魔女の弟子-2
(あの子、シン魔法を使った後の気がするの)
力なくもたれかかるアオイを指して、ミルティは警戒心を露わにそう言った。
(馬鹿な!?考えすぎじゃろ)
シオンはそう答えた。あの小さな身体でシン魔法を使えば、シン領域が簡単に食い潰されてしまうはずだ。だからそれは有り得ない、と。
「──あの子は、被害者のリストに該当しませんでした」
ゆえに衛兵のこの言葉は、二人の魔女を大いに悩ませた。人攫いたちは常に、貴族や王族の子息令嬢、高名な魔術・錬金術師、剣士や武闘家の子どもを狙い、計画的に犯行に及んでいる。目的は子どもたちの兵器運用、人身売買、身代金の強請りなど多岐にわたる。
それに伴って当然危険度も高いことをしているため、彼らは冷酷であり打算的だ。無能とわかれば切り捨てられ、邪魔をすれば殺される。
「この子はどうして殺されなかったのかしら……」
眼帯の下の“異常な目”を治療しながら、ミルティは悲痛な面持ちになる。シオンはその様子を眺めつつ、衛兵に尋ねた。
「子どもたちの中で魔術に秀でた者はおったか?」
「は。あ、いえ。そこまでの調べは……ただ、コルネリア家の御子息がお一人いらっしゃいます」
「ふむ」
シオンはそれだけ聞くとつかつかと子どもたちに歩み寄る。安堵して泣き出した子どもたちを宥めている衛兵をすり抜けると、腕を組んで仁王立ちした。
「この中にコルネリアの子はおるか、小童どもよ」
驚いた子や興味ありげに顔を上げた子たちの中で、真っ直ぐに伸ばされた手が1つ。
「私です。花の魔女様」
「ほう。おぬしだったか」
シオンは笑顔を作りつつ、内心眉をひそめた。
(儂の面が割れているだと?こやつ……)
「花の魔女については何のことやらわからぬが……おぬし、儂の魔法への抵抗をしたか?」
警戒を隠し、にこやかに問いかける。いつもはミルティがこういった聞き込みは行うのだが、今回は状況が状況だけに、預けるわけにもいかないとシオンは判断していた。
「いいえ」
コルネリアの少年はどこか底知れぬ笑顔を保ったまま、首を横に振る。しばらくその様子をシオンは黙って見つめていたが、やがて頷くと踵を返した。
「そうか。邪魔したな」
衛兵の間を再びすり抜け、子どもたちから視線が切れたところで、大きくため息をつく。
「やれやれ。子どもは苦手じゃ」
(さて、あのコルネリアのガキは嘘はついておらなんだ。ならば本当にミルティが睨んだ通り、シン魔法の行使があったと考えるべきなのか?しかしな───)
そうなると非常に厄介だ、とシオンは歯噛みした。シン魔法ほどの強力な魔法を使えるのであれば、正しい知識を蓄えさせなければ無用な被害を生みかねない。そのため魔法使いの家としての確立などを行い、管理するのが常なのだが、あの異常な目を持った子どもには存在を保証する“後ろ盾”がなかった。
人攫いであれば兵器のエネルギー装置として使うだろうが、シオンたちが助けてしまったので、その未来は潰えている。
「シオンちゃん」
「どうだ?」
言葉少なに聞きたい情報だけを寄越すように目配せすると、ミルティは物憂げにため息を漏らした。シオンもつられてため息をつくと、頭を抱える。
「ええい、後ろ盾さえあればまだ……」
「たらればはやめましょうシオンちゃん。予知夢にしては不都合な展開ね、今回……」
つまり、ミルティの推測は当たっていた。傷を癒され、静かに寝息を立てる子どもがシン魔法を行使したことが確定してしまったのだ。
「ちなみに根拠は?」
「一応もう治療しちゃったけど、手のひらが炭化しかかっていたわ。もしあのトカゲ人間ちゃんのブレスを受けていたなら全身が水膨れになっていなきゃおかしい。でも、この子は手のひらの中心だけが不自然にやけどしていたから……」
「炎か……また可哀そうな」
「……そうね」
二人の魔女は、ただ空を仰ぐのみであった。