like a fiction
おはようからおやすみなさいまで
社会の歯車として、自分の生活を成り立たせるために、或いは存在意義を見出すために労働を繰り返す。
・・・もう終電には間に合いそうにないな
何も珍しいことじゃない。
今の時代は大学を出てもスキルがなければ当然就職にはあぶれるし、無論そんなあぶれ者にはしょっぱい職業しか残されていない。
「かわいい嫁でもいればもう少しマシな日々なのになぁ」
無論、ブラック企業に勤める年収250万のさえないアラサーには彼女すらいない。
いや、彼女を作ろうとすら考えなかったのかもしれない。
正直この年収で養えるかすら怪しい、というか無理である。
そんな俺が履いた空虚な言葉は誰に聞かれるでもなく、自分の机にだけ灯ったデスクライトの彼方に消えていく。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
…か?
どうやら寝ていたみたいだ。
会社で寝泊りとは交通費節約でエコで健勝なことである。
…いか?
今日で何連勤だろう?すごく疲れているのだろう。時刻はまだ午前6時位だが、早めに帰れるように少しでも仕事をやっておこうか。まぁ、どうせ追加されて終わらないんだけど。
…が欲しいか?
どうやら俺はストレスでおかしくなってしまったらしい。
電子機器類のコイル鳴きの合間に人の声がする。
これは労災として認められるのだろうか。
力が、欲しいか?
あ、これ聞いたことがあるやつだ。
でも力ってなんだろうな。
正直今まで平凡というか、それ未満の人生を送りすぎて力とかそういうものに無縁すぎてイマイチ実感が湧かない。
まぁ、仕事するか。
「おい、無視するんじゃない!!!!!!!!!!!」
「えええっ」
さっきの幻想的というか、掴み所のない幻聴のような声から、明らかな人間の声に変わる。
「聞こえとるんじゃろうが、無視するんじゃない!」
「聞こえてません」
状況が全く読めない。
というか、怖すぎてPCのモニターから目が離せない
この椅子の後ろに何かがいる。
「嘘をつけ!!!」
その瞬間、思いっきり椅子を回される
そして目が合う
「お主、我を無視するとは良い度胸だな!」
ちんちくりんのよく分からん衣装を身に纏った子供がそこにはいた
「お、おはようございます」
「おはようじゃないわ!!!」
挨拶もできないとはよっぽど無教養らしい。
「せっかく力を与えようと声をかけたのに・・・」
「はぁ。」
正直急展開すぎて全くついていけない。
なんだこいつ。
「まぁよい。改めて問おうぞ、『力は、欲しいか?』」
どこかで聞いたことのあるような言葉を不敵な笑みでそいつは放った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「えーっと、どういうことですかね?」
「むむっ、お主、珍しいやつじゃの、こういうとき人の子は大抵反射的に力を求めるものじゃぞ。」
と、言われても、とっくの昔に中二病は卒業しているし、そもそもこの状況は意味がわからなさすぎる。
「お主があまりにも冴えない人生を送っていたから我が力を与えようと思ってな。」
「あー、ということは、あなたは神様かなんかですか?」
「うむ、そういう感じじゃ」
全く状況は理解できないがなんとなく飲み込めてきた。
中学の頃よく見た夢にそっくりなのはさておき、これは現実みたいだ。
「お主はあまりに寂しい人生を送っておるよのう、そこでじゃ、選択肢を与えよう。」
なるほど、よくあるやつか。
「しかし、力を得たら、もうこの状況にはいられない。しかし、お主はこの状況を惜しむことはあるまい。」
当然だ。
低い生活水準に得られない幸せ。
どこに幸せな要素があろうか。
「たしかにそうですね。選択肢?ってやつを聞かせてはくれませんか?」
夢ならば、起きたとき少し恥ずかしい気持ちになるだけで、現実なら儲け話。
話に乗ることにした。
「うむ、ひとつ、全く違う世界に転生する。」
なるほど、よくも見慣れたストーリーである。
「二つ、人生を幼少期からやり直す。」
俺はノータイムで後者を選んだ。