ここの本持ってると権威があるよね?
「あー……わっかんないなあ……」
私は動物が表紙になっている本を行儀悪くベッドに放り投げて独りごちました。
いやあ……アレを分かる人ってすごいなあ……
まあ、要するにコンピュータ界隈で有名なあそこが出してる本です。値段と難易度がすごいです……
初心者お断りなのは知ってましたが、わざとかと思うくらいわかりにくい書き方があるんですよね……
日本語訳なのに日本語で意味が分かんないってなかなかできることじゃないよ、なっかなかないよそんな出版社……私の読解力が低いだけなのでしょうねえ……
「そういうわけで、アニマルブックの効率のいい読み方知らないですか?」
「アレは分かってる人向けに書いてるとこあるしなあ……」
お兄ちゃんに聞けば極意みたいな都合のいい話が出てくるかと思ったのですがまさかのお手上げでした。
「いや、お兄ちゃんの部屋にあった本ですよ? お兄ちゃんも読めないってどういうことですか!?」
そう、お兄ちゃんの部屋の本棚から拝借した本なのです。あそこを作業部屋にしてからちょいちょい技術書を読ませてもらってました。
「さらりと人の本を覗き見たのを公言するなあ……」
お兄ちゃんも困っているようですね……
どうしたものでしょうか? 初心者向けがわかりにくいなんてあっていいことじゃないと思うのですが、現実ってやつですね。
「お兄ちゃんはよく分からない本を集めてたのですか……?」
結構な量があって、アレだけあるとお値段もそれなりのはずなのですが……
「親が朝読書に使うって言ったらポンとお金出してくれたぞ」
地味に酷い理由でした……朝読書で読めるような本じゃないでしょう……まだ広辞苑の方が頭に優しいと思うのですが……
というか、朝読書でvimの解説本を読むとか正気でしょうか? Emacs派と闘争でも繰り広げたかったんでしょうかねえ……
「分かんなくても先に進めばいいんじゃないか? 先頭から順番に読んでると意味の分かんない話がしれっと入ってることも結構あるぞ」
なるほど……読者への嫌がらせでしょうか? アレですかね『簡単にクリアされたら悔しいじゃないですか』を書籍に持ち込みたかったのでしょうか?
「ぶっちゃけ、アレは大学生以上向けじゃないか? 最低限高校は終わってないときつそうな内容多いぞ?」
そんなものを本棚に入れておくのはどうかと思うのですが……いえ十八禁というわけでもないいたって健全な本ではありますが。
「小学生でも分かるシリーズとかないんでしょうか?」
「入門編に言語処理系はインストール済みなの前提の本があるんだぞ? さらっと初心者向けの体裁を整えてるからたちが悪いんだよ……」
えぇ……初心者向けで……パッケージマネージャでいけるLinuxなの前提でしょうか? 少なくともWindowsでは説明無しで環境構築は難しいと思うのですが……
「その、なんだ……分かんないのは普通のことでドンドン読んでくしか無いと思うぞ?」
お兄ちゃんも挫折組なんでしょうね、気持ちは分かりますが……
「その、なんだ……K&Rも読めない人が多いらしいしそんなへこむことでもないだろ?」
私はため息を一つついてからお兄ちゃんに聞きました。
「初心者向けのお勧めを教えてくれませんか?」
「本棚の目線のところに一番簡単で読みやすい本が詰まってるからその辺から選んでくれ」
なるほど、一番目につくところに分かりやすい本を入れてましたか。
「分かりました! この(検閲削除)な本は諦めてもっと簡単なやつにします」
「自主検閲するような言葉を使うなよ……」
何かお兄ちゃんが言っていたようでしたが、私はもう部屋を出ていたのでした。




