朝のコーヒータイム
朝の光とともにコーヒーの香りが揺蕩ってくる。
その十数分前に目を覚ました私はぽたぽたとコーヒーがドリップされているのを待っている。
昨日、お兄ちゃんに告白される妄想をしていたら、つい夜が更けてしまって今朝はコーヒーでも飲まないととても起きていられそうにないのです。
私はコーヒーは豆をミルでひいたものしか認めない派なのですが、コーヒーではなくカフェインが好きな人はインスタントコーヒーを大量に入れて少なめのお湯で溶くとカフェインのたっぷり入ったコーヒーが手軽に飲めて楽だそうです。
なお、カフェインジャンキーはカフェインの錠剤を直で飲むらしいですが、それはさすがに邪道ではないでしょうか?
ポコポコと音が立ってきたのでドリップが終わったのでしょう、私は『二杯』ブラックコーヒーを注いでお兄ちゃんを起こしに行きます。
予想通り寝ているのでコーヒーをテーブルに置いてお兄ちゃんに大声で話しかけます。
「お兄ちゃん、朝ですよ!」
私が部屋に入っても気づきもしない、しょうがないお兄ちゃんですね……
私は布団を剥ぎ取り、無理矢理お兄ちゃんを起こします。
「なんだよこんな朝早く……」
現在午前六時、それほど早すぎるとは思えませんが、お兄ちゃんいつも寝てますからね。
「それはお兄ちゃんと一緒にコーヒーを飲むためです!」
ちゃんと二杯入れているのでお兄ちゃんと一緒なら楽しいこと間違い無しです!
「ちょっと部屋から出て待っててくれ着替える」
そういうことなので私は部屋から追い出されました、早くしないとコーヒーが冷めちゃうのですが……
「お待たせ」
部屋の中から声がしたのでドアを開けました。
お兄ちゃんは私が急いでいるのを察したのか急いで着替えてくれました。多少服装がだらしない感じですが私のためと思うと文句を言う気にはなれません。
二杯のコーヒーがまだ暖かさを残してテーブルの上にあります。
「じゃ、二人でお話ししましょうか?」
「ああ、そうだな」
お兄ちゃんがコーヒーを見て言いました。
「あの……ミルクと砂糖は?」
「コーヒーの味を楽しんでください」
私はにべもなく添加物の要求を却下しました。
というかお兄ちゃんブラック苦手なんですね、ちょっと可愛いです。
カップに口をつけて飲むと苦味とカフェインが身体をめぐっていきます、実に気持ちが良いです。
お兄ちゃんの方は苦いのが苦手なのでしょう、ちょびちょびと飲んでいるようです。
しょうがないですね……
「次までに砂糖とミルク買っておくので今日だけ我慢してください」
「ああ、頼むよ」
お兄ちゃんは自分の言ったことを理解しているのでしょうか? 『次には』と言いました、つまり、また私のコーヒーブレイクに付き合うと宣言しているのですが……
なんにせよ一人より二人が良いので私は特に口を挟まず話題を変えます。
「プログラミングの方はどうですか?」
お兄ちゃんは応えにくそうに言う。
「いやあ、三角関数とか微分とかよく思いついたよなって思うよ」
そうですね、大抵の本は単純なことをわかりにくく書いているのであの辺が難しく感じるのは当然でしょう。
「まあ、思いついた人はもう亡くなっているので恨み言を言ってもしょうがないですよ?」
お兄ちゃんは一つため息をついて私の事情について聞いてきた。私は完璧な妹を目指しているので答えは決まっている。
「大丈夫です! 五教科バッチリ点取ってますよ」
「羨ましいことで……」
別に自慢したつもりはないのですが、お兄ちゃんからすれば妹の方が優秀というのはプライドを傷つけられたのかもしれません、ちょっと悪いことしましたかね……
「ま、いきなりオライリーがキツかったってだけじゃないですか? 背伸びしすぎですよ」
あの出版社の本、子供向け以外はマジでわかりにくいですからね。
ピリリ
そんなとき、私の腕時計が時間を告げる。残念ですが朝のコーヒータイムは終わりのようです。
「じゃあお兄ちゃん、私は学校行ってきますね」
「ああ、ミルクと砂糖もよろしく」
なんだ……結構乗り気なんじゃないですか。
私は今日、結構気分よく登校できたのでした。




