エピソード1
新シリーズです!
目を覚まし、枕元にある目覚まし時計を見ると、5時半を指していた。
「もうこんな時間か…」
ふと、そんなことを呟く。休日というのはついつい自堕落になりがちで、やる気が出ない。
今日は、父さんは仕事で遅くなり、母さんは高校の頃の友達と久しぶりに会うということで、夕食は自分で作らなくてなくはならなかった。
自炊は面倒だし、カップラーメンでも作って食べるかと思いながら、キッチンへ向かう。キッチンに向かう廊下で、キッチンへ行くことを妨害するように西日が窓から差してくる。ふと背後に気配を感じ、振り返るが誰もいない。まぁ家族は出かけているから当たり前っちゃ当たり前だ。
しかし、床を見ると、自分の影に薄気味悪い笑顔が浮かんでいた。
普通では考えられない光景に硬直してしまう。そんな中、影で蠢く『なにか』が口を開く。
「よう、小僧、どうなってんだか分かんねぇって顔してんな」
「えっ…何…どういう事?」
「まぁ落ち着けって、とりあえず話を聞いてくれ」
「はぁ…」
自分の影に顔が浮かんだと思ったら、いきなり話しかけてくる…理解が追いつかない…
でも、このままだと埒が明かないので、とりあえず話を聞く。
「オレの話をする前にまず、一つ質問するぞ」
「…質問?」
「そうだ、小僧、お前は『悪魔』がもし現実にいると言ったら信じるか?」
「悪魔ねぇ…」
悪魔だの、神だの、エイリアンだの、そういった超常現象みたいなものに小学生の頃は心躍ったものだ。
ただ成長していくにつれて、そういった気持ちは自然に薄れていく。サンタクロースを本気で信じている中学生など、皆無に等しい。もし、そんな子がいるんだとしたらその子の親御さんはよっぽど努力したんだろう。
もちろん、そんなものがいたら面白いとは思う。が、それは実際にいたらの話だ。
「まぁ、この流れからしてお前が、悪魔そのものだって言いたいんだろ?」
「小僧、話がわかるじゃないか、その通りだ」
「別に悪魔がいるって認めてるわけじゃない…というかさっきから小僧小僧って呼ぶのやめろよ」
「ハッハッ、なかなか威勢のいい小僧じゃないか、これは面白くなりそうだ」
そういって自分を悪魔と名乗る薄気味悪い影は笑った。さっきまで、俺はかなり戸惑っていたはずなのに、謎に陽気なコイツのせいで変に調子が狂ってしまう。
「はぁ…もう小僧でもなんでもいいや…」
「話がだいぶ逸れてしまったな…ここからが本題だ」
影はさっきとは打って変わり、真剣な眼差しで、俺を見つめた
「お前は今の生活に満足しているか?」
「また質問かよ…」
「いいから答えな」
「まぁ、それなりには……な」
「オレには分かる、お前は今の人生に飽きているんじゃないか?」
「なんだよ…急に…」
「もし、絵に描いたような青春をこれから送ったとしても、きっとお前は満足しないはずだ。それは自分が一番分かってるんじゃないか?」
「だったらなんだっていうんだよ」
「そこで…だ、俺と契約をしないか?」
影に言われたことに一瞬ドキッとしてしまう。図星をつかれ、少しムキになってしまった。軽く深呼吸をして、冷静になる。
「オレは悪魔だが、命を寄越せなんて言うつもりはない」
「だったら何を…」
「そんなに難しい話じゃない。お前にはオレの手伝いをしてもらう。が、そのかわりにお前に飛びっきりの刺激を提供しよう。普通に生きていればまず経験できないであろう刺激を…」
「オレと協力して、他の悪魔と契約を交わしている『契約者』と戦って欲しい。生憎、オレには実体がないから他の契約者と戦う力はない」
悪魔が他にもいるとか、目の前に居るこの影が本当に悪魔なのかも分からないのに信じれる訳がない。第一もし、それが本当だとして、実体がなくて戦えない悪魔に俺が加わった所で戦況は変わらないはずだ。
「オレには戦う力はない。が、お前にはオレの力が使える。もちろん契約したらの話だかな」
「力っていうのは何だ?」
「それは、戦うときまでの秘密にしておこう」
なんだか胡散臭い話ばっかりだか、俺の心はもう決まっていた。
「分かった…契約しよう。お前が本当に悪魔なのかは契約して確かめてやる」
「素直じゃないなぁ…まぁいい契約を結ぼう」
影がそう言った瞬間。目の前が真っ暗になり、意識が遠のいた……
目が覚めて、自分の影に目をやるとさっきまであった薄気味悪い笑顔が無くなっていた。
「結局、夢だったのかよ…」
「ハッハッ、残念ながら夢じゃなくて現実だ」
声は聞こえるが、辺りを見回してみても、何処にもあの顔が見えない。
「どこにも見当たらないけど…」
「今もお前の影にいるが、普段は見えない方が都合がいいだろ?」
「まぁ、そうだな」
どうやらあの薄気味悪い顔は隠すこともできるらしい。
「それより、夕飯を食べるんだろ?」
「なんでそんなこと知ってんだよ」
「まぁ何年も前からお前の影にずっといたからな」
「えっ、マジで?」
「ハッハッ、悪魔のジョークだ」
そんな他愛のない話をした後、お湯を沸かしつつ、テレビのリモコンの電源ボタンを押す。
テレビの電源がつくと、「密着!悪魔に取り憑かれた男」とかいうドキュメンタリー番組が流れた。
「はぁ、馬鹿らしい…」
「すぐそばに悪魔がいるのにか?」
「うるさい、別にお前のことを完全に信じた訳じゃないからな!」
少し腹が立ち、急いでチャンネルを変える。ニュース番組で昨日の夕方、女子高生が電車に轢かれたことを報道していた。
「15歳か…小僧、お前と丁度同学年くらいじゃないか?この歳で自殺か…可哀想だな」
「そうだな…っていうかこの駅、俺の通ってるの学校の近くの駅だ……」
その駅の近くにある、俺の通っている光ノ郷高校はスポーツが盛んで、電車で通う高校生も少なくなかった。
「俺と同じ学校の同級生なのかもしれないな…」
「ただの勘だが、ちょっと嫌な予感がするぜ…」
「それって…」
「いやなんでもない、それより、もうお湯沸いてるんじゃないか?」
「…そうだな」
今日の夜空は雨と風が吹き荒れており、これから悪いことが起こると示唆してるかのように感じた。