風邪をひいても二人
私はお兄ちゃんが好きだ、それはもう世界とお兄ちゃん、どっちをとるかと言われればお兄ちゃんをノータイムで選ぶくらい好きだ。
何故級にそんな当たり前のことを思ったのか……それもきっと体調のせいだろう。
「お兄ちゃん……おはようございます……」
私は日課のお兄ちゃんへの朝ご飯を届ける、なんだか少し喉が痛い。
それに何故か身体が熱い、これはお兄ちゃんに興奮しているのでしょうか?
「なあ、すこしいいか?」
お兄ちゃんは少しためらってから私のおでこに手を当てた、スキンシップで身体がもっと熱くなる。
「はぁ……風邪だろうな。今日は休め、寝てろ」
お兄ちゃんはそう言って私を抱きかかえます、お姫様抱っこをされます、ここは天国でしょうか?
お兄ちゃんは部屋の狭いキッチンに立って鍋を火にかけている。
「ちょっと悪いけどご飯使うぞ」
そう言うとお兄ちゃんは私の炊いたご飯をお鍋に放り込んだ。
「出汁は……あったよな……ちょっと手抜きだけどこれが限界か……」
そう言ってしばらくコトコトと鍋で炊いた後、私の前にお粥を差し出してきた。
「ほら、食べろ」
ちなみに今はお兄ちゃんが普段寝ているベッドを使わせてもらっている。
「お兄ちゃん……食べさせてください」
私はダメ元でワガママを言ってみる、たまには甘えてもいいんじゃないかなあ……
「まったく、ほら」
お兄ちゃんはスプーンですくって私の口に運んでくれる。
お粥は味が薄くここにある素材で限界の味付けだった、それでもお兄ちゃんが作ってくれたならその価値はプライスレスです。
「はふ……美味しいです」
「そうかい」
「お兄ちゃん、なんで今日はこんなに優しいんですか?」
「風邪事態はたいしたことなくても、体調の悪いときにひとりぼっちは辛いからな。今日くらいは甘えろ」
かぁっと頬が熱くなる、お兄ちゃんに自由に甘えられる! なんて素晴らしいんでしょう!
困った……まさかの展開にお兄ちゃんにして欲しいことが急には思いつかない、普段はいくらでも思い浮かぶはずなのにこんな時ばっかり私の脳は機能が低下してしまう。
学校に欠席のメールを送り、私はお兄ちゃんを存分に味わうことに決める。
「お兄ちゃん、熱いです」
「ほら」
お兄ちゃんは水で濡らしたタオルをおでこに当ててくれた、冷却シートではないのは私が用意していなかったからだよねえ……
「その……ごめんなさい、迷惑ですよね?」
お兄ちゃんは特に考えず答えてしまう。
「今更迷惑も何も無いだろう、ここから出してくれないことに比べたら病人の世話なんて楽すぎるわな」
私の心が少しだけチクリと痛んだが、それもお兄ちゃんが隣にいるのでどこかへ霧散していった。
あ、もしかしてお兄ちゃんに身体をふいてもらうという事も出来るのでは?
「お兄ちゃん、汗が気持ち悪いので拭いてくれませんか?」
お兄ちゃんはため息をついて言う。
「そもそも服が汗でベトベトなのに身体を拭いてもしょうがないだろう、それとも俺が部屋から出て服を取りに行くのを認めるのか?」
「しょうがないですね……じゃあせめて隣にいてください」
私がそう言うとお兄ちゃんは部屋のベッドの側に椅子を置いて本を読み出した。
雰囲気がいい感じです! しかし、さすがの私も風邪には勝てずあんまりアクティブなことは出来そうにないです。
ふとお兄ちゃんのほうをチラリと覗くと、とても優しい顔で私を見ていました。
たまには……風邪もいいですね……
そんなことを考えながら意識がブラックアウトした。
目を覚ますとおでこに冷たい感触がある。
「ああ、目が覚めたか」
「もしかしてずっとタオル冷やしててくれたんですか」
「ああ、気休め程度なのは知ってるがな」
私は泣きそうだった。
お兄ちゃんが私のことを思ってくれている、きっとそれはとても素敵なことなのだろう。
そうして夕方になり熱もひいてきたので部屋へ帰れと言われた……と手も名残惜しいがお兄ちゃんが私を嫌っていないと分かっただけでもあまりにも十分な成果だった。
その夜、一人で寝るのが無性に心寂しく、一人より二人でいることの素晴らしさがよく分かりました、きっといつかはお兄ちゃんが私の側にいてくれるように願って意識をシャットダウンした。




