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本心

 私は一つだけ、考えてこなかったことがある。

 意図的に考えるのを避けていたといったところです。

 そう、その恐ろしいたった一つの考え。

「お兄ちゃんは私のことが嫌いなのではないか?」

 考えるにも恐ろしい事実に私は震えます。

 それは考えたくない事実です……考えたくはないのですが……嫌われてもしょうがないとは思います。

 私は目をそらしています、そしてこれからも目をそらしていこうと思います。

 お兄ちゃんに嫌われたとしても、私の愛情が変わることはまったく持ってありません。

 でも、だとしても……やはりお兄ちゃんには私を好きでいてもらいたいと思っています。

 ワガママなのでしょうか? そうなんでしょう、それでも私は強欲なので全部を欲しいと思います、えらい人が言っていました『強欲なのは良いことだ』

 私は強欲なのです、なにが悪いというのでしょう?

 だからお兄ちゃんは私だけの物ですし、たとえ嫌われようが絶対に離しません。


「まぁ……お兄ちゃんの意見を聞いておくべきなんでしょうね……」

 気が重いです、鉛の塊を口に含んでいるかのように声を出したくありません。

 絶望と向き合う羽目になるかもしれない……それは私の気分に影を落とします。

 タン……トン

 階段をゆっくり通ります、いつもなら気分の良い瞬間ですが、今日ばかりは少し足取りが重いです。

 地下への最後の一段……気が向かないのは初めてですがその一歩を踏み出しました。

 PINコードを入力していつも通りロックを解除します。

 ガチャ……ギィ

 ドアを開けました……開けてしまいました。


 お兄ちゃんはPCの前に座ってソースを書いているようです。

 私はしばらくお兄ちゃんの背中を眺めます……最初の一言が出てきません。


「ん? どした、珍しくしおらしいな」

 お兄ちゃんが私に気づいて椅子をクルリと回します。

「まーた納期直前の仕様変更でもあったか? 相談くらい乗るぞ」

「うぅ……」

 私は涙を我慢できませんでした。

「ちょ! どうしたんだよ? 悩みがあるなら言ってみろ、共有くらいはしてやるぞ」

 私は一拍おいてからお兄ちゃんに訊きました。

「お兄ちゃんは……私のこと……きらいですか?」

 お兄ちゃんはため息をつきながらこぼしました。

「そりゃあ太陽は拝めない、自由に買い物もできない、人間関係は崩壊……そんなことをされたわけだが……なんだか嫌いじゃないんだよなぁ……」


 お兄ちゃんの答えに私は言葉を失いそうになりました。

「じゃあ……嫌いじゃないんですか」

「そうだな……なんでだろうな……? 何でかは自分にもわからないけど嫌いじゃないんだよなあ……」

 理由なんて無いのでしょう、私がお兄ちゃんを好きなのと同じように、きっとお兄ちゃんもいつかはわかってくれる日が来るのでしょう……たぶん……いえ、来るはずです!

「ありがとうございます、今日はそれだけですので」

 私は狐につままれたようなお兄ちゃんをのこし、部屋を後にしました。

 私の部屋で、壁一杯に貼られたお兄ちゃんの写真を眺めながら、幸せな夢を見ることができました。

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