妹はUPSが欲しい
あーもう!
私はキーボードを叩いていた、大枚はたいて買ったキーボードだというのに偉く扱いは乱暴だなとは思う。
しかし、だ。
お兄ちゃんの思い出を書いている最中に少しお手洗いにたった。
そのすきにOSのアップデートが走って後はお決まりの再起動だ。
つまり、1kbくらい書いたお兄ちゃんへの愛は無情なアップデートによって消え去ってしまった。
というわけで私はキーボードに指をたたきつけている。
「あーもう! なんでよりにもよってこのタイミングなの!? 私、何か悪いことしたかなあ!?」
お兄ちゃんの監禁? アレは善意に基づいてるからノーカンで。
しかし、お兄ちゃんの記憶は私の脳裏に刻みつけられているのでもう一度入力しても品質に変わりは無いです、ただ機械ごときが私の手を煩わせたのが気に食わないんです。
「どーせ手を煩わせるならお兄ちゃんにして欲しいですね……」
お兄ちゃんのことだったらどんなに手間でもやってみせる、他人のこと? 知らないですね。
停電? はて? 何か大切なことを忘れているような……
………………
「やばい! スイッチ入れないと!」
私は慌ててお兄ちゃんの部屋の空調のスイッチを入れる。
お兄ちゃんの部屋の空調はこちらでないと弄れなくしたんだった、すっかり忘れていた。
この暑い時期に数十分空調無し……お兄ちゃん、怒ってますかね?
私は怖々と階段を下りていく、お兄ちゃんの部屋の前に立ち、まだそこにぬるい空気が漂っていることからここが熱かったことは予想がつく。
……ガチャリ
「お兄ちゃん……大丈夫ですか?」
私はゆっくりとドアを開けて様子をうかがう。
ベッドの上でお兄ちゃんがぐったりとしていた。
「お兄ちゃん! 大丈夫ですか!?」
「大丈夫に見えるのかよ……」
お兄ちゃんは絞り出すような声で私に不平を言う。
「ごめんなさい……暑かったですよね……」
「頼むから空調操作をここでできるようにしてくれ……」
私はお兄ちゃんを不快にしたことを反省しながらエアコンのリモコンを持ってきた。
しょうがないので私の部屋からの操作をリモコンによる手動操作に切り替える。
「なあ……なんで俺が操作できないようにしたんだ?」
「え? だって部屋の温度を上げてお兄ちゃんがシャワーを浴びているところを見計らったり、寒くして『暖まりましょう』って二人でくっつくとかが出来なくなるじゃないですか?」
「そこまで正直だと感心するわ」
お兄ちゃんは頭を押さえて私のほうを見る。
そんなに見つめられても困るんだけど……ちょっと嬉しい。
「褒めても何も出ませんよ?」
私がニヤけながらそう言う。
「今ので褒めてると思う思考回路が謎だな」
お兄ちゃんが何か言っているが特に気にはなりません。
ふと、お兄ちゃんが熱気で汗をかいていることに気付きます。
「お兄ちゃん、大分汗になったでしょう? 私が拭いて……ふへへ」
「シャワーがあるのを忘れてるのか?」
そうでした! この部屋にシャワーを付けたのは私でした!
うかつなことをしました、せめて私も汗をかいていれば、一緒にシャワーというイベントを起こせたのに……!?
「お前わかりやすいなぁ……」
お兄ちゃんの言葉はついぞ私の耳には最後まで届きませんでした。




