災厄の壱-4
時は少し遡り、アオイが翡翠色のコアに到達したときのこと。
アオイはコアからあふれ出す力に既視感を覚えた。それは、学園でアビスの男と対峙する前、トリアイナの森に迷い込んだ感覚とよく似ている。だからこそ、アオイはアルマに言われた“喚べる”ということが本当なのだと直感した。
「誓いをここに――」
呪文とともに、アオイはトリアイナの気配を探る。崩れていくコアの中に、ほのかに覚えのある感触が残っていた。
(トリアイナ!)
名を呼ぶとともに、アオイは引き込まれるような感覚を味わう。あまりのまぶしさに目を閉じ、気が付くと、いつか見た森の中に一人佇んでいた。
「……ここは」
一呼吸ごとに許可を求めてしまいそうなほどの厳かな空気に、アオイの背筋が自然と伸びる。
「よもや、人の子がこの領域まで踏み込むことができようとは」
穏やかな声。トリアイナのものだ。だが、明らかに雰囲気が違う。今までアオイについてきていた時のような気さくさも、実精霊トリアイナのような暴力性も感じられない。
――ただ、在るだけで常世全ての生命の上に立つものだ、と本能で理解した。
「焔の子。災厄をもたらす子。お前はなぜここまで来ることが出来た?」
「え?みんなのおかげで……」
口をついて出た言葉に驚き、アオイはとっさに口を手で塞ぐ。
「無駄だ。この場で噓をつくことなど能わぬ」
風と共に現れたトリアイナは少し姿が変わっていた。腕から生える羽の先には金の装飾が施され、白金に輝く祭杖を携えている。
そんなトリアイナは、はぁ、と小さくため息をついた。
「まあ、お前に嘘をつかせなかったところで無駄なようだったが」
そうしてこちらを見る視線に、アオイは思わず後ずさる。トリアイナはそれには気にも留めず、問い詰めるように言葉を続けた。
「お前は己を害悪と知っている。己を許されない存在だと認知している。そうでありながら、無垢だ。なぜだ?」
「わ、わかりません」
口はアオイの意思とは関係なく動く。アオイは嫌なものを感じ取り始めていた。トリアイナは目を細め、アオイをじっくりと眺める。
「ふむ。問い方を変えるべきだな。お前の纏う、その神気はいったい何だ」
「……神気?」
「不愉快だ。感じるだけで虫唾が走る。だが同時に狂おしいほどに愛おしい」
トリアイナは音もなくアオイに近づいた。覗き込む瞳には、恐ろしいほどの力を秘めた風が逆巻いている。
「――この場には、罪あるものは立てぬ。罪のにおいをぶら下げながら、それでいて無垢……」
トリアイナが杖を一振りした。アオイは地面の感覚が失われたことに気が付いた。
「確かめねばなるまい。お前が、このトリアイナの召喚者たり得るか否か」
「っ!」
トリアイナが目を閉じ、ゆっくりと深呼吸する。再び開かれた目から放たれる敵意を真正面から受け止め、アオイは歯を食いしばった。




