実戦訓練-10
「大丈夫?」
ランファの問いかけに、アオイは頷きを返す。
喉を一突きされたような違和感が未だに残り続けているようで、アオイは首を掻き毟るのを止められなかった。
事実、幻覚結界内の中での出来事だったとは言え、アオイは首を剣で抜かれている。この気持ち悪さは当分消えないな、と暗い気持ちになっていると、ランファが無理やりアオイの手を首から剥がした。
「あーあー、そんなに引っ掻くから。赤くなっちゃってる」
「え、そんなに?」
ランファが持ち合わせていた軟膏を塗ると、アオイは確かにヒリヒリと患部が痛むのを感じる。
「……気をつけます」
お礼と反省を述べ、アオイは眼帯に触れた。ここ最近の訓練によって、アオイの目に変化が訪れていた。
眼帯越しに視界が開け、アオイの望む情報──敵性存在の反応を的確に掴み取る。
上下二つに分かたれたアオイの左目は、ミルティの治療後、魔力をよく吸収するようになってしまっていた。今の眼帯は、過剰吸収を抑えるためのものとしてシオンから貰ったものであり、アオイは己の目を利用することになるとは露にも思っていなかった。
(さすがに何度も死ぬような状況に陥ってるからなあ)
アオイは自分の変化を、ある種の極限状態に置かれた時の、リミッターが外れた状態であると結論づける。
位置を確認したアオイは、再び眼帯に触れて目を休ませた。
「行こう。こっち」
「はいはーい」
初めのうちはおっかなびっくり付いてきていたランファも、アオイを信じてぴたりと追従するようになっている。
2人のうちどちらかがやられると巻き戻される性質上、そうせざるを得ないという理由もあるにはあったが。
それでも、アオイはランファからの確かな信頼を感じていた。
「……いた!」
2人がガロードの元へ走り込むと、ガロードは頷く。
「だいぶ早くなったな。この分なら、実際の戦場に放り込まれても生還はできるだろ」
アオイとランファは安心したように一息つき、拳を重ねた。
「さて、それじゃあお前たちが何をしたいのか聞こうか?」
だからこそ、ガロードに言われた言葉を、即座に理解することはできなかった。しばらく目をぱちくりさせていたアオイは、その意味を察するとともに少し青くなる。
「……えーと、つまり、僕たち、一番肝心なところはまだなにも出来てない……?」
ランファがアオイの言葉に瞠目する。だが、すぐに納得したように目頭を指でつまんだ。
「あー……いや。うん。そりゃそうだよね……。アタシたち、最悪実精霊相手にして生き残らなきゃいけないものね……」
「……実精霊?」
ガロードまでもその表情を強張らせたのを見て、アオイたちは所在なさげに目をそらす。
ガロードは何か言いたげに口を開けたり閉じたりしていたが、やがて目をつむり、腕を組んだ。
「期限は?」
「あともう2週間もないです」
アオイが淀みなく答えると、ガロードが不思議そうな目を向ける。そんな2人の間に、一陣の風が吹き抜けた。
「ボクのことだからね、ボクが一番よくわかってる」
その声を、その風を感じて、ガロードは思い切り顔をしかめた。
「おいおい……オーバーワークってレベルじゃねえぞ、ロイ師」
ガロードのつぶやきは、トリアイナの風によって誰にも届かずにかき消える。
「ずいぶん老けたね、ガロード」
トリアイナはにこやかに話しかけた。




