ガンダルフ領-1
「慌てずに、落ち着いて!特別警戒区域からの一時退去は、どうか押し合わずにお願いします!」
兵士たちが真剣な表情で、時には笑顔で住民たちに応対している。ガンダルフ領では、封印の近い村落から住民たちを避難させていた。
アオイたちも応援として合流し、今まさに彼らに協力している。
「こちらの毛布が足りなくなりそうだ!在庫はあるか!」
「食糧の備蓄は十分だが、仕入れも視野に入れておかないとまずいぞ!調理器具も――」
野営のテントでは、避難民のための対応に追われ、ひっきりなしに声が飛び交っていた。
「大丈夫。はぐれちゃっただけだから。お父さんとお母さんに絶対また会えるよ」
そんな中、アオイは迷子の子どもをなだめている。午前中には炊き出しの応援に回っていたが、避難民の人数の増加に伴い、野営にも増援が入った。その結果、手が回らなくなりがちな迷子の保護、およびメンタルケアに回ることになっている。
(ていのいい厄介払いってことだろうけど)
ガロードやランファのおかげで意識も切り替わり、不満はなかったが、それでも己の無力を悔やまずにはいられなかった。
不安げに身体を揺らす女の子に視線を戻し、アオイは雷の精霊を呼び出す。突然現れた精霊に、迷子は目を丸くして驚いた。
「この子はチリシィって言うんだ。精霊だよ」
「初めて見た!」
迷子がおそるおそるチリシィに触れると、静電気で髪の毛が一気に逆立つ。その様子をランファから預かった手鏡で見せてあげると、鈴を転がすような声で笑い出した。
「アオイくん。迷子のお嬢さんの保護者がお見えになった――」
顔を覗かせた兵士が言い終わるより早く、女性が1人天幕に飛び込んでくる。
「ああ!良かった……!」
心底から安堵した声とともに、迷子の母親は女の子をしっかりと抱きしめた。笑顔を見せていた子どもも、少しだけ涙ぐんで謝罪する。
「ありがとうございました」
深々と頭を下げる親子を見送り、手を引いて人混みに消えていくその姿を、曖昧な表情でアオイは眺めていた。
「アオイ」
ふと声をかけられて、アオイは我に返る。振り返ると、ガロードが手招きしていた。
ガロードの険しい顔つきから嫌な予感を覚えつつ、アオイは天幕を出る。天幕の外には、ものものしく武装した兵士たちが立ち並び、それを率いるように豪奢な衣服をまとう男が立っていた。
「アルマくん――」
口から漏れそうになった声を押し留めると、アオイは慌ててガロードにならって跪く。
「緊急時だ。今は楽にしてくれ」
「はっ」
ガロードが答え、立ち上がったのを見てから、アオイも立ち上がる。
「改めて、避難誘導の協力に、ガンダルフ領を預かる者として感謝を。正直な話、猫の手でも借りたい状況だったからな」
「滅相もございません。我々としても、学院所属生徒の緊急事態とあれば手を貸さない道理はありませんので」
ガロードは正式には学院所属ではないが、今回の応援のため、便宜上そういうことになっていた。アルマは頷くと、そこで初めてアオイに目を向ける。
「……本題に移ろう。アオイを借りたい」
「……理由を伺ってもよろしいですかな?」
ピリッと空気に電気が走ったようだった。アオイは静かに固唾を飲む。




