お兄ちゃんには私さえ居ればいい
「さて、今日も来ましたね……」
そう、お兄ちゃんに会うために家まで来た人が居たのです。
何の用だったかはついぞ訊きませんでしたがやはりお兄ちゃんに交友関係があるのは危険ですね。
しかもです、今日来たのは女の人でした、これは私の勘が危険フラグを立てています。
「と、いうことなのでお兄ちゃんの交友関係を書き出してもらえますか?」
「なにがというわけでだよ。まったく意味が分からんぞ」
お兄ちゃんはあっけにとられていますが私も引けません。
「だってお兄ちゃんと外部との繋がりを断っておきたいじゃないですか」
「俺に死ねというのかよ」
「社会的にはそうですね」
お兄ちゃんはなにやら私に恐怖しているようです、安心させる必要がありますね。
「大丈夫です! 私がしっかりお兄ちゃんの面倒は見ますよ! 妻と子供と親と友人と恋人の役を全部こなせます!」
「怖いよ!? なんで人間関係をフルスタックでこなせるんだよ! あとマルチ商法っぽい行動はやめてくれないかなあ!」
失敬な人です、私をマルチ商法と一緒にするとは……
私は人間関係を換金する趣味など無いですよ、いやお兄ちゃんは『監禁』してますが……
「とにかく! お兄ちゃんは俗世への未練を断ち切る必要があるんです! だからウチに来るほど仲のいい人はリストアップしてください、ちゃんと対応しますから」
「ちなみに『ちゃんと』の意味って何だ?」
「それはもちろん二度と家に来ないようにしっかり人払いをします」
お兄ちゃんは頭を抱えてテーブルに突っ伏した、まだ未練があると見えますね。
「大丈夫ですよ! 私は全てにおいて完璧ですからね! 全ての役目を1000%やり遂げます」
「それ出来ない人の口癖じゃん」
お兄ちゃんが私に口答えとは、上下関係が分かっていませんね。
これは私の優位と大切さを教え込まなければ鳴りません。
「いいですか、私はお兄ちゃんの妹なんですよ? 妹が兄の交友関係に口を出すのは有史以来当然とされています」
「勝手な歴史を捏造するのはやめてくれよ……」
お兄ちゃんにはもっと妹の素晴らしさを理解してもらわないといけません。
「お兄ちゃん、兄が妹に尽くすのは当然でしょう? 歴史が証明してますね」
「お前の歴史観が怖いよ……」
世界は私を中心に回っているんです、私さえ居ればお兄ちゃんは世界の中心に限りなく近い存在になるんです。
「まったく、しょうがないのでお兄ちゃんに教育的指導をしますね!」
そうして私とお兄ちゃんの『妹について』は深夜まで講義として続いたのでした。




