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必要ということ

 果たして私はお兄ちゃんに必要とされているのでしょうか?


 ふとそんなことを考えます。いえ、生きる上でのインフラという意味でお兄ちゃんに私が必要なのは確かです。もし私が一週間も家を空ければお兄ちゃんは餓死してしまうかもしれません。

 ですけれど、今考えている『必要』というのはそういう物理的な意味ではありません。お兄ちゃんにとってかけがえのない人、そういうモノに私はちゃんとなれているのでしょうか?

 お兄ちゃんは優しいのできっと必要だと言ってくれます、ですがソレが本心なのでしょうか? 人の心ほど曖昧で理解に苦しむ物はありません。科学の法則や定理をいくら覚えても心というものは理解できるものではないのです。

 なにが言いたいかと言えば……

「寂しいです……」

 結局のところこの一言に尽きます。お兄ちゃんが私を必要として欲しい、そう思うのは悪いことなのでしょうか?

 さて、そんなことを考えていても仕方がないので、前向きにお兄ちゃんが私を必要としてくれるようになる方法……が思いついたら苦労しないんですよねえ……

 お兄ちゃんのために何もかもなげうつ覚悟はありますが、残念ながらお兄ちゃんはそこまで求めてくれることはないでしょうね。一体なにを犠牲にすればお兄ちゃんが手に入るのでしょう?

「こういうのが所謂『重い』ってやつなんですかねえ」

 答えは出ないがこんな事を相談できる相手もいない、いっそ誰も私たちを知らないところでやり直せたらとさえ思う。少なくとも現代日本では無理でしょうが……

 考えが焦げ付いてきたのでPCに向かいます、これはどんなに思ったとおりには動かなくても、書いたとおりには動いてくれる頼れる相棒です。思った通りに動かないのは人間も同じですからね、だったら後者だけは確かなコンピュータのほうが私は好きです。

 カタカタと文字を表示したり、数字を計算するコードを手慰みに書きます。自分で使うならセキュリティホールも関係ないのがとてもありがたいことです。悪意を前提とする考えはどうにも好きにはなれません……ですが善意が必ず報われるというわけでもないのは残念です。

 そういえば今日はプログラミングコンテストの開催日ですね……暇つぶしに参加しますか……

 数問しか解けないけれど、誰かに認められるのは嬉しいです。たとえソレがサーバ上で走るスクリプトだとしても……

 vimを開いてコードを入力していきます。私の好きなCで問題を解きます、あまり要領の良い方法ではありませんが無事テストをパスしました。

 お兄ちゃんの心もこれくらいわかりやすいと助かるのですがね。

 そうは言ってもお兄ちゃんは立派な人間だ、機械のように決まった動作はしてくれない。この無限とも思える動作をする有機物に私はどう働きかけるのが正解なのでしょうか?

 いけませんね……考えると深みにはまるのは私の悪いクセです。

 タタタと階段を下りてお兄ちゃんの部屋を空けるいつものルーティンをこなします。

「おにーちゃん! 可愛い妹が来ましたよー!」


「なんだか深刻そうな顔してるな?」

「え?」

 お兄ちゃんの言葉には戸惑います、いっつもこういうときだけはやたら勘が良いのも困りものですね……

「顔に出てましたか……?」

「何年お前の兄やってると思ってんだか、そりゃ分かるよ」


 私はそんなに顔に出るタイプでしょうか? 自分では全くそんなこと思っていなかったのですが。とはいえお兄ちゃんに心配はかけられません。

「いえ! お兄ちゃんに会ったら、悩みはどこかへ行ってしまいました」

「そうか」

 それだけ行ってお兄ちゃんは黙り込んでしまいました。きっと私の悩みの原因が自分なのもお見通しなのでしょう。だとしても、ソレを公言することははばかられます。


「なんとかなる」

 不意にお兄ちゃんはそう言いました。

「世の中にはどうしようもないことはたくさんある、生きてれば何かを失うことだって多いだろう、でもまあ……俺は側にいるよ、少なくとも生きてるうちはな」


「おにいちゃ……ぐぇ……えっぐ……ありがとう……」

 私はしばらくお兄ちゃんの腕の中で泣いて、今までの悩みを全て涙と一緒に流れたころ、ようやく離れました。

「満足のいく答えなのかは分からない。それでも、いつでも俺は側にいる、それじゃ不満か?」

 私の答えは決まっています。

「いいえ! 私はお兄ちゃんさえいれば他にはなにも要りません」

 そう言って精一杯の笑顔を向けました。

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