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シンの魔法使い  作者: さんくす
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災厄の壱-1

 その巨体は二対の翼を、存在を確かめるかのごとくゆったりと広げていく。ただそれだけの動作で、はっきりと見えていなかったはずの視界がクリアになる。


「認識阻害が――!?」


 アルマの驚愕の声が聞こえたような気がした。だがそれよりも早く、彼らは見てしまう。

 その威容。その強大さ。その無慈悲さに、心から触れてしまう。

 だからこそ、アオイは一気に駆け出した。


「ガロードさん!!」


 呑まれかかっていたランファとアルマも、弾かれたように走り出したアオイを見て我に返る。


「アオイ!ああもう!」


 果たして三人は、ガロードのもとへとたどり着いた。そしてそこで、片腕を刃に変貌させた異様な魔法使いの姿を見る。


「よう、お前ら。何で戻ってきやがった?」


 険を含むその声は、わずかばかり覇気がない。荒い呼吸を続ける男には、いくつもの深い傷がつけられていた。

 ガロードはちらとこちらに視線をよこすと、ああ、と嘆息する。


「そうか、そいつが届いたか。もうどこまでできるかわからんが、ある程度の気休めにはなるな」


 アルマの持っていた聖剣が光り輝くと、アルマの手を離れて飛んでいき、ガロードの手に収まった。


「まさか、使えるのか!?」


「いいや、まさか。ただこいつとは顔なじみでね」


 ガロードの否定したとおり、刀身はのっぺりとしたままで、およそ剣としての機能を果たしていない。だがそれでも、アオイは旧友の再会を見たような安心を覚えた。


「未来のためだ。わがままは言わんでくれよ、聖剣殿」


 ガロードの言葉に、聖剣の宝石がきらめく。その刹那に、ガロードは呼吸を整えた。


「アルマティ・ガンダルフ!アレを、討伐しても構わないな!?」


「……!ああ、もちろんだ!私はガンダルフの直系として、民を守る使命を優先する!」


 即応したアルマに微笑むと、ガロードは刃と化した片腕を振り上げる。ガロードの身体がそれにしたがって宙へと浮かび上がり、魔力が注ぎ込まれるたびに刃はより強大に肥大化していく。


「さあ大一番だ!」


 そういうと、ガロードは空を蹴ってトリアイナに突進する。トリアイナから生み出される風の一つ一つが、掠めるたびにガロードの肉を裂いていく。だが彼は少しも怯むことなくトリアイナの眼前に躍り出ると、事ここにいたって反応が虚ろな実精霊トリアイナに向けて斬撃を放った。

 血すら漏れない虚ろの身体が裂け、額から翡翠色のコアが露出する。


「後は頼んだぞ」


 ガロードのつぶやきは風に阻まれて誰にも届かない。自嘲気味に笑ったガロードは、それまで身体の陰に隠していた聖剣を振りかぶった。

 聖剣の輝きがトリアイナの目に晒された瞬間、トリアイナの瞳孔が収縮する。


「Urrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!?」


 直後、猛烈な殺意をこめた突風がガロードを遅い、防御に回した腕の刃がバターのごとく引き裂かれた。


「ガァッ――」


 勢いはそれだけにとどまらず、ガロードの左肩は刃と化した腕とともに千切れ飛ぶ。


(怯むな!ここで怯めばすべてが終わる!気張れよガロード!)


 ガロードは己を叱咤し、唇を血が出るほどかみ締めた。風に押されていた聖剣を振り下ろし、コアに到達させる。鈍い音が響き、コアに亀裂が走ったそのとき、ガロードは踏ん張りが利かなくなったことに気がつく。

 きりもみし、地面が上下に激しく入れ替わる中、ガロードは自分の足が切り飛ばされたのだと理解した。聖剣も手から離れ、完全に抵抗することができなくなったガロードは、なすがままに吹き飛ばされていく。


「ガロード!!」


 風がごうごうと吹き荒れる中、遥か彼方で、懐かしい呼び声を聞いた気がした。

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