種を探します。
おや?
そこには移動販売の鯛焼き屋さんが公園に来ていました。丁度いいですね、お兄ちゃんへのお土産にしましょう。
私はカスタード一つとこしあん一つを買い、家へと帰りました。
「お兄ちゃん! 今日は鯛焼き買ってきましたよ!」
「そうか、じゃあ一緒に食べるか」
なんでしょう、スマホを渡してから私への態度が少し軟化した気がします。やはり外界を完全にシャットアウトするのはメンタルに堪えるのでしょうか?
「はいどうぞ」
私は袋から一つ取り出しお兄ちゃんに手渡す。
お兄ちゃんは鯛焼きをかじると言いました。
「あれ? これカスタードか? よく俺の好みが分かったな」
「何年妹やってると思ってるんですか?」
私は冷や汗を浮かべながら表情を取り繕います。それは私の分だったんですよね……渡す方を間違えましたがお兄ちゃんの好みには合ったようで何よりです。
「お兄ちゃん? 最近OSのアップデートが来ましたけど、お兄ちゃんのスマホは適応済みでしたっけ?」
「いや、まだだな……最新バージョンは大抵人柱仕様だから別に構わないんだが……」
嫌なところをついてきますね……私が初日に最新版を入れて不具合が出たことを知ってるんでしょうか……
「ところでお兄ちゃん、そっちのスマホでよかったですかね?」
「え? コレがどうしたんだ?」
「いえ、考えずに林檎製を渡しましたがAndroidの方がお好みだったかと思って……」
お兄ちゃんは即答した。
「こっちの方がいいよ、PCとも連携させる必要もあんまりないしな、開発をしないならどっちでも変わんないと思うぞ」
「そうですか、満足いただけたなら何よりですね」
お兄ちゃんに渡すのにいかにもケチった数万円のAndroidを渡すのもイメージが悪いかなと思ったので満足しているなら、私にとっても素晴らしいことです。
「お兄ちゃんはPCにバックアップ取ってないんですか?」
お兄ちゃんならいかにもやってそうですけど意外ですね。
「だってPCは検閲されてるだろ?」
「う……」
いやまあその通りなのですが……プライベートを暴こうという作戦がAndroidでないとやりにくいんですよね……
私も言論統制していると宣言するのも問題かと思い反論はしませんでした。
「ふぅ……久しぶりに紙の手帳に書きましたね……」
私は部屋で一人、今日のできごとを記録に残している、デジタルではなくアナログで。
「コレはコレで味があるんですけど……不便ですねえ……」
ついつい欲望全開に筆が滑ったときなどデジタルならきれいさっぱり削除して書き直せるのですが紙だと限界があります。
「ま、私は器が大きいのでこのくらいの不便さは許容できるんですがね」
私は秘密の記録を鍵つきのボックスに入れてロックしてから、久しぶりにお兄ちゃんとアナログな話題をしたことを喜びながら眠りにつきました。




