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手料理について

 男の人は手料理に感激するのだろうか?


 私はふと何やら口やかましいとあるクラスターを炎上させそうな疑問を思いついた。

 手料理……私は作ったことがないがお兄ちゃんの関心を引けるなら十分に作る理由になる。


「ちょっと作ってみますか」


 私は料理を作ったことはない、だって買って済ませられるならお金を回した方がいいだろう、資本主義バンザイ。


「やっぱり定番はカレーでしょうか……?」


 比較的難易度が低そうでウケのいい料理と言うことで私はカレーの材料を買ってくることにした。


「ええっと……お肉と玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジン……」


 私はレシピサイトを見ながら材料を買い集めている。

 安直だが全部同じスーパーで買うことにした。

 もっといい材料を買うお金はあるのだが、肝心の商品がいつでも買えるわけでもないレアものを使用してお兄ちゃんにリクエストされたときに同じモノが作れないのはよろしくない。

 ということでいつでも同じものが売っている近所のスーパーで一通り買いそろえることに決めたのだった。


「こんなたくさんのカレールー用意して売れるんでしょうか?」


 私はレッドオーシャンで熾烈なシェア争いをしているであろうカレールー業界を心配しつつどれを選んだモノか悩んでいた。


 辛口、甘口、十辛……etc

 どれを選べばお兄ちゃんのウケがいいのだろう?


 男の人は辛いものが好きな傾向があると書かれていたが、一般の傾向ではなくお兄ちゃんの好みに合わせなければならない。


 あんまり極端なのもギャンブルですし無難に辛口にしときましょうか……


 私はパッケージの黒い辛口のルーを選んで買い物カゴに放り込んだ。


 安めのスーパーの基準からすれば出来るだけ高級な材料を買って帰宅する。


「まずは野菜を切って……焼くんですね」


 スパスパと野菜を切る、使いもしないと思っていた高級包丁が活躍する日が来たんだなあ……買ってて良かった。


 鍋に油をひいて野菜を炒める、しばらく炒めてからお肉を入れる、もちろん和牛だ、高い物を買っとけば間違いないというのは成金の思想だと自分でも思わないでもない。

 だが愛情がいくら良い調味料といっても、お兄ちゃんに食べさせるものを安物にするのは気が進まない。


 水を注ぐと、ジュウ、と音を立てて鍋から香りが立ち上ってきた。

 うん、いい感じだろう。


 しばらく煮込んで野菜に串を刺してみて柔らかくなっていたのでルーを投入する。


 少しするとルーが溶けてカレーの匂いが出てきた、不安だったが一応カレーっぽい物ができている。


 しばらく鍋を混ぜながら煮込んだ後小皿についで味見をしてみる、少し辛いが不味いことはない、これで満足するべきだろうか?


 私はテーブルの上にある念のために買っておいたデスソースを眺めながら入れるべきか悩む。


「とりあえず味見をしてみますか……」


 私はデスソースの蓋を開け中の栓を引っ張って開封する。

 指先にそれを一滴垂らして舐めてみる、途端に悶絶した。


「なにこれ……かっら……無理」


 危ないところだった、これを安易に入れていたらお兄ちゃんに恨まれていたかもしれない、危険予知は大事だなあ……

 私はデスソースを冷蔵庫に放り込んでそのままのカレーを普通に煮込んで完成とした。

 初心者が下手に隠し味を入れるもんじゃない、素材の味を大事にしよう。


「おにーちゃーん! 今日はカレーですよ! なんと! て・づ・く・り! さあ褒めてください」


「はいはい……って手作り!」


 お兄ちゃんが驚きの顔をする、何故か喜びではなく不安の色が見て取れる。

 まあ以前ちょっとだけ料理で失敗したこともあるのでお兄ちゃんが不安に思うのもしょうがない、だが人は成長するのだ。

 私は同じ失敗を何度もする人間ではない、というわけでお兄ちゃんにはしっかりと味わっていただきたい。


「今日のはちゃんと味見したから大丈夫ですよ! 私もこの部屋で食べるので変なモノは出しませんよ!」


「お前は死なば諸共も辞さないから信頼できないんだよ!」


 お兄ちゃんは失礼なことをいう、まるで私が……いや、死ぬときはお兄ちゃんと一緒にと思っているので間違ってはいないか……


 そんなことを思いつつ私はお皿を二つ並べ、念のため多めの水が入った水差しを用意している。

 お兄ちゃんは目の前に置かれたカレーを見てからぱっと見でおかしなところがなさそうなので匂いを嗅いでいた。


 信用無いなあ……


 とはいえ過去が過去なので多少色眼鏡で見られるのはしょうがないことだ。


 私は一通りよそった後食事を始めることにした。


「いただきます」

「いただきます」


 お兄ちゃんは恐る恐るカレーをすくって口に入れる。

 驚いた顔をした後パクパクとカレーを口に運んでいった。

 私は口元を緩めながら一緒に食事をした。はて、何日お兄ちゃんと食事をともにしていなかっただろうか?


 私は食事を一緒にすることの重要性を感じながら二人で黙々とカレーを食べた。


「ごちそうさま!」

「はい、おそまつさまでした」


 お兄ちゃんは笑っていた。ああ、この笑顔が見たかったんだ……


 お兄ちゃんの口元についたカレーを拭って「美味しかったですか?」と訊く。


「すごく美味しかった! いつの間に料理できるようになったんだ?」


 お兄ちゃんは私が料理を出来るのが驚きの事実のように訊いてくる。

 私の答えはたった一つだった。


「全て愛故に、ですよ!」


 私はお兄ちゃんに笑いかけ、お兄ちゃんも久しぶりに心からの笑顔を見せてくれたのでその日は一日幸せな気分になれたのだった。

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