実戦訓練-9
「……」
アオイは傾斜に身体を横たえ、呼吸を整えながら周辺の気配を探った。確かめるように、出来る限り動くことなく、何度も、何度も繰り返し確認する。
周辺が安全だと確信してから、アオイは静かに場所を変えると、大岩を背に中腰の姿勢で隠れた。
「今のところ接敵なし。順調……なのかな」
幾度となく剣戟を浴び、矢を受け、落とし穴に落とされ命を落としかけては初めに巻き戻されたアオイは、ここがどのような場所なのかを理解していた。
「これは確かに大事な訓練かも……。ゴールが見えないけど」
小さくぼやきながら、上がった呼吸を再び整える。緊張や運動による呼吸の乱れではなく、効率よく酸素を取り込むため、アオイはわざと呼吸の間隔を短くしていた。
(魔法の使用は悪目立ちする可能性が高い。徹底して機会を減らして、戦闘を避ける。やればできるもんだ)
ガロードに言われたことをぼんやりと反芻しつつ、アオイは荒野に目を向ける。
舞う土埃の匂いも、乾燥した空気も、全てが現実のものに思えてならない。しかし、アオイが一度土を掴めば、それらは光の粒となって宙へ還っていった。
「やっぱり全部魔力だ……。どんな人なんだ、あの人は」
アオイは岩陰を飛び出すと、左方向にある傾斜に身体を滑り込ませる。
幾度となく視覚、聴覚、そして魔法での索敵を行なったが、この辺りにはもう敵の影は認められなかった。
「…………」
アオイは万が一に備えて、再び傾斜から顔だけを出して警戒する。気が済んだアオイは、今度こそ遮蔽から身を躍らせて駆け出した。
(たぶん……こっちだ。魔力の流れが集中している)
土埃をかき分け、耳と目に神経を集中させながら走り続ける。土埃が途切れると同時に、アオイも歩を緩め、その中心へと分け入った。
「お」
ガロードがいる。アオイは安心半分、警戒半分の顔のままガロードににじり寄った。
「俺は本物だ。よくノーヒントでここまで来れたな。しかも思ってた以上に早い」
「……やっぱりあなた、教えるの下手くそですよ」
不満たっぷりのアオイの声に、ガロードは苦笑して頭を掻く。
「まあ、大事なことはなんとなくわかった気がしますけど」
警戒を緩め、アオイは服のしわを伸ばし始めた。
そして、次の瞬間、危なげなくガロードの奇襲を受け止める。
「……なるほど、悪くない」
頬を膨らませて抗議するアオイの頭を優しく撫でているところに、息を切らせたランファが現れた。
「はぁ、サイアク!服汚れるし砂口に入るし!ぺっぺっ!」
「おう」
ガロードがしげしげとランファを眺めていると、ランファは身を守るようにガロードから距離を取る。
「……え、何すか?目つきやらしいんですけど」
ガロードは苦笑を返すと、言いかけた言葉を飲み込んだ。
「まあいいか。とにもかくにも、まずは基礎訓練の突破をほめよう。よくやった」
子どもたちはまるで喜ばず、ガロードの顔を見つめる。
ガロードはその顔を見つめ返し、高揚から口元をほころばせた。
「今日はこの次のステップまでを教えよう。あとはひたすらに反復だ。いいな?」
「「はい!」」
アオイとランファの返事が唱和する。
(なかなかどうして。子どもってのは、まあ───)
ガロードは眩しさの裏に潜む感情を隠して、二人に微笑みかけた。




