お願いだからコンパイルくらい通してコミットして(懇願※PC編開始
ふむふむ……
やっぱりPythonは分かりやすいですね……書くだけでSAN値をごっそり削られるどこかの言語とは大違いです。
あの言語がプログラマに人気って本当でしょうか? 英語圏では人気らしいですけど、さすがラヴクラフトを産んだアメリカって感じですね、書いてるだけで正気度がドンドン下がっていく言語を好き好んで書くとは……
ええ、分かっていますとも、そちらを選んだ方が収入は高くなるのかもしれません、しかしまあ、バイトに自身の精神をかけるほど追い詰められてはいませんし、お兄ちゃんを養うくらいの収入があればいいでしょう。
私は現在、Cを一日数百ステップ書いています、テストという悪夢に比べればコーディングなどまだマシというものでしょう。うぅ……Excel職人には頭が下がります。
コードは将来読む人のために書く、大事なことですけれど見落とされがちですね。まあ、マルチバイト文字列をコメントに入れるのを躊躇した結果、中学生レベルの英語が読めないと文句がついたときは私の怒りが有頂天でしたが……
ええ、あのクライアントは大卒採用しかしていないというのは嘘ではないでしょうかと勘ぐってしまいますよ。
実質他言語からの移植というのも実装が早い理由ではあります……気が重いのは移植元がVBで書かれているということくらいでしょうか……早くこの言語滅びませんかね?
VBとかいう誰も幸せにしない言語は放っておいてみんなPythonを書けばいいんですよ、え? 低レイヤーの仕事? そこはCの出番でしょう、どこの国とは言いませんがブラウザのActiveXに頼る実装を二〇一〇年以降に見るとは思いませんでした。あれでゴーサインを出した人たちはなにを考えているのでしょう? レガシーコードの保守ならともかく、新規でActiveXを使うとかおよそ正気の沙汰じゃないんですよねえ……
それはともかく、メークでもしましょうか。ああ、お化粧の方ではなくMakefileを実行する方ですね、シェルスクリプトに利点が無いとは言いませんが、あえてのシェルスクリプトでビルドするよりはmakeを実行した方がいいプラクティスだと思うのですがね、まあmakeは多少クセがあるので好きな方でビルドしてくれて構わないですが……ただしMakefileのインデントをスペースにしていた人は絶対に許しませんがね……自分で試すということを知らないのでしょうかね……(MakefileのインデントはTabを使わないとエラーになる)
私はビルドが通って、一通りの自動テストが無事終わったのを見てお兄ちゃんの部屋に行きます、え? 今日は遅いなって? バイトの愚痴を聞いてもらうためだからしょうがないですね。
タンタン
ガチャリ
「お兄ちゃん! クッソムカつくクライアントに当たったんですけど!」
「突然口が悪くなるのはやめろ」
お兄ちゃんとの軽口もいつものことです。
「それでですね、あのクソコードはifの括弧内で代入してるんですよ! これで『何故ここがいつも実行されるのですか?』ってふざけてるんでしょうか!? あの人たちは古式ゆかしいテキストエディタでコードを書いてるんでしょうか? まともなIDEなら書いた時点で警告が出ますよ? なんならCLIベースのコンパイラでさえ警告を有効にしていたら至極丁寧に注意してくれるんですよ? あれを無視するってある意味才能ですね」
「はいはい、各所を敵に回しそうな発言はやめような?」
お兄ちゃんは素っ気ないです……お兄ちゃんのためにしているというのに……真の功労者は理解されないというやつでしょうかね?
私が愚痴っているあいだ、お兄ちゃんはなにを言わずに聞いてくれます、少なくとも余計な『アドバイス』はしません、それは何よりありがたいことです。
この『アドバイス』で綺麗なコードがあっという間にスパゲッティになってしまうことが稀によくありますからね。
さすがにMakefileのインデントについては話しませんでした、さすがのお兄ちゃんでも、そんな人の存在を信じてはもらえないでしょうしね。
私はその日一番の愚痴を吐き出してお兄ちゃんに慰めてもらうことにします。
「お兄ちゃん、インデントにタブとスペース両方混ぜるって信じられますか? いや、あの人たちはなにが見えてるんでしょうか、私はあの人たちが実は電脳世界の住人でタブもスペースも読み飛ばすプログラムだとしても驚きませんよ! いえ、むしろそうであって欲しいです! でなければ深酒して酩酊状態で書いたとか、そもそも人間じゃなかったっていう方がまだ信じられますね! わかりますか、お兄ちゃん!」
お兄ちゃんは困った風に頷きます。
「そうだな、まあ世の中にはデスマーチの真っ只中で修正の時間が無いって人もいるしな、そういうコードを大目に見てあげるのも一つの優しさだと思うぞ」
う……ズルいじゃないですか……お兄ちゃんの言い方だとまるで私が優しくないようじゃないですか……
「はぁ……しょうがないですね、今日見たスパゲッティの山は忘れるのでお兄ちゃんは私をギュッとしてください……」
お兄ちゃんは私を優しく抱き寄せてくれました……これなら明日も愚痴に付き合ってもらいますかね……もう一度お願いするならその時がチャンスでしょう。
「じゃあお兄ちゃん! おやすみなさい!」
「はい、おやすみ」
私はその日あった嫌なことを全て放り捨ててお兄ちゃんの部屋を出ました。お兄ちゃんが私に優しくしてくれるように、私も少しはクソコードに対して優しくなった方がいいですね……
その日はお兄ちゃんへの情念と執着で多少の怒りはどこかへ飛んでいき、無事眠りにつくことができました。
十万時超えました!
読んでくださる皆様のおかげです、本当にありがとうございます
しばらくPCネタが入るので分からなければスマホ編までとばしても大丈夫です!




